六、『生れ出づる悩み』

 本なら多分車内にあるよと、桜井は投げやりに言った。だが、他人の車を漁るのはなんだか癪だったので、青山は何もせず助手席の窓に頬杖を付いていた。木田金次郎美術館の売店にも『生れ出づる悩み』は無かったし、あったとしても桜井に強請って買ってもらうのは違う気がした。

 車は岩内の市街地を駆け上り、山の方に向かっていく。坂を上がると建物が減る分、囲む雪と針葉樹が増えていく。スキー場のゲレンデが間近に迫ってくる。岩内岳だな、と桜井が呟く。

 大きくカーブを回ったところで、木々の切れ間に岩内の港町と薄灰色の日本海が見えた。陸続きの地は積丹半島だ。明日、あの先端まで行くが、岬は霞んでよく見えない。ここからでは随分遠くに感じる。続くカーブを辿ると、すぐに景色は見えなくなった。

 生い茂る深緑の先で車は右折する。小道をぐるりと回って、ログハウス調の四角い建物の前で停まった。看板に旅館と書かれていたので、今日の宿泊先だとわかる。桜井はエンジンを停めて、運転席から降りる。バックドアを開けて、革製のボストンバッグと大きなクーラーバッグを取り出した。対して青山は殆ど手ぶらだ。首から下げた借り物のカメラと、携帯といくつかのリーフレットと、桜井から受け取った札束以外のポケットからはみ出るものは何も持っていない。

「桜井先生、ちゃんと荷物持ってたんですね」

「帰省ついでの小旅行だからな」

 しれっと言い放つ桜井に苦笑が漏れる。本当にただの小旅行なら後部座席に遺骨は乗せない。外窓から確認したが、派手なちりめん柄はしっかりと毛布に覆われていた。

 いつの間にか、紺のエプロンをつけた恰幅の良い男性の仲居が近づいてきており、にこやかに桜井の荷物を受け取っていた。薄氷の混じる砂利を歩き、三角屋根の玄関口から入ると、正面、ガラス窓のひらけたロビーが待ち受ける。桜井は一直線にフロントへ向かい、チェックインを済ませているようだったが、手持ち無沙汰な青山はつい辺りを見渡してしまう。

 ロビーのあちらこちらに、寒さの中でも新緑に茂る観葉植物や色鮮やかな絵画が飾られており、真正面、円錐形の黒いストーブの中で薪が爆ぜて、赤い火がぱちぱちと燃えている。暖かい空間の中では、空色のソファに腰掛け、浴衣を着た数人の客がグラスを傾けながら談笑しており、すぐ側にはグランドピアノや本棚、子供用のおもちゃまで置かれていた。正面の大きな窓から外を見通せるせいか、実際の面積以上に広く感じる。あまりの開放感に足が竦む。自分はお門違いではないか、という卑屈を久々に覚える。

「待たせたね。これから部屋に案内してくれるそうだ」

 桜井は青山に向けて、必要以上に晴れやかな声を上げた。さっき美術館で見せてきた我の強さは一体どこへいったのか。旅が始まってから意固地なところばかり見ているから、外面が良いことを忘れかけていた。仲居が見送る中、桜井と二人、ロビー側のエレベーターに乗り込む。狭いエレベーターの中で、溜息と共に本音が漏れる。

「……想像以上に良い宿で気後れしています」

「俺も久し振りだ。風呂と夕食、楽しみだな」

 桜井のここへの宿泊が初めてではないと知ったところで、ちょうどエレベーターがチンと鳴って扉が開く。そこには先程の仲居が桜井の荷物を持って立っていた。どうやら、こちらがエレベーターに乗っている間に階段を駆け上がってきたらしい。徹底されたホスピタリティに感服するが、やはり落ち着かない。

 仲居に案内されるまま、廊下を歩く。ふかふかの絨毯に足底が沈む。左下へと落ちる勾配天井から、ガラスを通した陽光が降ってくる。吹き抜けとなっていて、右側から一階のロビーが見下ろせる。部屋と部屋の間、美術館のように額縁に飾られた小さな風景画が飾られている。絵は印象派ではなく、写実的なものだった。

 こちらですと仲居が廊下の突き当たり、端部屋を開ける。踏込で靴を脱いでから襖を越えると、黄金色の畳が敷かれた二十畳程の和室が広がっていた。二人では優に余る程広い。

 右側は窓が大きく開けており、冠雪した岩内岳を裾野まで臨むことができた。窓際には、椅子の置かれた広縁があり、奥の壁には姿見鏡が据えられていた。広すぎる和室の中で、うろうろと戸惑う自分の姿が映り、途端に恥ずかしくなる。

 仲居が簡単に館内の説明を行う。大浴場は一階にあり、翌朝まで自由に利用できるそうだ。夕食は部屋食となり、食後、片付けの後に布団を敷いてくれるらしい。桜井は仲居に夕食の時刻を指定した。青山はスマートフォンで現在時刻を確認する。まだ、夕食までは数時間程の余裕があるようだった。

 ではごゆっくり、と仲居は部屋を後にする。一人減ることで殊更部屋の広さを実感する。桜井は軽く伸びをすると、仲居に運んでもらったクーラバッグを持ち上げ、窓際に設置された冷蔵庫へと近づき、その扉を開けた。

「青山君って、どんくらい飲めるの」

 クーラーボックスに詰められた保冷剤の中から、缶ビールが現れ、がこんがこんという音と共に次々と冷蔵庫にしまわれていく。止めどなく現れる酒に青山はぎょっとした。

「人並みには飲めますし、好きですけど。ってか、宿に酒持ち込んでいいんですか」

「うん。ここ、持ち込みオッケーなの素敵だよね」

 缶ビールを四本入れた後、さらにワインボトル、そして日本酒の一升瓶が現れた。だからそんなに大きなクーラーバッグだったのかと合点がいく。そちらが空になったかと思いきや、桜井はボストンバッグのファスナーを開け、琥珀色に輝くウイスキーのボトルを取り出して、冷蔵庫近くの机にどんと置いた。

「あんたどんだけ飲むつもりなんですか」

「余らせてもいいやのつもりで持ってきたけど、そういや青山君が下戸の可能性を全く考えてなかったなと今思った」

 桜井はにやりと笑い、トレンチコートを脱ぐ。そういやこの人、上着を脱ぐより先に酒を冷やすことを優先させていたのか。相当だ。

「飲めるのなら楽しみだ」

 おそらく、桜井は酒に強くとも、あんまり良い酔い方はしないだろうなという予感を抱く。襲い掛かるだろう面倒に辟易したが、それすら楽しみな自分がいることに気が付く。こんな良い部屋で吐かないでくださいよ、と青山は笑い返した。

 青と白の格子模様の浴衣を羽織り、火照った顔を手で扇ぎながらロビーへと戻る。檜造りの内風呂と、雪が積もる森林内の露天風呂は、大変良い湯だった。のぼせやすい体質なので、青山は早々に上がったが、桜井はまだ入ると言ったので残してきた。

