第15話 2回目の召喚

 この世界のことを知りながら生活するのは、まるで良くできたゲームをしているみたいで楽しい。

 異世界エネルギーが発展途上中で、術の全貌が明らかになっておらず、新しい呪文を自分で発見できるとか面白いし。

 離宮で勉強して、研究所で子供達とわいわいやってると、まるで望まれて異世界召喚されたみたいに思える。

 『あなたの頑張りでこの世界は助かります』そう言われているように感じていた。


 でも、違う。


 昼過ぎ、私を研究所へ送るために来たアルベルトが「明日は午前から来ますね」と言った。

 ようやく王女様と謁見できるのかと思ったら。


「ユリア様、明日は召喚の儀を行います」


 そうだった。

 私は、異世界品を召喚するための媒体だった。

 

「召喚する異世界品を考えておいてくださいね」


 王女に名前をとられて契約した私に、否やは許されない。

 私のライフ数である異世界品数のカウントダウンは止められない。

 かといって、頑張るのをやめたら、媒体としての役目を果たせないのなら、即使い潰される。

 

「……わかりました」


 私やまりあさんが好きなものは絶対に召喚したくない。

 家電ならまぁ許せる範囲だから、次も家電にしようと考えてはいた。

 テレビが高エネルギーなのは意外だった。毎日使っているからエネルギーが高いとか?


 翌朝、儀式の間では前回と同じように、召喚術を行う四人の術使い、その外を騎士達が囲い、二重の円を描いている。

 異世界服を着ている方が元の世界とつながりやすく召喚しやすいということで、懐かしの白いふわもこルームウェアを着て裸足になった私は内側の円の一部になる。

 着替え中とかお風呂中とか、裸で召喚された人がいたら大変だっただろうね。ルームウェアでも着ててほんと良かったよ。

 

「いいですか? 始めますよ?」


「はい」


 術使い達が異世界品を手にして【繋がれ】と願う。

 目を閉じた私の頭の中には、懐かしいマンションのリビングが広がった。


 うちのマンションはリビングダイニングという、台所も同じ空間にある造りだ。

 ダイニングも見えるかな? と考えると、視界が動いてダイニングが見えた。


 よし! 今回は、これだぁ!


 毎日使う、ないと困る、かなり重要な家電、炊飯器!

 ぐっと引っ張られる感覚がして、円陣の中に見慣れた炊飯器が現れていた。


「おぉ!」

「お?」

「あれ? ん?」


 なぜか反応がかんばしくない。

 エネルギー量を計測する術を使っていた術使いが、がっかりした声を上げた。


「これには、ほとんどエネルギーがありません」


 なんで?

 こだわりの家電で大事にしているし、毎日それなりに感謝もしてるから、執着がないってことにはならないと思ったんだけど。


 術使いの一人が遠慮がちに提案した。


「あの、アルベルト様、今からもう一度、召喚してもかまいませんか?」


「かまわないが……続けて召喚できるのか?」


「はい。今の召喚にはそれほど力を使わなかったので、あと一回くらいはできそうです。なぁ?」


 他の術使い3人もうんうんと頷いている。


「ユリア様、どうされますか?」


「……やります」

 

 今の提案は私のためにしてくれたはずだ。

 やらない選択肢なんかないっての。


「では、お願いします」


 炊飯器はすでに別の騎士が円の外側に持って行った。

 召喚の邪魔にならないようアルベルトも私たちから離れると、術使い達は再度【繋がれ】と願った。


 考えろ考えろ考えろ!

 私に召喚する媒体の価値がなくなったら、私自身が異世界品として扱われることになる。

 ライフ数が一気になくなるのは嫌だ!


 焦った私は、リビングのテーブルに置いてある携帯音楽プレイヤーを目にして、あぁゆっくり音楽を聴きたい、と思った。


「おぉ!」

「す、すごい!」

「あふれている!!」


 選んだつもりはなかったのに、円陣の中には携帯音楽プレイヤーが現れていた。

 術使い達は嬉しそうだけど、アルベルトの声は硬かった。


「これは……厳重に扱わねばなりませんね」


 携帯音楽プレイヤーから、なにかがもやもやと漂うのが私にもはっきり見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る