追憶44 やはりぼくは弱虫だった(欲まみれの略奪者、AO)

 今までで一番いい戦いだった。

 純粋にそう思った。

 ボスエネミーと戦って、こんなに晴れやかな気持ちになったのは、はじめてだった。

 KANONカノンさんも、一見していつも通りの無表情だけど、その横顔から、何だか憑き物が落ちたように見えるのは気のせいだろうか。

 珍しく初回で勝てたけど、誰一人欠けても成り立たない勝ちだった。

 ……誰一人欠かせないその中に、ぼくも含まれている。

 今なら、胸を張って言えた。

 このパーティなら、黄昏の君主に届く。勝つことも夢じゃない。決して、所属している欲目ではない。

 そして。

 それが、怖かった。

 黄昏の君主と戦うことが、ではない。

 このパーティを、失うことが、だ。

 実はこのゲーム、

 

 パーティで黄昏の君主に勝利しても、ゲームをクリアできるのは一人だけなんだ。

 

 これは、公式に堂々と提示されている事実だ。

 “神”に成り代わり、この世界を支配できるのは一人だけ。

 つまり、黄昏の君主に挑むために組んだ五人は、神の座をかけた競合相手でもあるんだ。

 より正確には、黄昏の君主にトドメを刺した人に、その権利が与えられると言う。

 “神”になったあと、パーティの仲間を優遇することはいくらでも可能だろうけど、自分が“神”そのものとなる誘惑とは比べ物にならない。

 むしろ、千載一遇の夢を目前とした人たちにとって、二番手に甘んじると言うのは、あり得ない妥協だろう。 

 これまでの大ボスでさえ比にならない“ラスボス”を相手取りつつ、パーティ内で駆け引き――足の引っ張り合いが必ず起こる。

 五人パーティでしか挑めないのに、クリア出来るのはその中の一人だけ。

 十余年、誰も勝てなかったわけの最たるが、ここにあった。

 だから、ゲームクリアを目指すガチ勢パーティというのは、お互いを親の仇のように憎んでいるのが普通なくらいだ。

 こんな、ゲームクリアへのビジョンと居心地のよさが両立されたパーティなんて、まず奇跡の産物と言っていい。

 だから。

 変異エーテルは五つ揃った。

 このパーティなら、勝てる。

 それを悟った瞬間、ぼくは自分の本心を直視してしまった。

 

 ぼくは、勝ちたい。

 たった一人の勝者に、なりたい。

 

 けれど。

 彼らに、嘘はつきたくない。

 堂々とカミングアウトして、そして。

 それで追放されれば、それはそれで楽になれる。

 この期に及んで、ぼくは臆病だな。

 

 みんなの前で本心を打ち明けようとしたら。

 HARUTOハルトさんに止められ、そして、滞在していたエーテル溜まりの近辺、何もない荒野に連れてこられた。

 ぼくと彼の、二人きりだ。

「……誰がゲームをクリアするのか、その擦り合わせを行いたい」

 鼓動が、徐々に早くなってきた。

「……一対一の決闘で決めよう。武器と魔法、変異エーテルを使用しない、純粋な徒手空拳の実戦。

 これに敗北した者が、ゲームクリアを諦める」

「そん、な」

「このクレプスクルム・モナルカでクリアを目指す以上は避けては通れない道だ」

 彼は、冷淡なまでにピシャリと言った。

 それは、そうだけど、普通、これを言うこと自体、このゲームのパーティ活動では禁句に近い。

 皆わかっていて、けれど、最後の最後まで“それ”を信じたくなるのだ。

 ゲームクリアのことに言及すれば、パーティはその瞬間にたちまち瓦解してしまう。

「あなたは――“あなたたち”は、どうして黄昏の君主を目指しているんだ!?」

 たまらずぼくは、叫んでいた。

 ずっと感じていた違和感。

 彼は、何か、他のプレイヤーとは根本的に違う。

「……話す訳には行かない」

 そう言って、彼は構えた。

 ぼくも、無意識のうちに構えた。

「……本気で来い。話すのはそれからでも遅くはあるまい」

 そしてHARUTOハルトさんは、真っ向からぼくに襲いかかってきた。

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