追憶01 さる自由度の高い死にゲー世界に到着したお話(MALIA)
「きれい……」
この世界に実体化して、自然と口にした言葉は、それだけでした。
時刻的には日没直前。けれど、お空にはまだまだ紫まじりの青が広がっています。
そのお空の寒色を吸った雲が、しかし、薄金色の太陽に照らされて、暖かさも帯びています。
わたしたちの立つ新緑の丘から、一面金色の麦畑が果てなく広がっています。
地上は、エメラルドグリーンからシャンパンゴールドへ移ろうような色彩に満ちていました。
「やっぱり、世界ってきれいですね」
傍らに立つ男性と長い黒髪の女性――わたしと一緒にこの世界にきた仲間ふたりに、わたしは語りかけていました。(と言っても、長い黒髪で女性なのはわたしもおなじなのですが)
ちょっと遅れて、
「……同感だ」
男性のほうからクールそのものな返事がきました。
彼――これまで、わたしと三つのVRゲームを共に戦ってきた――
どうも、なにかを言う前に若干の沈黙をはさむクセがあるみたいです。
これまで、わたしとご一緒した三タイトルのゲームでも、わたしと出会う以前のゲームでも、いつも自然にパーティリーダーを任されてきたように、頭がいい方です。
発言前の沈黙は、いつも的確な答えを導き出すための、ちょっとした回り道なのかもしれません。
「……だが、油断はするな」
ほら、忘れかけたころに、次の発言です。
「既に、実戦は始まっているな」
仲間のうち女性のほう、
彼女が目で指した先、麦畑の向こうで、ちょっとした建物のような体躯の……全身を途方もない質量、かつ、機能的なデザインの装甲によろわれた、これまた街灯じみた
鎧なのか外皮なのかわからない装甲の継ぎ目から、なんだかスピリチュアルに発光するエネルギーが漏れ出していますね。
文字通り“ヤバそうなオーラ”をかもしだしています。
そんな、見るからにスタート直後に出てきてほしくなさそうなビジュアルのエネミーが闊歩してらっしゃいました。
当たり前かもしれませんが、あんなのにまともに殴られたら、わたしたち人間なんて一発で終わります。
ちなみに、わたしたちがついこの前までプレイしていたのは20メートルくらいの巨大ロボットを操縦して戦うゲームだったので、なおさら想像に難くないわけです。
それで、この
死んで当たり前の、いわゆる“死にゲー”と呼ばれる難易度の世界ですね。
それが地球と等倍の面積を有していて、世界中のどこへ行ってもドラゴンだとか魔人だとか暗黒騎士の軍勢だとかに出くわして、自由に、のびのびと、さまざまな死に様を体験できるのです。
わたしたちが立っているここは、座標的にはフィンランドあたりですね。
と言っても地球準拠なのは面積とか気候くらいで、地形的には完全オリジナルの架空ファンタジー世界ではあるのですが。
さて。
MMOとしてはめずらしく、このゲームには明確な“ラスボス”がいます。
その名も“黄昏の君主”というそうなのですが。
プレイヤーの誰かがそれをやっつければ、このゲームは終了するのです。
この“クレプスクルム・モナルカ(略称:CCM)”がオープンしてから十年以上経っていますが、ゲームはいまだに続いています。
VRMMO制度の現代、文字通り星の数ほどプレイヤーがいて、そちらの
ただ強いだけのラスボスなら、オープン初日で狩られていてもおかしくはないのですが。
そんなわけで、あとの説明は
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