無職おっさんの俺、有名になりたくてダンジョン配信をした結果、何故か魔法少女になってしまった件。〜その後、世界滅亡の危機を救う魔法少女軍団のリーダーとなる。俺はただ、有名になりたかっただけなんだが〜
第4話「はじめてのダンジョンに……はじめての、変身〜!?」
第4話「はじめてのダンジョンに……はじめての、変身〜!?」
2032年4月1日、木曜日。
午前11時28分。
イナバから「実戦込みでダンジョン配信をやるぴょん」と言われた次の日の朝。
俺とイナバは、目当てのダンジョンがある品川区へと足を運んでいた。
八王子から電車に揺られること2時間半。
鮨詰め電車から解放された俺は、駅内のベンチで大きく息を吐いた。
今日は、昨日見せられた映像とはまた別の気持ち悪さがあるな……。
「まったく、君は魔法少女になったという自覚が足りてないぴょん。元のだらしないおっさんとは比べ物にならない程のカラダを手にしたというのに」
「うるさいな、こちとら人混みには慣れてないんだよ。つーかお前、有名なら先に言っとけよマジで」
何度か深呼吸をしてようやく落ち着いた俺は、イナバに対し抗議の声をあげた。
東京の電車は基本的に、どの時間帯に乗っても人が多い。
平日の朝となればそれも必然だが……今日に限っては、人の多さが明らかにバグっていた。
結論から言うとコイツのせいである。
俺は事実確認のため、イナバから渡されたスマホを操作し、そこへ表示されたとある記事を見せつける。
「──大人気コスプレイヤー兼Dtuver、赤里イナバ。車内でお前を囲ってるファンが言ってたから調べて見たけど……コスプレしながらDtuverやってんの? そのナリで?」
「
あくまでも飄々とした態度を崩さないイナバに、俺は軽く舌を打った。
そう。どうやら
今では、
そんなイナバだが、どうやらSNS上で俺のことを「妹」として紹介しており、事前にSNSでダンジョン配信の日時や詳細をポスト。既に告知等を済ませていたようだ。
その結果、初配信となる待機所には、既に1000人を超える視聴者が、俺の配信を心待ちにしている状態になっていた。
全く。何から何まで手が早いというか……。
「まぁ、この際お前が有名なのはどうでもいい。結局俺はその恩恵にあやかる訳だし。それはそれとして聞きたいんだけどさ。この制服、いつ用意したんだ?」
「君がその肉体の中で眠っている12年の間だぴょん」
いつの間にか着替えさせられていた制服の裾を摘みながら聞くと、しれっと衝撃的な発言を返してくる。
「
白を基調とした可愛らしい学生服。
黒いスカートに、胸元には赤いリボンが巻かれている。
腰まで伸びた桜色の髪に、精巧に整いすぎた顔立ちが合わさって、マジでアニメの世界から飛び出してきたんじゃないかってぐらい似合っているし、可愛かった。
こんだけ可愛いんだ、そりゃ事前に配信するって告知しておけば、平日といえど見に来るよな。
「やばい。意識し出した途端に、お腹痛くなってきたかも……」
「なら早くトイレに行ってくるぴょん。昼の1時には配信予定だから、あまり時間は無いぴょんよ。平日と言っても、専業探索者がいたら受付に時間がかかるぴょん」
そう言って、俺の手を引いて歩き出すイナバ。
少しくらいは労われよとも思ったが、ここでウジウジ言ったところで何も始まらないし、引き返せないのもまた事実だ。
ここは大人しく、覚悟を決めるとしよう。
※
駅を出て、イナバに連れられて歩くこと5分。
俺は
「なぁ、めちゃくちゃ今更なんだけどさ……。こんなことして大丈夫なのか?」
「細かいことは気にするなぴょん。バレたところで結果さえ残しておけば、ダンジョンに潜るだけの力がある事を誇示できるぴょん」
「誇示してどうすんだよ! それやって捕まるの俺じゃね!?」
「子供は捕まらないぴょん。それに捕まる前に魔法使って誤魔化すから大丈夫だぴょん」
イナバはそう言って笑った。
コイツ、別の世界から来たからってやることなす事が無茶苦茶だ。常識の範疇から大きく逸脱し過ぎてやがる。
