僅かな変化

 猫カフェから帰った後、俺はどこか覚束ない感覚にいた。

 どこか、自分であって自分でないような。

 そういえば深く考えてはなかったけど、何故女性化したんだろう。

 訳知らぬ変化は、病院に行ったら解明されるんだろうか。



「かわいい~」



 最近はやけに聞く『かわいい』と言う母の声。

 俺は母に流されて初スカートを経験していた。

『猫代しおり』に寄せた衣装。

 トップスも似たようなパーカーだし、ワイシャツ風のブラウスも来てる。

 自身の容姿に興味のない俺でも、さすがにスカートの短さには慣れなかった。

 ただ、トイレに関しては普段着よりも機能性を見れば、悪くないのかもしれない。



「はい。カチューシャ! しおちゃん、こっち向いて~」


「んっ」



 パシャパシャとスマホで撮影会を開始する母。

 正直やめてほしいが、母の好きにさせる。



「じゃ~あ、次はしおちゃんと写真を撮ろうか!」



 スマホのカメラアプリを起動させ、レンズをこちらに向ける母。

 すると、カシャカシャと何枚か撮り始める。まあ、さすがにちょっとは察するけど……。

 やけに購入が多い私服の数々。Vtuberを始めた俺を見て、別の面でも思うことがあったのだろう。

 以前は、間違いなく誘わなかった外へのお誘い。

 そして、俺自身もちょっとだけ.……。

 本当にちょっとだけ、外への苦手意識が緩和されていることに気づいた。

 VRのリハビリのおかげもあるのかもしれない。



「お母さん」


「なあに、しおちゃん」


「他の服も着てみたい」


「っ! うん!」



 パァッと顔を輝かせた母が、俺を着せ替え人形にして楽しそうにしている。

 そんな様子を見るのは、悪くない気分だった。普通の家庭じゃ、味わえないこと。

 それは、俺の体というより性格が起因して、我慢を強要している。

 そういえば、母以外の人と喋ったのはいつぶりだろう……。

 女性化した影響で、俺の思考も若干変化しているのかもしれない。



「しおちゃん! 次はこっちを着てみて」


「ん……」



 いや……そんな理由じゃなくて、本当はもっと違うとこに、理由を求めていた。



 *



 夕方。第二回目の配信を敢行することに決めた。

 予定は『ゲーム実況』。口下手でもゲームをしてれば、何とかなる。

 そんな希望的観測が脳裏を掠めて、決定が下された。



『18時から、ゲーム実況します。来てください』



 端的な報告をSNSに投稿すると、ポツポツといいねがつき始める。

 先ほどの、ファッションショーの終わり。今は、『猫代しおり』の服装に戻されている。つまりはシンクロ率100%のライブ配信だった。



「勉強しよ……」



 配信を開始するまで、手持ち無沙汰な俺はSNSで他のVtuberを調べ始めた。

 目的はVRゲームの配信を行っているVtuber。『轟セッカ』

 俺のデビューより3か月ほど前から活動を開始した彼女は、個人Vの中でも人気が高い。

 ただ、かなりというか口調が砕けた感じで……何だかギャルっぽい。

 ああ、こういう明るく楽しそうな人って人気出るよね……って感じだった。

 俺は、最近の恒例で彼女のSNS投稿にいいねを付ける。純粋な応援の気持ちってこういう感情なのかな。

 不思議と、どこかデビューが近い彼女を、俺は特別視していた。

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半身不随のTSっ子Vtuberは夢を見る ここに猫 @nomoknoko

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