第3話 お姫様と私

 おはようございます!

 最初は寝間着や他の服に着替えないことに戸惑ったけど、むしろラクじゃね? と最近思う。慣れって怖い。


 軽くストレッチして体をほぐしてから発声練習、歌を歌っていると朝食配膳担当の騎士が来る、はずなんだけど……来ない。

 いつもなら、何曲か歌ってあったまったくらいに来るはずなんだけど。


 え? ここでまさかの兵糧攻め?


 ヤバい。アリよりのアリだわ。

 環境に慣れたところでって作戦ですね。


 食事中ずっと見張られてたのも、食べ物を隠し持たないようにするためだったのか。

 あー、ヤバい。ヤバいわ~。

 根比べなら負けないけど、空腹には勝てる気がしない。一日も持たずに敗北しそう。


 とか考えてたら、違いました。


 昼に、騎士たちがぞろぞろやってきて一列に並んだ。

 金属の格子が魔法かなにかで一瞬で消されて、つ、ついに殺される、と身構えていたら、騎士たちの後ろから少女が歩み出た。

 西洋のお人形さんみたいなレースたっぷりドレスを着て、ティアラをつけた美しい王女様(推定)!

 金髪で緑の目、肌は抜けるように白くて頬はバラ色。足を運ぶ動きや指の仕草が美しくて、なんとも麗しい姫なんだけど。


 マシュマロ姫かってくらい丸い! 


 私は歌ってた姿勢のまま呆然となったので、格子に向かって立ち尽くしている格好のままの私に、マシュマロ姫は近づいてきた。


 騎士たちが姫を止めるかと思ったけど、いつでも私を刺せるように何人かが剣をかまえただけだった。

 マシュマロ姫は騎士の一人から小さいけど高そうな器を受け取ると、器を持ち上げ、私に中身を見えるようにした。

 器の中にはたくさんの丸いアメみたいなのが入っている。


 マシュマロ姫はその一つをつまんで姫自身の口に入れてみせた。そしてもう一つつまんで私に差し出す。


 食べろってことだよね?

 ……毒じゃないよね?


 受け取るのをためらっていると、マシュマロ姫はつまんでいた一つを近くの騎士に食べさせた。


 文字通り、マシュマロ姫の手自ら騎士の口に入れてあげるのに、びっくり。

 騎士は無表情だったけど、ほんのり目元が赤いから、あーんがデフォルトとかそういう文化でもないっぽい。


 毒ではなさそう、かな?


 マシュマロ姫はまたひとつつまんで私へと差し出す。

 とにかく受け取ればいいかと思って、落とさないように両手をすくうようにかまえると、マシュマロ姫は手を引っ込めて、口を開ける仕草をした。


 あーんで食べさせてもらわないとダメですか?

 かなり恥ずかしいんですけど。

 ためらってる間に、またマシュマロ姫は別の騎士に食べさせて、「わかった?」という風にこてりと首を傾げて私を見上げる。


 か、可愛い。丸いけど。いや丸いからこそ可愛いのか?

 意図はわかるけど、羞恥心が半端ない。


 マシュマロ姫は容赦なく、またひとつつまんで私に手を伸ばす。

 う、ううう。


 もうどうにでもなれーっ。


 私は少しかがんで、あーんと口を開けた。

 嬉しそうに笑ったマシュマロ姫は、ちゃんと私の口に入れてくれた。

 私の唇に少し触れた指先が柔らかくて、マジでマシュマロボディ~と思ったところで、私の意識はなくなった。 


 あれ? 私、姫に籠絡されてる?

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