 廊下を歩くたび、かぱかぱと下駄がカーペットに沈む。部屋の鍵は互いに持っている。夕飯は部屋食らしいので、先に戻っていてもいいだろう。そう考えてガラス張りのロビーを横切ったところで、グランドピアノの隣に飾られた、大きな絵が目に留まった。

 辺りのソファと似た空色の紫陽花の元で、白い服を着た少女が佇んでいる。その手には背丈よりも長い釣竿と、小さな赤とんぼがそっと握られていた。筆のタッチは柔らかく、少女をとにかく愛らしく描こうとしているのが伝わってきた。共和町出身の西村計雄という画家が描いた『童子』という作品らしい。四歳の我が子を描いた作品群の一枚だそうだ。成長の過程を絵に描いてきたと、説明にはさも当然のように記されている。

「西村計雄、お好きなんですか」

 青山は横を見る。片付けだろうか。泡のついたグラスを両手に持った、先程部屋まで案内してくれた仲居がそこに立っていた。

「……いえ、失礼ながら、今初めて知りました。共和町出身の方なんですね」

「はい。ここに飾る絵画は、どれもオーナーの物ですけれど。僕みたいな下っ端はラッキーと肖って、勤務の合間に盗み観ることができるんです」

 仲居はどこか照れ臭そうに笑う。先刻はあまり年齢を意識していなかったが、かなり若い男だった。同年代くらいに見える。途端に親近感が湧いた。頭を掻きながら、青山は答える。

「美術に関心があるのはすごいですね。自分なんか今日、初めてまともに美術館行ったんで。でも、すごくいいなと思ったんです」

「もしかして、木田金次郎ですか?」

「はい。すごく好きになりました」

 口にして今更気が付く。桜井の前では、ちゃんと言葉にできていなかったからわからなかった。自分は木田金次郎の絵に対して、純粋に感動していたらしい。

 仲居は穏やかに微笑み、告げる。

「西村計雄、共和町の方に単独の美術館があるんですけど、実はこの近くでも作品が観られるんです。ここからあと少し坂道を登ったところに、荒井記念美術館という美術館があるんです」

「荒井、記念美術館?」

「はい。画家単独の美術館ではなく、荒井利三という社長が、自らのコレクションを収蔵した美術館なんです。ピカソの版画や西村計雄の作品などが集められ、多数展示されています」

「ピカソって、あのピカソですか?」

「はい。あのパブロ・ピカソです。版画ですが、確か二百点以上はあるんじゃないかな」

 純粋に驚いた。積丹半島の外れの小さな町に、ピカソの作品がそんなにも眠っているのか。俄然、興味を惹かれる。

「あと、そもそも荒井社長が美術館を建てたのは、木田金次郎のためなんです」

「どういうことですか」

 仲居の言葉に耳を疑う。食い気味に尋ねた青山に、仲居はしたり顔でふふふと笑う。

「木田金次郎と言えば、有島武郎の小説『生れ出づる悩み』のモデル画家ですよね。荒井社長はそれを読んで、二人の師弟愛にいたく感動したんです。だから、木田金次郎がとどまって生涯絵を描き続けたこの岩内の地に何かを残したくなったらしくって。最初は木田金次郎の美術館を建てようとしたらしいのですが、ちょうどその頃、岩内町民の中でも木田美術館建設の話が持ち上がったそうです。じゃあ、木田金次郎の美術館は町にお任せして、木田金次郎が愛した岩内のためにもう一つ、美術館を建てようと考えてできたのが、荒井記念美術館なんです」

「木田金次郎美術館の設立に、そんな経緯があったんですか」

 頷きながら思い返す。桜井から荒井記念美術館の話は、一度も出たことがなかった。

「荒井記念美術館に木田金次郎の作品はありませんが、生れ出づる悩み展示室があります。北海道の画家たちが描いた『生れ出づる悩み』にまつわる絵画が、多数展示されているんです」

「そうなんですか」

「僕は純粋に西村計雄のファンなので、彼の作品を観てほしくて薦めているのですが、木田金次郎に関連する美術館ならば、お客様も気にいるかと思いまして」

 荒井社長は連携ホテルの先代なので割引券があります、とさらに仲居はにこやかに薦めてくる。青山は逡巡する。宿からそんなにも近いのならば、桜井は明日行く予定だったのだろうか。いや、もしかしたら荒井記念美術館の存在自体、知らないかもしれない。

 俄然青山は行きたくなっていたが、果たして桜井は行きたがるだろうか。どうしてか小説をこちらに読ませたがらなかった、拗ねた桜井の顔が浮かぶ。そもそも青山は、まだ『生れ出づる悩み』すら読めていない。渦巻く迷いの中、桜井の声が鮮烈に蘇った。

 選べないのは仕方ないと思っているけど、選ばないのは怒るよ。

 記憶の中の桜井は、青山を揶揄するようにパンを差し出している。あの時、桜井は否定していたが、やはりあれは馬鹿にされていたのだと、今になって確信した。

 だから、この誘いに乗らずに、自分の希望を無かったことにするのは選ばないことと同義だ。あの時も青山は、本当は腹一杯パンを食べたかったのだから。

「ください、二枚。二人で行くんで」

「かしこまりました」

 仲居は微笑む。その笑みに作為や打算は感じられない。ただ純粋に絵画を好いており、その喜びを分け与えたいだけのようだった。ではお待ちください、と去りかけたところで、あっと仲居は声を上げる。

「お客様も、ビールお飲みになりますか?」

「ビール?」

 青山は目線を下げる。西村計雄の絵の下、本棚と同じくらいの高さで、黒いビールサーバーが置かれていることに気が付いた。仲居が持っていたグラスもそのためのものだったのかと合点がいった。

「料金はお部屋付けになりますが、好きなものをお飲みいただけますよ。お飲みになった数だけ、伝票のお部屋番号の欄に正の字をお書きください」

 ビールサーバーにタップは四箇所備え付けられていた。サーバーの上には伝票と、本日のクラフトビールと書かれたメニュー表が置いてあり、ヴァイツェン・エール・ラガー・フルーツビアの四つが印字されている。どうやら、日替わりで飲めるクラフトビールの種類が変わるらしい。

「じゃあ、いただきます」

 今度は先程の美術館の割引券より迷わなかった。でっけえクーラーバッグを持参していた、桜井の酒好き具合を思い出す。あれだけ飲む気なら、先にビールの一杯や二杯飲んでいたところで文句は何も言われないだろう。

 仲居が新しいグラスと、荒井記念美術館の割引チケットを持ってくる。一杯目はお注ぎしますよと言われたので、青山はヘーフェヴァイツェンを選んだ。黄金色の麦酒がグラスいっぱいに注がれた。片手でビール、もう片方の手でチケットを受け取り、仲居に礼を言う。両手が塞がった青山の代わりに伝票を記した仲居は、ごゆっくりどうぞと微笑みながら去っていった。

 青山はソファに腰掛ける。やわらかいクッションが深く腰を沈めた。前方、ガラス越しの積雪を眺めながら、ビールを傾ける。唇できめ細やかな泡が弾けて、爽やかな苦味が喉に落ちていく。良い気分で飲みながら、視線を漂わせる。正面、ガラステーブルの中央にピンクの薔薇が生けてあった。青のソファの背景も相まって、木田金次郎の絶筆のバラの絵を思い起こす。

