第10話 離宮にて
アルベルトさんと話している間に、新しい部屋があるという離宮に着いた。
そう。離宮だった。
どこの迎賓館だ、という優美で豪華な建物がそびえ立っている。
「あの、アルベルトさん」
「アルベルトで結構ですよ」
「アルベルト、あの、ここは大きすぎませんか?」
「いいえ。こちらに姫様がいらっしゃることを考えるとギリギリなくらいです」
「え?」
詳しくは中で話しましょう、と建物の中へと案内される。
「初めまして、ユリア様。わたくしはユリア様専属侍女になります、エレナです。なんでもお申しつけください」
「ユリア様。わたくしはパオラです。この離宮の管理をしております。よろしくお願い致します」
離宮に入ったところで、クラシカルなメイド服を着た侍女二人が挨拶してくれた。
エレナは可愛いお姉さんタイプで、パオラはバリバリキャリアウーマンタイプだ。
「とにかくユリア様に服を頼む。終わったらこちらに来てくれ」
「かしこまりました」
アルベルトにエレナは礼をして、私を連れて新しい部屋へと案内してくれた。
後ろでは、パオラがアルベルトと離宮の安全性について話し出した。
三階にあるという新しい部屋につき、簡単に部屋の説明をしてくれた後、寝室でエレナは小首を傾げた。
「ユリア様、お好きな色はございますか?」
「特にありません」
「承りました」
きらん、と瞳を輝かせたエレナは、私を寝室の大きな鏡の前に立たせると、隣の衣装部屋から持ってきたドレスに手際良く着替えさせ、イスに座らせてからは髪を結い上げ、化粧を施した。
エレナさんの技術、マジ凄。
まさかこんな所で「こ、これが私……?」を体感できるとは思わなかった。
薄紫のドレスとエメラルドのような石飾りが、黒髪と肌色を神秘的に魅せて、まりあさんレベルには届かないながらも、どことなく、まりあさんみを感じて、鏡に見入ってしまった。
「大変お可愛らしいですわ」
「あの、ありがとうございます」
やりきった感のエレナにとにかく心からお礼を言った。
一階の広間に下りると、パオラの手ですっかりお茶の準備が整っていた。
アルベルトが私を見て驚いたように目を見開いたけど、特にコメントはない。
うん。麗しいビアンカ姫に比べたら普通だよね。
私が席に着くのを待って、アルベルトが口を開く。
「今まで召喚された異世界人の多くが男性でした。女性は珍しいのです。しかも、ユリア様を見極めようにも、貴女からこちらに話しかけることはなかった」
あはは。こっちから話してたまるかって思ってたからね。
「それで見極めに時間がかかってしまったのです。見極めに協力した騎士たちもなぜかそれぞれ意見が違いましてね」
なんでだろ? 歌のせいで印象も違ったのかな?
「その、おそらく文化の違いだとは思うのですが、人前で歌うことを、こちらの淑女はしないのです。手足を出した服を着ていたこともあり、初めは色を売る方かと思い、様々な騎士を差し向けましたが、どうやらそうではないとわかり」
顔に自信のある騎士ばかりそろえたのに声がかからなくて、騎士達は気落ちしましたね、とアルベルトが苦笑する。
ああー。なんか色々納得したよ。
三ヶ月と無駄に長い地下牢生活は、異世界のものが抜けるのを待ってもいたけど、一番の理由は私が話さなかったからだったとは……どんな自業自得。
ころころ変わる騎士達は、どの男なら私が手を出すか調べるためだったって……ないわー。不順異性交遊、ダメ、絶対!
騎士達が気落ちしてたのって、きっと騎士達の間で、誰が最初に私を落とすか賭けでもしてたんじゃないかな?
「さすがにこれ以上引き伸ばすわけにもいかず、いざ話してみれば、丁寧な口調で落ち着いているので、高貴な方だったのだと思いました」
うーん。高貴ではないかなー。
「術使いからは術使いの素質があると報告もあり」
それは私もびっくりした。
「以上のことから、姫様がユリア様に興味を持たれたのです」
そうだった。ビアンカ姫は私のなにが気になったの?
初めて会った時は、そんなに熱心でもなさそうだったよね?
会話らしい会話なんかしてないし。
「異世界人との契約は一対一で行うものです。姫様は第一王女ということで、本来なら選択権が優先されるのですが……」
初めてアルベルトの声が曇った。
「現在、姫様には異母妹と異母弟がいらっしゃいます。姫様の母君は亡くなり、弟妹の母が正妃になっている今、弟妹の力の方が強くなってしまいました。異世界人との契約の話も、本来なら姫様が優先され意思も尊重されるところですが、長い見極め期間に異母弟妹が契約を嫌がったため、姫様に押しつけられる形で、ユリア様の契約者が姫様になったのです」
なるほど。
つまり旨みがなさそうな異世界人とは契約したくないってことですね。
勝手に
「ですが、今思えば、それは幸運でした。貴女は大変よい異世界人に見受けられます」
なにを見てそう思ったんだろ?
「さきほど、着飾った貴女を私は褒めませんでした。エスコートもせず椅子も引かなかった。でも貴女は気を悪くした様子もない」
え? そこ?
私は、アルベルトはビアンカ姫を見慣れているから、私ごときが着飾ったところで褒めるレベルじゃなかったんだなと思ってたんだけど。
「異世界に一人で来ても泣きわめく様子もなく、淡々と現状を生きることができる貴女は、今の姫様の話し相手にふさわしいと思われます。ですから、どうか、姫様の力になって欲しいのです」
騎士達も貴族達もかなりの数を異母弟妹にとられた今、姫様の味方が少しでも欲しいのです、と熱く語り、瞳を潤ませるアルベルトに、さすがの私もこれしか言えなかった。
「……善処します」
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