第2話 地下牢生活はじめました

 結論から言うと、地下牢生活は快適でした。


 思わずR18な展開も危惧したけれど、なくて良かった。拷問展開もなくてマジ良かった。

 あ、もちろん地下牢じゃなければ、もっと快適だとは思う。

 でも牢にしては清潔だし、上げ膳据え膳だし、いちおう日本と似たトイレが牢の端に個室であるし。

 書く物も読む物もないけど、机と椅子とベッドはあるし。

 お風呂も着替えもない(最初に着ていた白いふわもこルームウェアを着たきりだ)けど、毎日一回は魔法で体を服ごと清潔にしてくれるし。地下牢自体も掃除してるのは見かけないけど埃っぽくないから、清掃してくれてるっぽいし。

 月に一回の女子の日には、不思議な石を身につけていれば、どういう原理かわからないけど服が汚れないのはありがたい。

 そう。召喚(推定)されただけあって、この世界には魔法があるっぽい。

 そんな世界の住人が、私をどうしたいのか、わかればもっと動きようがあるんだけど。


 ずっと放置ってどゆこと?


 ご飯中と魔法風呂中は人がいるけど、それ以外は誰も来ないし見張りもつかない。

 他の牢に誰かいる様子もない。

 最初はどこの天国かと思ったけど、二日で飽きたし。

 暇すぎる。

 さすがに毎日食っちゃ寝はヤバい。


 初日と二日目はすぐに誰か来るか、隠れて見張られてるのかと気を張っていたけど。

 これはアレだねー。

 放置して、私から泣きつくのを待つ作戦っぽい。

 ただの根比べだとわかれば、私に負けるつもりはない。

 私から話しかける気なんてこれっぽっちもありませんが、なにか?


 動かないと病気になりそうだから、日課のエクササイズやヨガを、地下牢生活三日目から再開した。

 書くことも読むこともできず、話す相手もいなくて言葉を忘れそうだから、歌ったり、脳の老化を防ぐためにエアピアノを弾いたり。

 それにしたって一日が長い。長すぎる。


 歌っても特に文句を言われなかったので、発声練習も始めた。

 地下牢だけに、いい感じに響くのがちょっと嬉しい。


 毎日ご飯を持ってきてくれるのは騎士なんだけど、話しかけるどころか、私と目も合わさない。

 牢の鍵を開けてお盆にのせた食事を机に置き、時間がきたら下げるまで、ずっと黙って牢内に立っている。

 一度、これ食べなかったらどうなるんだろうと思って、食事に手をつけなかったら、なにも言わずに持って帰られた。

 配膳係は今わかっているだけでも21人が担当している。

 一日のうち朝昼晩でも人が違うし、続けて同じ騎士にならないようにローテーションを組んでいるのは、私と仲良くならないようにするためだろう。


 でも、歌っている時に当たると、まれに嬉しそうな目元になる騎士がいたので。

 聞いてもらえるように配膳のタイミングに合わせて、子守歌、童謡、唱歌、校歌、国家、演歌、最新ソング、外国語ソング、アニメソングと色々歌って好みを探り、ようやく騎士たちの口元が少し緩むようになった。

 その頃になると騎士の顔も見分けがついてきて、各々の好みも把握できてきたので、私の心の中では騎士をお気に入りらしい曲名で呼んでいる。

 

 毎晩、消灯時間前に、魔法使い(推定)が体を清める術をかけにきてくれる。

 魔法使いはずっと同じ人なので、魔法使い自体が少ないのかもしれない。

 寝る前のヨガ中に魔法使いが居合わせた時から、魔法使いはヨガに興味津々っぽかったので、タイミングを合わせてヨガをすると、毎回嬉しそうだ。

 騎士より魔法使いの方が感情がわかりやすい。さすが騎士、それでいいのか魔法使い。


 こんな感じでおよそ三ヶ月。


 まだまだ折れるつもりはないけど、まさか一生このままじゃないよね? 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る