 風呂上がりということもあり、あっという間に飲み干してしまう。もう一杯飲もうと立ち上がり、ベリーのフルーツビアを選んで、伝票に二杯目の印を付けた。空のグラスをタップの下で四十五度程斜めに傾け、ゆっくりとハンドルを引いて注いだ。一杯目よりも濃く赤いビールがグラスをひたひたと満たす。

 ハンドルを縦に戻したところで、ビールサーバーの横、本棚に視線が移る。これも絵画と同じくオーナーの趣味なのだろうか。瞬間、息が止まった。本棚の端、背表紙の一つに『生れ出づる悩み』の文字を見つけたからだ。

 慌ててグラスをテーブルに置き、本を抜き取る。厚さ一センチにも満たない文庫本だ。表紙には、晴れた海と荒れた波の中、男が一人慟哭しているイラストが描かれている。現代に即した新装版だろう。だが、しっかりと有島武郎の著者名がある。

 青山は本を掴んで座る。既にビールの泡は引ききっていた。だが、気に留められない。薪の上、赤い炎が爆ぜる空間の中、青山は貪るように頁を捲り始めた。


 私は自分の仕事を神聖なものにしようとしていた——。

 「私」の苦悩から物語は始まっていた。芸術の宮殿を築き上げようと原稿紙に触れながら絶望する「私」は、筆を止めては窓の外を見て、「君」の事を思った。

 美術館で読んだ木田金次郎の年表通りだった。「君」すなわち「木本」が林檎園のそばにある「私」の家を訪ねて来る。そして乱暴に自身の絵を抜き出して置くのだ。「私」は「君」をいやに高慢な男だと思ったが、その幼稚な絵に不思議な力を感じて驚く。自分の仕事を軽蔑するように、下らない出来だけれどもと言う、いかにも思い昇った物腰の「君」の物腰に反抗を覚えて「私」は皮肉を言う。しかし十六、七では哺めそうもない「君」の絵の悒鬱に惹かれ、素直に褒めてしまう。ひとしきり批評を言った後で「私」は尋ねる。

『君は画をやる気なんですか』

『やれるでしょうか』

 「私」は黙っていた。専門家でもない自分が、少年の未来など決められないからだ。そして二人は別れ、「君」は画を描くために、岩内へと戻る。丁度その時は「君」と同様に「私」も一つの岐路に立ち、迷っていた時だった。だから「君」の事と自分の事とをまぜこぜに考えた。

 「私」は苦悩する。妻を持って、三人の父となった。永い信仰から離れて教会を退いた。やっていた仕事に段々失望を感じていた。ついに「私」は、捨て身になって身も知らぬ新しい世界に乗り出すことを余儀なくされた。それは文学者としての生活だった。今度こそは全く独りで歩まねばならぬと決心の臍を堅めた。この道に這入る以上は、出来ても出来なくても、人類の意志と取り組む決心をしなくてはならなかった。

 青山は本気で書いたことが無いから、文学者の心象はわからない。だが、有島武郎をきっかけに書き始めた桜井志春は、似たような高揚感と絶望感を感じたのだろう。

 「私」は呟く。 『あの少年はどうなったろう。自分を誇大して取り返しのつかない死出の旅をしないでいてくれ。若し彼に、独自の道を開いて行く天稟がないのなら、正直な勤勉な凡人として一生を終わってくれ。もうこの苦しさは俺一人だけで沢山だ』

 「君」を知ってから十年目、「私」の手許に一つの小包が届く。干魚のような生臭い油紙の包みからは、鉛筆のスケッチ帖が出てくる。山と樹ばかりの北海道の風景からは、本統の芸術家のみが見得る、描き得る深刻な自然の肖像画があった。続けて届いた手紙の中で「君」は思ったままを走り書いていた。

『山ハ色具ヲドッシリ付ケテ山ガ地上カラモレアガッテイルヨウニ描イテ見タイモノダト思ッテイマス』

 山が地上から空へもれあがる——それは素晴らしい自然への肉薄だ。誰も気のつかない地球の一角で尊い一つの魂が母胎を破り出ようとして苦しんでいる。そう思って「私」は手紙を読みながら涙ぐんだ。

 「私」は今の「君」に会ってみたくなって、すぐに旅行の準備をして上野駅からの汽車に乗り、岩内に手紙を出して、農場で「君」を待った。人間の造ったみじめな領土の中で。

 「君」を待つ「私」の元に、巨人の男が現れる。「君」ではなかったと落胆する最中、彼は、木本ですと名乗り、「私」を驚かす。悒鬱な少年時代の面影も、スケッチ帖で想像される鋭敏な神経の所有者らしい姿もない。筋肉で山のように盛り上がった肩と健康そのもののように引き締まった筋肉質な「君」の顔を見て「私」は無類な完全な若者だと感嘆した。

 「君」の大食は愉快に「私」を驚かし、二人は楽しく夜中まで語り合う。「私」は「君」の生活の輪郭を聞く。

 小樽をすら凌駕して賑やかになりそうな気勢をみせた岩内港も、さしたる理由もなく段々さびれていき、「君」の一家にも生活の苦しさが加わった。札幌で「君」が「私」を訪れた時、東京に遊学する道が絶たれていた「君」は、故郷に帰って、仕事の暇々に景色でも描くことをせめてはの心頼みにして札幌を去ったのだろう。

 しかし、そんな余裕のある生活はなかった。「君」はそれまでの考えが呑気過ぎたのに気が付いたに違いない。こんな生活の渦巻の中に、自分から飛び込んだのを、「君」の芸術的欲求は何処かで悔やんでいた。「君」は厚衣を羽織る身になって、明鯛から鱈、鱈から鰊、鰊から烏賊というように一年中北海の荒波や激しい気候と戦って、淋しい漁夫の生活に没頭しなければならなかった。鰊の群来が年々減って行く為に生活の圧迫を感じ、命がけで働くしかなくなり、君はすくすくと大木のように逞しくなった。それでも「君」は一冊のスケッチ帖と一本の鉛筆とを、仕事着の懐にねじこんでぶらりと朝から家を出るのだ。そして舟も出せない惨めな天候を物ともせずに、山の懐や畑の畦をさまよい歩くのだ。

『遇う人は俺ら事を気違いだというんです。けんど俺ら山をじっとこう見ていると、何もかもを忘れてしまうんです。誰れだか何かの雑誌で「愛は奪ふ」というものを書いて、人間が物を愛するのはその物を強奪るだといっていたようだが、俺ら山を見ているとそんな気は起こしたくも起こらないね。山がしっくり俺ら事引きずり込んでしまって、俺ら唯呆れて見ているだけです』

 次の日の朝「君」は発ち、また漁夫の生活へと戻っていく。「私」も農場から東京に帰る。東京の冬は過ぎたが、「君」の住む港の水は、まだ流れこむ雪解の水に薄濁る程にもなっていまい。無理にも春を呼びさますような売声を立てる季節にはなっただろう。

 この頃「私」は又妙に「君」を思い出していた。「君」の張り切った生活の有様を頭に描く。「私」が「私」の想像に任して、ここに「君」の姿を写し出して見る事を「君」は許すだろうか。

