第8話 初めての召喚
術使いのお兄さんが憐れ過ぎて、なんとかしてあげたくなった。
でも、まずは自分のこの状況をなんとかしなくちゃなんだよ。
てかお兄さん、清める術を私にかけ忘れてるし。
色々考えていたら朝になってた。
「行きますよ」
いつもなら朝食後すぐ帰る騎士が、朝食を終えた私を地下牢から連れ出した。
白いふわもこルームウェアのままだけど、裸足だった私に紐でとめる皮の柔らかい靴をくれた。
召喚のために、私が呼び出された場所まで歩くからだ。
どうやら召喚する場所は決まっていて、毎回そこで儀式を行うとか。
召喚自体は術使いが力を使ってくれるので、異世界人の私は物を指定するだけでいいらしい。
大きさは関係なく、品物にこめられている力が重要なので、品物の選定は異世界人に
見覚えのある石造りのホールのような場所には、すでに騎士達と術使い達が待機していた。
術使い達4人の円陣に靴を脱いだ私も入ってひとつの円になると、騎士達が外側を囲った。
床に魔方陣でもあったらじっくり見ようと思っていたのに、特になにも書かれていなかった。来たとき混乱してたから見逃してたわけじゃなかったのね。
円陣の4人の中にいつもの清めの術使いはいない。
知らない術使いが声をかけてくれた。
「初めは成功すればいいので、そんなに緊張しなくていいですよ」
いや、緊張するだろ。
成功しなかったら自分が使い潰されるって知ってるんだぞ。
それに私はまだ、どの品物を指定するか決めかねていた。
まりあさんの選んだ小物はなるべく避けたい。
DVDとかメディア類ならまた買えばいいけど、なんかヤダ。
写真はもっと嫌。
たぶん私は、この世界の人に自分の大事な物を見られたくないんだ。
どれならマシかな?
カーテン? なんか力なさそう。
イス? ダメだ、テーブルセットもまりあさんのお気に入りだ。
力ありそうだけど、まりあさんのお気に入りじゃなくて、私が見られてもかまわない物って……あ!
「いいですか? 始めますよ?」
「はい」
騎士の声に私は頷いた。
術使い達が召喚用の記載がされているだろう異世界品を手に、【繋がれ】と願う。
私の頭の中に、懐かしいリビングの様子が浮かんできた。
大丈夫。ちゃんとある。これだぁ!
ないと困るから大事にしてるけど、他人に見られて困らない、むしろ見るためのもの。
ぐぐっと引っ張られる感覚がして、円陣の中に70インチの薄型テレビが現れていた。
「おぉ!」
「成功ですね!」
「すごい!」
術使いや騎士達が大興奮している。
「これだけあれば、防衛に使っている異世界品すべてと交換できそうだ」
異世界エネルギーを測定していた術使いが感動している。
良かった。エネルギーもあるっぽい。
このテレビ、毎日大活躍してたもんね。
「今回の異世界人は素晴らしいな」
「次も期待できそうだな」
問題は、召喚は一回だけじゃなくて続くってことだ。
私を連れてきた騎士に聞いてみる。
「次はいつ召喚するんですか?」
「そうだな……今回の異世界品はエネルギーが大きいから、しばらく行わないだろう」
「わかりました。あの、私が術を勉強することは可能ですか? 術を理解していた方が協力できると思ったのです」
「……それはこの場では答えかねるが、上に聞いておこう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「では、戻ろうか」
「はい」
靴をはいて騎士と一緒に歩き出す。
ハキハキ話す良い後輩スタンスを私は続けている。
そう。
協力者のふりをして、まずは地下牢から出るんだ。
異世界人の意地を見せてやる!
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