第18話 来ちゃった

 来ちゃった、じゃないだろー!

 先生、突然の訪問は貴族のマナー的に良くないんじゃなかったんですか?

 私のマナーまだ完璧じゃないっぽいんだけど、この面会って、王女命のアルベルトも了承してるの? 

 内心動揺しまくりだけど、来てしまったからには会わないわけにもいかず。

 

 エレナに急いで身だしなみを整えてもらってから、隣の応接室に移動することになった。

 私の服はどれも公式の場での王女謁見レベルではないそうだけど、手持ちがない。

 じゃあ時間かかっても取り寄せて用意すればいいかと思えば、待たせるのもNGらしく。

 今回は非公式なので、持ち服の中で一番格式の高いドレスで許してもらえるということで、超特急で着替えた。


「お、お待たせして、申し訳ございません」


 たどたどしい私の言葉に、すでにイスに腰掛けてお茶していた王女様がにっこりと微笑んだ。

 おおぅ。丸いけど、今日もめっちゃかわゆい。

 本日の王女ドレスは若草色で、ビアンカ姫の色白金髪緑目にとっても似合っている。ティアラは王太女のものなのか、前と同じデザインだ。

 

 王女様の横には、ここ一ヶ月お世話になりっぱなしのルチア先生まで座っていた。


 げ? もしかして抜き打ち試験ですか?


 ひぃいいい、と叫びたいのを我慢して、私は王女様の近くで腰を折る。


「王太女殿下、お目にかかれて光栄です」


「こちらこそ。突然の訪問ごめんなさいね」


 どうぞお座りになって、と気軽に同じテーブルを勧めてくれる。


 うぅ。確か、上位の方からのお勧めなら座ってもいいんだよね?

 なんとか練習通りにエレナの補助のもと優雅に座ると、王女様からいつかのアメを器ごと差し出された。

 ルチア先生を見ると頷かれたので、ひとつとって口に入れる。

 今回は倒れなかった。

 良かった。さっそくお茶会のマナー的にどこを褒めようかと考えていると、先に王女様が口を開いた。


「まだ言葉が十分ではないとうかがったので、ゆっくりお話したいと思い、翻訳アメを用意いたしました。今回の翻訳アメの効果は短いものなので、ユリアの学習に支障をきたさないと思います。その、この機会を逃すと、直接お話しすることもできないかと思い、強引に来てしまいました」


「お気遣いありがとうございます」


 翻訳アメ、マジで助かります。

 アメなしだと、術使い候補くらいの語彙力しかないし、文法は微妙だし。王女様相手に粗相はしたくない。

 地下牢での初対面時は王女様と一言しかお話ししなかったのでわからなかったけど、向かい合って話すのを見る限り、この子かしこそうだ。

 十歳になったかならないかだと思うのに、めっちゃしっかりしてるよ。


「不躾だとは思うのですが、どうしても確認したいことがあり、先生にも無理を言って一緒に来てもらいました」


 どうやら王女様の訪問は王女独断で、ルチア先生を巻き込んでのものらしい。

 後からアルベルトが怒りそうだな、とひやひやしていると。


「単刀直入にお聞きします。ユリアはヒトですよね?」


 えーっと?


 当たり前のことを聞かれたら、なんと答えていいのか困るもんだなー、とどこか他人事のように思う。

 というか、ヒトと思われていなかったことにビックリした。


「見た目はわたくしたちと変わりませんし、生活も同じようですし。先生や術使い研究所の報告では、むしろ高度な教育を受けているようだとありました。わたくしもユリアと話していてそう感じました。元の世界では姫であったのでしょうか?」


 うーん。どう答えたら正解なんだろう?

 そういえば、アルベルトからも似たようなこと言われてたよね。「高貴な方であったのかと思った」とかなんとか。


 王女サイドとしては「魔界からいつものように使い捨ての小悪魔を喚び出したと思ったら、もしかして高位の悪魔を喚んじゃった?」って感じなんだろうか。

 今までの事から、ぶっちゃけまったく王女サイドを信用できないので、正直に答えるべきかの判断ができない。

 判断つかない、信用できないなら、正直に答えるべきじゃないよね。

 

 うん。話をずらそう。


「私からも質問してよろしいでしょうか?」 

 

 にっこり笑った私にルチア先生は眉をひそめた。高位の方の質問に答えないのはマナー的にアウトですよね。わざとです、先生。

 幼い王女様は私に譲歩しているのか、腹を立てなかった。


「どうぞ」


「召喚、異世界品について、王太女殿下はどうお考えなのですか?」


「どう、とは?」


「私にとっての召喚とは、たとえばこのお城にある花瓶が他国に盗まれることです。王太女殿下が他国にさらわれることです。さらわれた王太女殿下はよくわからないままに、他国の王族と契約を結ばされ、自国のお城にある物を横流ししろと言われます。断れば命はないぞと脅されながら」

 

「ユリア様!」


 ルチア先生から咎められたけど、ここまで言ったら今更黙ったところで取り消せないし、私も止められない。


「今まで召喚されたヒトがどんな扱いを受けたのか、私は知りません。でも、きっと暴れたのではないかと思います。王太女殿下はどうなさいますか? 牢に入れられ、自分の大事な持ち物を奪われ、さらに自分の部屋にある物をもっと寄越せといわれたら」


「ビアンカ様、参りましょう!」


 青い顔になった王女様を、ルチア先生はぐいぐい引っ張って部屋から連れ出した。


 先生、途中退出はマナー違反ですよー。

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