「『君』は、許すだろうか……」

 青山は本の文字を荒れた指でなぞって、そっと呟く。グラスを傾けビールを飲んだ。ぬるく淡い果実の苦味が喉へと落ちていく。

 桜井が執拗なほどに、有島武郎が許されるかを問うてきた理由は、おそらくこの文章から来ている。モデルにされた木田金次郎が『生れ出づる悩み』の連載を知って感じた、得体の知れないむしろ気味悪いような不安な気持ちは、果たして最後まで貫かれるのだろうか。

 さらに頁を捲ると「私」の想像上の「君」の漁夫としての荒々しい生活の描写が続いていく。淋しく物すさまじい北海道の光景、白波、風、漁夫達の喚き、暴れ狂う船——。

 読みながら青山は激しい目眩を覚えた。震える手が、網を引くあの感覚を思い起こしている。

 今、海の上にいるのかと青山は錯覚した。全部捨てた気でいた父の必死な顔を思った。暴力的なほどの描写に心から感服する。有島武郎は、きっと殆ど海のことなど知らない。それでも木田金次郎のことを思うだけでここまで書けた。悍ましいほどの思い込みだ。だから現実を消したんだ、と桜井の諦めた声が降る。

『死にはしないぞ』

 船の上、命が脅かされるたびに「君」はそう思う。怒った自然の前には、人間などと云う存在は全く無視されている。それにも係らず君達は頑固に自分達の存在を主張した。雲も風も海も君等を考えには入れていないのに、君達は強いてもそれ等に君達を考えさせようとした。

『死にはしなかったぞ』

 人間というものは生きるために、死の側近くまで行かなければならないのだ。謂わば捨て身になってこっちから死に近づいて、死の油断を見すまして、かっさらいのように生の一片をひったくって逃げて来るのだ。

 しかし、「君」は断えずいらいらして、目前の生活を疑っている。「君」は喜んで両親の為に「君」の頑丈な力強い肉体を提供している。「君」は目前の生活を決して悔やんでいる訳ではないのだ。それにも係わらず「君」はすぐに暗い心になってしまう。

『画が描きたい』

 「君」は寝ても起きても、祈りのようにこの一つの望みを胸の中に大事にかき抱いているのだ。その望みをふり捨ててしまう事ができないのだ。

『何んというしだらのない二重生活だ。俺はどっちの生活にも真剣にはなれないのだ。この一生をどんな風に過ごしたら俺は本統に俺らしい生き方が出来るんだろう』

 「君」を書く「私」は謂う。

 「君」はこんな自分勝手な想像を、「私」は文学者であるという事から許してくれるだろうか。それが中っていようが中っていまいが、「君」は「私」が茲にこうして筆を執るその目論見に悪意のないのを知っていてくれるだろう。そして無邪気な微笑を以て「私」の唯一の生命である空想の勝手次第に育って行くのを見守ってくれるだろう。「私」はそれに依頼して更に書き続けて行く。

 青山ははっとした。次第に境界は溶けて薄れているのだ。

 「私」と「君」と有島武郎と木田金次郎、それら全ての独白は混ざって、著者自身の叫びへと収束していく。小説という舞台を借りた自身の吐露だ。有島武郎は書くことを許してほしいのだ。他でもない木田金次郎に笑って許してほしくて、そして何より、自分自身に許されたがっている。

 鱈の漁獲は一先ず終わって、鰊の先駆もまだ群来て来ない。「君」は手慣れたスケッチ帖と一本の鉛筆を持って家を出る。陸の果てを見つけたので、がむしゃらに本道から道のない積雪の中に足を踏み入れる。「君」は山の一つの皺にも「君」だけが理解すると思える意味を見出そうと努めた。そして自分の心持を一際謙遜な、執着の強いものにし、粘り強い根気で如何かして山をその儘画帳のなかに生かし込もうとする。自然は絶えず新しく蘇っていく。

 そして靄とも云うべき薄い膜が「君」と自然との間を隔てはじめた。「君」は思わず溜息をついた。云い解きがたい暗愁——それは若い人が恋人を思う時に、その恋が幸福であるのにもかかわらず、胸の奥に感ぜられるような——が不思議に「君」を涙ぐましくした。「君」の心はまだ夢心地で、芸術の世界と現実の世界その淡々しい境界線を辿っているのだ。そして「君」は歩き続ける。

 「君」は町に戻り、友人に絵を見せる。友人は絵を褒めるが、「君」の心の中には苦い灰汁のようなものが湧き出て来るのだ。漁にこそ出ないが、漁夫の家には一日として安閑としていい日はないのだ。今日も、「君」が一日を画に暮らしていた間に、「君」の家では家中で忙わしく働いていたのに違いない。「君」は理屈では何等恥ずべき事がないと思っている。しかし実際では決してそうは行かない。芸術の神聖を信じ、芸術が実生活の上に玉座を占むべきものであるのを疑わない「君」も、その事柄が「君」自身に関係して来ると、思わず知らず足許がぐらついてくるのだ。

『俺が芸術家であり得る自信さえ出来れば、俺は一刻の躊躇もなく実生活を踏みにじっても親しいものを犠牲にしても、歩み出す方向に歩み出すのだが……。家の者共の実生活の真剣さを見ると、俺は自分の天才をそう易々と信ずる事が出来なくなってしまうんだ。俺はこんな自分が恨めしい。そして恐ろしい。皆はあれ程心から満足して今日今日を暮らしているのに、俺だけはまるで陰謀でも企んでいるように始終暗い心をしていなければならないのだ。如何すればこの苦しさこの淋しさから救われるのだろう』

 「君」は絵を褒めてくれた友人の前でそう思うが、友人も「君」の心を解った上で、黙っている。そのうち友人の父に長座を疎まれ、「君」は立って行った。独りになると段々暗い心になり増るばかりだった。「君」の眼からは、突然「君」自身にも思いもかけなかった熱い涙がほろほろとあふれ出た。何事を見るにつけても「君」の心は痛んだ。そこいらから起こる人声や荷橇の雑音などがぴんぴんと「君」の頭を刺激する。さっさと賑やかな往来を突きぬけて漁師町の方へと急ぐ。しかし「君」の家が見え出すと「君」の足はひとりでにゆるみ勝ちになって、「君」の顔は知らず識らず、猶低くうなだれてしまった。

『駄目だ』

 「君」は自分でも何処をどう歩いたか知らない。やがて「君」自身が自分に気が付いて「君」自身を見出した所は海産製造会社の裏の険しい崖を登りつめた小山の上の平地だった。

 全く夜になってしまっていた。冬は老いて春は来ない。星は語らない。風が落ちたので凍り付いたように寒く沈み切った空気は、この海のささやきの為に鈍く震えている。

 「君」の心の中には先程から恐ろしい企図が眼ざめていた。それは今日に始まったことではない。

 その恐ろしい企図とは自殺する事なのだ。

 深みに行く程「君」の心は感じを強めながら、最後には死というその冷たい水の表面に消えてしまおうとしている。「君」の頭が痺れていくのか、世界が痺れていくのかほんとうに判らなかった。恐ろしい境界に臨んでいるのだと幾度も自分を警めながら、「君」は平気な気持ちでとてつもない呑気な事を考えたりしていた。