一応、ライセンス自体は12歳から取得できる為、肉体年齢的には取得可能なのだが、当然一日そこらで取得できるものでは無い。
しかしそれをこの変態ウサギは、お得意の認識改変魔法とやらで誤魔化して、俺をさっさと探索者にしてしまった。
「お前、こんだけ認識改変してるけど、魔法使ってるわけだろ? 後からバレたりしないのか?」
「
そう言いながら、イナバはダンジョンに入る前の関門所にて、受付を手早く済ませる。
「何にせよ、細かい事は気にしなくていいんだぴょん。とにかくオウカは、その肉体に宿る魔法でモンスター達をぶっ殺せばいいんだぴょん。ほら、ドローンカメラを用意するから、オウカは今のうちに変身するぴょん!」
流れで俺も受付を済ませ、二人してダンジョンに足を踏み入れた途端、イナバがそんな事を言ってきた。
ダンジョンの玄関口。すでに他の探索者らしき人達が俺たちの存在に気付き、視線を此方へ向けてくる。
「お、おいアレ、赤里イナバじゃね?」
「え、ウソ!? ホンモノ!?」
「なんでSランクの探索者が、レベル3クラスのダンジョンにいるんだよ!?」
「ああ、そういや昨日Xでなんか呟いてた気がする……」
「普通に探索しに来たのか? にしては武器も何も持ってないけど。もしかして素手で?」
「どこのお嬢様だよそれ……」
「っていうか、隣にいるあのピンク髪の美少女は誰だ?」
イナバが横でカメラを用意している中、探索を終えたのか、それとも今から向かうのか。とにかく多くの人達が集まってきた。
おいおいおい。コイツまさか、この場で俺に変身しろって言ってるのか? こんだけ人が見てる中で?
『──ファミチキ下さい』
『コイツ、直接脳内に……!?』
あたふたしている俺の脳内に、イナバの声が響いてくる。
『オウカ、有名になりたいんだぴょん? なら、こういう場で変身して、探索者たちの、視聴者たちの目を引くんだぴょん。丁度カメラの準備も終わったし。あとは君がカメラの前で変身して、アイサツをするんだけだぴょん!』
無茶振りをしてくるイナバは、既に準備を終わらせ、自動制御型のドローンが浮遊しながら此方を映している。
カメラ上に取り付けられているタブレットには、既にいくつものコメントが流れていた。
【あ】
【おっ】
【はじまった?】
【はじまった】
【えっ、この子がイナバの妹なん?】
【妹さん可愛い!】
【兄妹そろって顔面良すぎだろ】
次々に流れてゆくコメント達。
最後に待機所を確認したのは30分前で、4000人を超える人が待っていた。
しかしいざ配信が始まると、視聴者の数は増えてゆき、今では約8000人を超える視聴者がこの配信を見ている。
……なるほど。このウサギ、完全に俺から逃げ場を無くしやがったな。あとから俺が「やめる」と言わせないように。
30歳、無職のキモハゲデブおっさんに「逃げ癖がある」ことなんてお見通しってか? 上等だよこの野郎。
俺は深く息を吐き、ニコッと満面の笑みを浮かべて声をあげた。
「──みんなぁ〜はじてまして〜☆ 今日から探索者兼Dtuverとしてデビューします、山田
俺は、読んで字の如く幼女の皮を被り、カメラの前で元気いっぱいに挨拶をした。
ヤバい、想像以上に演じるのがキチィぞこれ……!
しかしコメントでは、【オウカちゃん!】【オウカちゃん可愛い!】【12歳!?】【マジかよもう結婚できる年じゃん!】と盛り上がっている為、成果としては上々らしい。まぁ、中身おっさんだけどな。
けど、今のはただの挨拶。本番はここからだ。
「じゃあみんな、行っくよ〜!
──
【え?】
【へ?】
【めふぁた……何て?】
【いや、ちょっと待って。いま何が起きてんの?】
【なんか急に輝き出した!?】
俺が変身の掛け声をあげると、全身がピンク色の輝きを放し始め、上から順に変身してゆく。
ピンクを基調とした上服に、胸元には制服の時と同じ赤色のリボン。
フワフワとした白主体のスカートに、腰まで伸びていた長髪は、いつの間にかツインテールになる。
魔法少女もののアニメでよく見る、いわばバンクというