第一章【クリムゾン・ブロッサム】

第3話「ダンジョン出現で世界滅亡!? 世界を守れって、どういうこと〜!?」


 ──それから俺は、イナバから「この世界のこと」について話を聞いた。


 まず一つ。

 今は西暦2032年の3月31日で、東京渋谷のスクランブル交差点で起きた災害から、12年の月日が流れていること。


 そして、その災害は日本各地──いや、世界各地で頻発し、多くの被害をもたらしたとの事だった。


 それから数ヶ月後、ようやく「穴」の調査・研究が始まり、穴の発生からわずか1ヶ月が経った後、穴の名称が「ダンジョン」に統一され、「世界ダンジョン協会」なるものが発足されたようだ。


 日本ではそれから約一ヶ月後の2020年3月18日に「ダンジョン庁」が設立され、各都道府県で発生したダンジョンによる影響や、探索をする人々へのサポートを行う下部実務組織として、「探索者組合ギルド」を配置した。

(ちなみに探索する人々のことを、「探索者」と呼ぶらしい)


 ──ここまで話を聞いて、俺はあまりの現実感の無さに笑ってしまった。



「ごめん、マジでなに言ってんの???」


「何って、この世界で起きている事実だぴょん」



 と冷たく返され、思わず口を閉ざしてしまうが……ダンジョンがどうとか、そんな話をされて「ああそうなんすねぇ〜」と容易く受け入れられる筈がない。


 しかし、俺自身美少女化し、テレビ番組でも「ダンジョン」という言葉が挙がったり、ダンジョンにまつわるニュースが流れている事から、イナバが嘘をついていないのはわかる。


 美少女になるというあり得ない体験をしているのだ、世界各地でダンジョンが発生していたっておかしくはない……。

 ないのだが、それをすぐに受け入れるのは暫くは出来そうになかった。心の整理が必要だ。


 とりあえず情報量の多い世界の話はいったん置いておき、「何故俺が美少女になったのか」について尋ねる。


 するとイナバは、表情を歪めてため息を吐き捨て、テレビに魔法をかけた。


 なんでそんな嫌そうな顔を……? 不思議に思いながらテレビ画面を見ていると、砂嵐が晴れて鮮明な映像が流れ始める。


 そこに映し出されるのは、12年前のニュース番組。

 カメラに映っているのは、俺が落ちた穴──スクランブル交差点に出来たダンジョンだった。


 喧騒に包まれる中、現場の状況を必死に伝える女性レポーター。

 その背後から悲鳴が聞こえ、カメラがレポーターからダンジョンの方へと視点を合わせた。


 すると、ダンジョンの中からウネウネとしたピンク色の触手が這い出て来て、周りのものを取り込もうとうねりをあげている。


 それに対する悲鳴──と思っていたのだが、どうやら悲鳴の要因は他にあるようで……。



『あそこに一人の男性が、イソギンチャクのようなものに絡め取られています! 先ほど穴の中へと入っていった男性との事ですが……うわ気持ち悪っ!』



 ──ピンク色の触手が、何故か剥き出しとなった俺の裸体に張り巡らされており……。


 真っ裸の無職おっさん(30)のカラダは、触手にあちこちを犯されながら、粘液まみれになっていた。



「うおぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」



 瞬間、吐き出されるゲロ。


 おいふざけんな、なんで俺が触手攻めにあってるんだ……ってやべぇ、なんか顔が紅潮してんのがマジでキモい……! ゲロが止まらんッ!!



「おえっ……! おいイナバ、もういいわかった! わかったから止めろ! その地獄絵図を止めろ!!」


「嫌だぴょん。しばらく僕が味わった地獄を君も味わうがいいぴょん」


「ふざけんな! 何が悲しくて自分のカラダが触手攻めに合う光景を見なきゃいけな『あっ、やぁっ……』って何で喘いでんだ俺!? マジでふざけっ……うおえええええッ!!!!」



 脳内で、何処ぞのダム映像が流れ始める。


 それから数分間。イナバの悪意により展開される地獄絵図を無理やり見せられた俺は、のたうちまわりながら胃の中のものを全て吐き出し、最終的にはその場で倒れ伏した。

(因みに吐いたゲロはイナバが魔法で消してくれた。頼むからその魔法で映像の方も消してくれ……)



 クソ、この変態ブリーフ兎野郎め、なんてモン見せやがるんだ。

 ゲホゲホと激しく咳き込みながらイナバを睨みつけるが、どこ吹く風といった調子で視線を返す変態は、悪びれる事なく口を開いた。



「簡潔に言うと、君はあの時死んでるんだぴょん。だけど死んだのは肉体の方で、魂は肉体に入ったまま。だから僕が、今の肉体に魂を移してあげたんだぴょん」


「死んだって……映像を見る限り生きてるっぽいけど」


「それは、元々そのカラダに入っていた魂を移植させたからだぴょん。よって欠損していた肉体は再生したんだぴょん。けれど目覚めるには、肉体と魂が上手く馴染まないといけないぴょん」



 そこまで聞いて、何となく察しがついた。


 12年ものあいだ、俺が寝ていた理由。

 触手攻めにあいながらも、俺が生きていた理由。



「要するに、俺が12年もの間眠っていたのは、魂と肉体が馴染むまでの期間だった、って事か?」


「半分正解だぴょん。もう半分については、元々その肉体は赤子の状態で、成長するのを待つ必要があったからだぴょん」



 元々は赤子だった? また後出しで変な情報付け足してきやがって……まぁいい。

 とりあえず話を纏めると、俺はダンジョンに落ちて死んで、コイツがたまたま俺の命を拾ってくれたって訳か。



「その後、俺の体はどうなったんだ?」


「少ししてから、触手ごとダンジョンに戻っていったぴょん。だから君の肉体は今、ダンジョンの中にあるぴょん」


「マジか……ってなると、俺が元に戻るには、ダンジョンに潜って取り戻しに行かなきゃならないのか?」


「そうなるぴょん。けど、あのダンジョンは数多く存在するダンジョンの中でも、トップクラスにヤバいダンジョンだから、今すぐに攻略するのは無理ぴょん」


「トップクラス? って事は、ダンジョンに強さとかレベルでもあるのか?」


「あるけど、それは今度また説明してやるぴょん。いま言えるのは、あのダンジョンに入るのは無理。入ったら確実に死ぬダンジョンだと思っておいて大丈夫だぴょん」



 何一つ大丈夫じゃないだろ。つーか、そんなヤバいダンジョンに飛び込んだのか、俺は。


 俺のカラダが無事なのかは不明だが……クソ、そうなるといよいよ、コイツの話を聞くしか無いじゃないか。


 それが狙いだったのか、イナバは薄く笑って、

「理解が早くて助かるぴょん」と笑った。



「クソっ、なんでこんな事に……。俺はただ、有名になりたかったから穴に入っただけなのに……。いや、普通に大問題だし、自業自得だから文句は言えないんだけど……」


「まぁまぁ、そんなに落ち込む必要は無いぴょん。確かに僕の願いを叶えて欲しい──というのはあるけど、それは君の願いにも繋がる話だぴょん」


「……なに?」



 俺の願いに? どういうことだ?



「魂を入れ替える魔法を使い、君が手に入れた肉体。僕たちの世界では魔法使いウィネフィクスと呼ぶけど、君たちの世界では『魔法少女』って言うらしいぴょん?」



 そう聞かれ、俺は曖昧に頷く。


 魔法少女の基準が何かって聞かれたら、「魔法が使える少女」ってことしか言えないけど、魔法使い=魔法少女、という認識に間違いはない(と思う)。



「その肉体は元々、【最強の魔法使い】の器だったんだぴょん。よって今、その器に入っているキミは魔法少女という事になるんだぴょん! 良かったぴょん、これで君は有名になれるぴょん!」


「話の繋げ方が力技過ぎないか……? いやまぁそうなのかもしれないけど、この世界じゃ既に探索者っていう、『魔法』やら『スキル』やらを使う連中が跋扈してるんだろ? なのにどうやって有名になるんだ?」



 そう。イナバから聞いた情報の中に、ダンジョンが出現し始めてから、世界各地で「特殊な力」に目覚める人々が急増した──という話があった。


 それが俗に言う「探索者」で、探索者になれば「魔法」を操れ、その上「能力スキル」という特殊能力が使えるようになるらしい。


 ダンジョンに入るにはいくつかの条件や制限があるらしいが、ダンジョン内で出てくる魔物モンスターを倒したり、魔鉱石やらアイテムやらを売ったりして生計をたてる「専業探索者」もいるとの事だ。


 確かに、受肉したこの肉体が魔法少女のものなら、俺もダンジョンに入って稼ぐことが出来るかもしれない。


 けど、それだけじゃ有名にはなれないんじゃないか?


 そう思っていると、イナバは俺にスマホの画面を見せてきた。



「ん〜? ……何だこれ、Dチューブ? YOUTubeじゃくて?」


「そうだぴょん。これはダンジョン配信者や、ダンジョン動画投稿者専用のアプリ、『Dチューブ』だぴょん! このアプリを使って魔法少女として配信をすれば、君は確実に有名になれるぴょん!」



 そう言って、自信満々にそのアプリを見せつけてくるイナバ。


 詳しく聞いてみると、どうやら「探索者」という職業が定着してから数年が経った後に公開されたアプリだそうで、アプリが開発されたらしい。


 その結果、俺は「戦犯」としてネット界隈で袋叩きにされ、何処のヤジュパイばりに動画ニュース映像が広まっているらしい。それを聞いて再度吐いた。もう死にたい。



「まぁまぁ、そんなに自分を卑下しなくていいぴょん。言い方を変えれば、君はダンジョン界に大きな功績を残した功労者とも言えるぴょん」


「言い方変えなきゃただの功罪じゃねーか。けど確かに、落ち込んだところでどうしようも無いしな……。んで? そのDチューブで配信したら、なんで俺が有名になれるんだ?」



 既に(嫌な方向で)有名になってしまっている俺だけど、本来目指した有名人には程遠い状況だ。


 それを覆せるならそうしたいところだけど、魔法やスキルが扱える探索者がいる中で、「普通に魔法が使える」ってだけじゃ有名にはなれないんじゃないか?


 そんな俺の疑問に対して、イナバが一言。



「その肉体は普通じゃないぴょん」



 たった一言そう告げるとイナバは立ち上がり、俺の方へと手を差し伸べる。



「言うは易し行うは難し、だぴょん。聞いてるだけじゃピンと来ないだろうから、まずは実戦してみるといいぴょん。配信タイトルはシンプルに『ダンジョン配信、はじめます!』で行くぴょん!」



 ──そして。えげつない速度で、俺の魔法童貞卒業日と、初ダンジョン配信日を決定した。

 すみませーん、俺に拒否権はないんですか???

 

 


────────────────────


読んで頂き、ありがとうございましたm(_ _)m


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何卒、よろしくお願いします……!


 


 

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