 脚の下遠く黒い岩浜が見えて波の遠音が響いて来る。唯、一飛びだ。それで煩悶も疑惑も奇麗さっぱり帳消しになるのだ。

 突然「君」は跳ね返されたように正気に帰って後ろに飛び退ざった。耳をつんざくような鋭い汽笛の音響が「君」の神経をわななかしたからだ。

 もう自然はもとの自然だった。熱い涙が留度なく流れ始めた。「君」は唯独り真夜中の暗闇の中にすすり上げながら真白に積んだ雪の上に蹲ってしまった、立ち続ける力さえ失ってしまって。

 君よ‼︎

 君の談話や手紙を綜合した僕のこれまでの想像は謬っていない事を僕に信ぜしめる。しかし僕はこの上の想像を避けよう。

 君よ。しかし僕は君の為に何を為す事が出来ようぞ。君のような人が芸術の捧誓者となってくれるのをどれ程望んだろう。けれど僕は喉まで出そうになる言葉を強いて抑えて、凡てを擲って芸術家になったらいいだろうとは君には勧めなかった。

 それを君に勧めるものは君自身ばかりだ。それは痛ましい陣痛の苦しみであるとは云え、それは君自身で苦しみ、君自身で癒さなければならない苦しみだ。

 君が一人の漁夫として一生を過ごすのがいいのか、一人の芸術家として終身働くのがいいのか、僕は知らない。そして僕は、この地球の上のそこここに君と同じ疑いと悩みとを持って苦しんでいる人々の上に最上の道が開けよかしと祈るものだ。この切なる祈りの心は君の心の上を知るようになってから僕の心の中に殊に激しく強まった。

 君よ! 今は東京の冬も過ぎて、梅が咲き椿が咲くようになった。太陽の生み出す慈愛の光を、地面は胸を張り拡げて吸い込んでいる。

「春が来るのだ——」

 祈りは声として漏れ出ていた。

 最後の行まで読んだところで、青山は本を開いたまま、ゆっくりと視線を外界に戻す。いつの間にか完全に陽は沈んでいた。窓ガラスの外、白い雪は暗がりに溶けて見えなくなっている。卓上のランプの灯りが淡く瞬いた。

 はっとして時刻を確認した。夕食の開始時刻まであと五分程だった。机上に置いてあった二枚の割引チケットを掴み、本を閉じて棚へと戻す。そこで目にしたビールサーバー上の部屋付伝票に青山の飲んだ二杯分に加えて、一杯分の正の字が付け足されていた。

 ここに桜井が来ていたことに青山は全く気が付かなかった。しかし、このロビー程度の広さで桜井こそ青山に気が付かないわけがない。桜井は声を掛けなかったのだ。青山が『生れ出づる悩み』を読んでいたからだ。

 後ろめたいとは、もう思わなかった。ただ燃えるような衝動が宿る。駆け足で階段を上がり、廊下を駆けていく。瞳の奥が爛々と輝くのが自分でもわかった。口元がにやける。

 単純な一つの願いだけがある。

 青山は、今すぐ桜井と話がしたくて堪らなかった。


 青山の目の前、皿の上で肉厚の殻付きあわび貝がうごうご動いている。祝津ではあわびも採介しているから、水揚げされたものは陸でよく見る。だが、掬い上げられても尚生きている貝に感傷を覚えたのは初めてかもしれない。

「……漁を思い出す」

「ええっ。お客さん、漁師さんなんですか」

 机に料理を並べながら、仲居は青山の呟きを拾う。青山は曖昧に頷いた。

 それにしても置かれる料理が止まらない。テーブル中央には、炭火の爆ぜる円い七輪が鎮座している。そこで焼くための具材なのだろう、生きているあわびの隣にはこれまた大きな青つぶ貝と、肉厚なしいたけが並んでいる。蒼色の深皿には、ほっき貝とほたて、牡丹えびの刺身が美しく盛り付けられていた。それぞれの小鉢には、女将自家製だという鮮やかな鰊漬けや、なまこときゅうりの酢の物が入っており、てらてらと輝いている。さらに赤いケガニが一人一杯、カニフォークと共に置かれた。

 とうとう元々あった机では足らず、仲居は腕捲りをすると、壁に立てかけていた拡張机を開く。その上にガスコンロと鍋、魚介と野菜のたっぷり乗った大皿を置いた。浜鍋だ。大皿の端では、またもあわびが動いていた。皿どころか、ついには机からも逃げ出そうとしているのかもしれない。

「海が恋しくなったか? 帰ってもいいんだぞ」

 青山に言っているのか、あわびに言っているのか、いまいちわからない調子で桜井は缶ビールを呷る。青山が部屋に着いた時、桜井は既にクラフトビール一杯と缶ビール一本を飲みきり、さらにもう一本開けながら、夕食の準備をする仲居と機嫌良く談笑していた。

 まだ小説の話はできていない。

「漁師さんに説明するのも野暮だと思いますが、あわびもつぶもしいたけも網に乗せて焼いてください。あわびは串で刺して、すんなり通れば食べ頃です。つぶは汁が煮えたら食べ頃です。たまに熱い汁が飛ぶので気を付けてください」

 仲居の謙遜は、漁師から逃げた青山にとっては気まずい。反して桜井は、にこにこと尋ねる。 「ははは。それは怖い。焼くのは全部この子に頼むかもしれません。あと仲居さん、しいたけはどうやって焼いたらいいんでしょう」

「傘を下にして、じわりと汗をかいたら食べ頃です。軸から二つに割いてお食べください」

「ほうほう」

「鍋は後ほど火を付けに参りますね。このあとお刺身の方もお持ちになりますが、あわびは丸ごとと、切っておくのとどちらになさいましょう」

「じゃあ丸ごとで」

 桜井は即答していたが、青山は新鮮なあわびの硬さを知っていたので、丸ごとは勘弁だなと顔を顰める。

「自分は切る方で頼めますか」

「勿論です。それではごゆっくり」

 仲居は笑みを湛えながら客間を後にする。仲居が戸を閉めた瞬間、堰を切ったように桜井は缶ビールを傾けた。口を離して、にこっと笑う。

「青山君、何飲む?」

「じゃあ、とりあえずビールで。桜井先生は、まだ次大丈夫ですか」

「うん。いやあ、いつもより興が乗ってペースが早くなっちゃって。大分酔っちゃったなあ」

 頬の火照る桜井を一瞥して、青山は座椅子から立ち上がる。窓際の冷蔵庫の元へ向かった。開けると、結露した缶ビールが二本冷えていた。そのうちの一本を取り出しながら、言う。

「あんた、わざと酔った振りしてるだろ」

 背中側にいるから、ここから桜井の姿は見えない。だが、その気配がぴたりと止まったのがわかった。

 青山はぱたんと冷蔵庫を閉めて、席に戻る。どこか気まずそうに視線を逸らす桜井の前で、プルタブを引く。近くにあった小さいグラスにビールを注ぎ、宙に掲げた。

「乾杯」

 どこか泳いだ目のまま、桜井は缶をおずおずと差し出す。ぶつかったのがガラスとアルミ缶だからか、勿論音は鳴らなかった。二人の中間点は七輪の上だから、じわじわと手の側面が熱くなる。

 青山は手を引っ込め、ぐいと一気にビールを飲み干す。空になったグラスを置いて、殻から動き回るあわびを掴む。

「先生の分も焼きますか?」

「あ、ああ」

 あわびは、すっかり殻からはみ出てひっくり返っていた。脚の吸盤が皿に固く張り付いていたが、ぐっと力を入れると外すことができた。そのまま網の中心付近、火のよく当たるところに置く。青山は手を伸ばして、桜井のあわびも掴んで乗せた。網のスペースが余っていたので、つぶとしいたけも乗せる。ぱちぱちと炭火が音を立てて爆ぜた。あわびはまだ網の上で、熱から逃げ惑うように動き続けている。

「おれ、小説読みましたよ。先生と話したくて急いで戻ってきたのに。酔って誤魔化して、話してくれないんですか」

 思ったよりも恨めしい声が出た。まだまだあわびは焼けないので、小鉢の酢の物をつつく。うまい。なまこはコリコリとした歯応えがある。飯に罪はないから、ぱくぱくと食べ進めた。

「いや、別にそういうわけではないんだが……」

 桜井の歯切れは驚くほど悪い。木田金次郎美術館で、青山が小説を読みたいと言った時からそうだ。有島記念館や木田金次郎美術館を悠々と案内していた自信ありげな姿はどこにもない。

「青山君に選んでほしい、選ばないのは怒るよ、とかあんな偉そうに言っておいて。選びましたよ、おれ。小説読んだんです。話させてください」

 七輪の熱がじわりとこちらまで伝わってくる。あんなにも蠢いていたあわびの動きも、次第に鈍くなってきた。しいたけの細かなひだがじわりと汗をかき始めている。

「……うん。話していいよ。聞いてるから」

 桜井は、ずずっとビールを啜った。青山と頑なに目を合わせない理由を話すつもりはないようだ。

 いいだろう。話してやる。

 そう意気込んだところで、ちょうど襖が開く。紺のエプロンを翻した仲居が料理を運んできた。あからさまにほっとした表情を浮かべた桜井を緩く睨む。

「お待たせしました。ひらめの活造りです」

 俗に言う舟盛りだ。舟を象った木皿に氷が敷き詰められ、人間の指先から肘の長さ程はある活ひらめが丸ごと一匹、捌かれて置かれている。刺身は丹念に薄く切られ、桃がかった白色に透き通っている。そのひらめの黒いぬらぬらした頭が、ぶるんと動いた。

「うわっ」

 どうやら桜井は本気で驚いたようで、肩をびくんと震わせた。仲居は、まだまだ生きてますよおと驚く客には慣れた様子で、桜井の側に舟盛りを置いた。嫌がらせだろうか。ひらめがぱくぱく口を開くたびに、桜井がびくびく動くから面白い。

「こちら、ヒレの方にあるのはえんがわです。山わさびを擦って添えて、お食べください」

 仲居は山わさびとおろし金を側に置く。続けて、あわびの刺身も置いた。桜井の方には丸ごと、青山の方は切ったものである。切った青山の方はともかく、桜井の方は殻から外されているが、勿論動く。生け捕りなど青山は嫌になる程慣れているが、桜井がいちいち驚くのは愉快だ。小鉢も置かれる。捌く際に取り除かれた、あわびの肝が入っていた。仲居は拡張机の方に向かい、コンロのつまみを回して鍋に火を入れた。

「お鍋の方も点火いたしました。蓋から湯気が出てきましたら、具材を入れてお食べください。後ほど焼き魚と、ご飯を持ってまいります」

 青山は、桜井との間に犇く料理を改めて見渡す。刺身、舟盛り、焼き物、浜鍋——。あわびだけ数えても丸ごと三個だ。ここに焼き魚と白米まであるとなると、確かにボリュームがある。桜井の言う通り、昼を程々にしていた甲斐がありそうだ。食べ終わったいくつかの皿を持って、仲居はまたもにこやかに退散していく。

 途端、ひらめの尾が大きく跳ねた。桜井はやはりびびりながらも、おそるおそる舟盛りの器を少しだけ押して遠ざけた。そこでちょうど酒が無くなったようで、桜井は立ち上がり冷蔵庫へと向かう。その隙に青山はひらめを押し返して、最初よりも桜井に近い位置に動かしておく。桜井は背を向けたままで尋ねてきた。

「青山君、ワイン飲めるっけ」

「飲めます」

 悪戯がばれないように食い気味に答えてしまった。桜井はワインボトルを抱えて戻ってくる。戻ってきた桜井に向かって、今度は七輪の上の焼きあわびが爆発し、汁が跳ねた。

「あっ、つう⁉︎」

 ワインボトルを持ったまま顔面を抑える桜井に、とうとう青山は盛大に吹き出す。さすがに可哀想になってきた。

「あはは。あんた、この宿来たことあるって言ってたのに、めちゃくちゃ散々じゃないですか」

 桜井はボトルを置いて座り、しぶしぶおしぼりで顔を拭った。口を尖らせながらぼやく。

「……来たのは相当昔だから。家族四人でだし。ってかこれは誰だってビビるだろう。君は生きた海産物には慣れているだろうから、平気かもしれないけれど」

「にしても、そのすまし顔が歪むのは、マジでウケますね」

「青山君、実は結構怒ってたりする?」

「……あわび、いい感じに焼けましたよ」

 桜井の問いをいなしながら、青山は串でぷすりと焼きあわびを刺す。串は貫通し、穴からじわりと汁がこぼれた。ちょうど食べ頃だろう。同時に、つぶとしいたけも網から引き上げる。しいたけをつうと二つに割くと、途端に白い湯気が立ち昇った。

 そのまま齧ると、じゅっと旨みが舌へと染み入る。そこで、きゅぽんと間の抜けた音がした。顔を上げると、桜井がワインのコルクを抜いているところだった。

「注ぎますか」

「いい。私が注ぐ」

 注ぎ口からワイングラスへと、仄かに黄色く色付いた酒がとくとくと落ちていく。ワインは全く詳しくないので、辛うじて白だということしかわからない。並々と注がれたグラスが手渡された。その表面が僅かに波立っている。

「さっぽろワインのソービニオン・ブランだ。魚介に合うと思って持ってきた」

「はあ」

 ワインはさっぱりだが、そこまで言うならせっかくだ。青山は箸で持ち上げた熱々のあわびに、思い切ってかぶりつく。肉厚な身がぶちりと切れた。噛めば噛むほど潮の味が広がっていく。うちの並みに良いあわびだと素直に思った。そのまま、ソービニオン・ブランを傾ける。爽やかな味が磯の風味を引き立たせる。ワインなのに日本酒のような風味がしたので、驚く。

「……うまいっすね」

「だろう?」

 誇らしげに桜井は言いながら、暴れる舟盛りからそうっとひらめの身を掬っていた。擦り立ての山わさびと共に食べ、静かに目を輝かせる。

 青山にとっては慣れた味ではあるが、この旨さは、生と死の狭間にあるからこそ齎される。漁の後、陸に上がり浜で食べる飯など、尚更そうだ。人間が咀嚼するたび、命を殺し、血肉となっていく。

 青山は『生れ出づる悩み』の一文を思い出す。謂わば捨て身になってこっちから死に近づいて、死の油断を見すまして、かっさらいのように生の一片をひったくって逃げて来るのだ——。

 だから、漁師は海でその存在を疎外されつつも、どうにか命を奪って生きている。

 今、旅館という安全基地に守られながら、ぬくぬくと過ごしているが、一口を齧るこの瞬間だって、生の断片をひったくっているのは事実だろう。有島武郎だって、漁師に小説家を重ねていた。だからこそ、青山は切り込みたかった。ばたつくひらめの肉を掬い、強く噛み切りながら告げる。

「有島は、木田に許されたかったんですね」

 ワインを傾ける桜井の動きが止まる。青山は構わず続けた。

「勿論、小説にすることで縛ることもわかっていたんでしょう。だからって、あんなに思い込みの強そうな有島が、書きたいという衝動を易々止められるとは思わない。結果的に呪いとなったって、呪いたくて書いたんじゃない。おれは有島の小説から、純粋な祈りを感じました」

 青山は切られた生のあわびを掬って噛んで、飲み込んだ。潮を吸った命が静かに青山の血肉となっていく。

「木本には死なないで生きてほしい。だから木田——あんたも描くことを選んで生きてほしい。そんな切実な祈りを、小説からは感じました」

 青山は真っ直ぐ桜井の瞳を見つめる。だが、桜井はこちらに取り合わずに、焼きつぶを串でつついている。聞いてはいるのだろうが、まともに向き合う気はないらしい。向き合わないのは核心を突いているからだと、あてもなく信じてみるしかなかった。

「おれは木田の絵、好きだなって思いました。印象派のこととか、今日知ったばっかだから何もわかんねえけど。でも、絵を観た瞬間、海風が吹いたんです。木田が、自分の目で見た自然を絵の中に生かそうと必死で描いたってのはよくわかった。価値ある印象派だからとか、上手いから感動したわけじゃない。おれは木田の心に触れたんだ……」

 青山の目の前で、浜鍋の具のあわびが逃げようと足掻いている。途端に苦しくなった。海町から逃げたのに、また海町へ来て、何もせずに旨い海産物を食らっていることに。青山だって漁師だから知っている。碌に日も上がらないうちから黒い波に揉まれて網を引き上げ海水に阻まれて、それでも時化は来るから網は海水ばかりを掬って——。

 こんな苦しい思いをしても緩やかに廃れていく漁業の先を、皆でなんとか支えていこうとしているのだ。絵を通して木田金次郎が呼び起こした風は、漁師たちの苦悩と青山の逃避を孕んだ、潮の香りを濃く纏っていた。

 せめて命を食らうのが最低の礼儀だろう。煮立った鍋の蓋を開け、生きたあわびを熱湯へと流し込む。

「確かに、自然を描けという有島の祈りを木田が受け取ったのは事実なんでしょう。手紙にも書いてあったし、実際、木田は心底有島の言葉を頼りにしていたのだと思います。じゃないと自分の作品よりも、有島の遺品を優先して大火から守らないでしょう?」

 鍋の火が橙と青に揺らめいて燃ゆる。大いなる熱を持って、あわびを殺していく。青山は、大火によって理不尽に奪われた木田金次郎の美しい絵を思った。かつて見た自分の景色が奪われることは、目を焼かれる以上の痛みだっただろう。それでも木田金次郎は標を違えなかった。絵を描き続けた。

「でも、そうやって木田の人生が有島の祈った通りに進んでいったとしても、それを選び続けたのは木田自身じゃないんですか。やめようと思えばいつでもやめられたんだ。木田金次郎は骨の髄まで家族に優しい漁師だったから。でも、それを選ばなかった。だって本当は、木田金次郎も絵を描きたかったから」

 だから加害じゃない。選びたいから選んだんだ。

「あんた、『木田金次郎をこの岩内に縛りつけたのは有島武郎だ』って言ってましたよね。確かに美術館で観た有島から木田に宛てた手紙には、岩内にいた方がいいと書いてありました。でも『生れ出づる悩み』を読んで気が付いたんです。『私』は『木本』に、この地で自然を描けだなんて、強要するような言葉は一度も告げていないんですよ。有島は小説の中では書いてない」

 作家は、主人公とイコールではない。これは桜井自身が、小説『終末に向かうあなたと』で、主人公の「僕」に対して明示していたことだ。桜井志春が「僕」ではないように、有島武郎も「私」ではない。だからこそ、その仮想はより切実で純粋に、祈りを際立たせる。

「木田には自分で考えて、自分で決めてほしかった。本当の有島の思いは、ただそれだけだったんじゃないですか。手紙ではつい言ってしまったけれど、小説の中では芸術家になれとは決して言わなかった」

 書簡に書いた有島武郎とは違って「私」は言った。君のような人が芸術の捧誓者となってくれるのをどれ程望んだろう。けれど僕は喉まで出そうになる言葉を強いて抑えて、凡てを擲って芸術家になったらいいだろうとは君には勧めなかった。それを君に勧めるものは君自身ばかりだ。それは君自身で苦しみ、君自身で癒さなければならない苦しみだ——。

 結末、「私」の最後の叫びが青山の頭の中で鳴り響いている。桜井だって、わかっていないはずがない。桜井自身がこの「私」の叫びを読んで、小説家になることを選んだのならば。

「だから、願いでも呪いでもない。祈りなんです」

 祈りなど身勝手だ。それならば、それを受け取る方だって、同じくらい身勝手なはずだ。

「許すとか許さないとかじゃない。有島から向けられていたのが祈りだと、木田が気が付いていたのならば、そもそも恨む理由が無いんです」

 祈りに対して、どうして恨めるだろうか。本人がどんなに酷い死に方をしたとしても、向けられたのが祈りだとわかっていたら、憎めるはずがない。だから有島武郎の死後、木田金次郎は漁業を辞めて画家を志したのではないのか。きっかけはおそらく書簡ではない。小説に込められた祈りを受け取ったからだ。

「おれは、気付いていたと思います。だって木田の絵からは、悲劇を一切感じなかった。有島の死など背負っていない。どれも、木田自身の目が見た景色だった」

 作品は人です。人間が鍛え上げられて、りっぱにならなければ、いい絵が生まれるはずありません。うまくなったでしょう。これからももっとうまくなりますよ——。

 絶筆の横に記されていた言葉からも感じられる。その飽く無き向上心は、有島武郎から一方的に呪われた人間が言えるものではない。そこには、確固たる木田金次郎の主体がある。

「木田は有島の祈りを受け止めた上で、自分で描くことを選び続けたんじゃないでしょうか。これが、木田が有島を許していたかどうかについての、おれの答えです」

 青山は、ぐいとワインを呷る。ボトルから酒を注ぎ足し、煮立った鍋を開けて、死んだあわびに勢いよくかぶりついた。殻から丁寧に蟹を掬い、つぶ貝を肝の先まで抜き出し、掬ったひらめを大口開けてもぐもぐ食らった。桜井が何も言わないのを良いことに、好き勝手に語ってしまった。今更恥ずかしくなってきた。

 ちらりと桜井を見やる。その表情は、どことなく暗澹としている。違うなら違うとはっきり言ってくれた方がこちらとしてもまだやりようがある。何よりも昼間はあんなにも主張や否定をしていたのに、曖昧に誤魔化して、遂に無言を貫かれるのは、怖い。

「そんな顔してたら、メシがまずくなりますよ。せっかくこんなに美味いのに」

「……」

「うんでもすんでもイエスでも違うでもいいから、なんとか言ってくださいよ」

「……すん」

「っ、あんたなあ! ふざけんのも大概にしろ」

 桜井はボトルを持ち上げて手酌をし、グラスをひたひたと満たす。鰊漬けを箸でそっと摘み、ワインを傾けた。唇は離れ、その瞳が青山を射抜く。

「大変すばらしいじゃないか。百点満点の『生れ出づる悩み』の読解だ。私が言うことは何も無い」

 酔いなど少しも感じさせない冷ややかな声が響く。青山の口内で噛み砕かれて死んでいく命の塊が、急激に冷えていった。

「君は選べたんだ。先の発言を撤回するよ。おめでとう。君はもう自由だ」

 桜井は口角を緩やかに上げる。だが、目が少しも笑っていない。

「なんで、いまいち祝福してないんだ」

「そう? 心から良かったと思ってる。君を崖から引き剥がした甲斐があった」

 嘘だ。口元が歪に震えている。無理に笑顔を作っているようだった。この表情には覚えがある。有島記念館での生活改造、木田金次郎美術館で有島武郎の書簡を前にした時と同じだ。

 これは、怯えだ。だが一体、何に対して?

「そういや、誘ったおれが漁師だったのは偶然だと言っていましたが、小説の『木本』も崖の上から自殺しようとしてたんですね。祝津でおれに声を掛けた時、さすがに小説のことがよぎったんじゃないですか」

「そうかもな。『私』はそこにいなかったから」

 間に合って良かったと、あの時の桜井は言っていた。

「おれ、選んだんですよ。あんたのおかげでおれの世界は広がってる。なのに、なんであんたは喜ばないんだ」

 選べたのに、どうして「私」から「君」へのような称賛がない。こちらの選択を喜ばないのだ。

 青山は桜井に喜んでほしかった。祝福されたかった。

 畳の上に置き去りにしていた、荒井記念美術館のチケットに手を伸ばし、掴む。

「なあ。おれは、あんたと」

「やめろ」

 青山の言葉を遮り、語気を強めて桜井は立ち上がる。この一室には、逃げる場所など無い。冷蔵庫から日本酒を取り出して、また座って蓋を捻り、猪口に注いで冷酒を呷る。暗い表情に変わりは無かった。こちらを見ないままで、桜井は言う。

「選ばないでくれ」

 は、と青山の息が詰まる。

「なんだよ。選べって言ったり、選ぶなって言ったり、わけわかんねえよ」

「私が選んでほしかったのは、君が君自身の未来をどうするかだ。あの時、私は君が崖から離れてくれることを望んだけど、それは私が強要できることではないから。青山君自ら選んでほしかった。すごいね。君は選ぼうとしている。本当に、心から喜ばしい……」

「じゃあなんで、そんな……」

 桜井は、ゆっくりと顔を上げる。目が合った。その瞼は仄かに赤く腫れて、瞳は頼りなく揺れている。なんで、あんた、泣きそうになってるんだ。

「……その未来に、俺はいないんだって」

 事実を掴んで殴られる。青山は息ができなくなった。

「君の未来に、俺を組み込まないでくれ」

「は。なんで、今、別にそんな話してねえだろ」

「まだ自覚していないようだから、先に釘を刺しておく。敢えて泳がせていたけど、もうやめだ。あの時、有島記念館で君が泣いたのは、俺が消えると言ったからだ。君はそれが悲しくて泣いたんだよ」

 淡々と告げてくる桜井に、青山の脈拍が速くなる。

 何が、悲しくて泣いたって?

 誰が、誰と、何を?

「俺も甘かったんだ。『木本』のように、モラトリアムを拗らせて死にたがっている悩み多き青年ならば、有島武郎に価値観を揺さ振られ、木田金次郎の生き様に惚れて、その祈りを背負って勝手に独り立ちすると思っていた。事実、君は俺を通して、有島武郎の祈りに気が付いた。満点だよ。だが、まさか『君』が『私』と一緒にいたいと言うなんて……」

「おれが、あんたと、一緒にいたいって?」

「違うのか?」

 桜井は問う。いつの間にか瞳から怯えは引き去り、全てを焼き尽くす炎のような確信が宿っている。左耳、蝶のピアスが羽ばたくように揺れた。

 その姿があまりにも綺麗だったから、チケットを掴む手を離して手を伸ばす。撮らなきゃ、カメラで。  突き動かされる衝動を自覚して、かっと頬が熱くなる。

「……ち、がうか、どうかなんて、急に言われてもわかんないですよ。でも、撮りたいって、思うの、これが、そうなんですか」

「そうだ」

 小説家は言葉を奪う。本来ならば、青山が緩やかに自覚し、成熟させていくべき思いを、言葉に無理矢理押し込めて奪っていく。

 これは、明確な暴力だった。

「だが、俺は誰かと生きていくつもりはない。君の気持ちには応えられない。すまない」

 青山は何も言っていない。何も伝えていない。ここには、撮りたいという曖昧な衝動と、誘ってすらいない二枚のチケットがあるだけだ。まだ何の形にもなっていなかった。

 それなのに、桜井は丁寧に青山の心を踏み躙る。

「私は、小説が一番大切だから」

 ふっと息を吐き、桜井はやわらかく笑う。果てのない諦念だった。

 小説は、桜井が喪失の先で足掻いた結果、手に入れた価値であり、絶対的な一つの質量だった。

「消えた後に君の話を書くから」

 おれよりも理想なんかが大切なのか。湧き出る怒りは、口が渇いて言葉にならない。怒りに呆れが加わって血液を掻き混ぜて、熱く身体中に巡っていく。

「君にも自分の人生があるだろう。もう一度漁に向き合うでも、写真を撮ってみるでも、他のことでもなんでもいい。君に待っているのは輝かしい未来だ。その為に私のことは存分に踏み台にしてくれ」

 金ならあるから。もっと欲しいか?

 そう桜井が呟いた先のことはよく覚えていない。仲居がもってきためんめの焼き魚や白米、デザートのメロンの味も、桜井の顔も自分の気持ちも何一つわからなくなってしまった。奪われたせいだろうか。渦巻く感情はまるで言葉にならなかった。磯と混ざった酒の味ばかりが苦く痺れて、吐き気を呼ぶほどの頭痛をつれてきた。それでも尚、酒を飲みながら青山は思った

 おれは腸が煮え繰り返るほどに悔しい。ただ、堪らなく悔しいのだ。

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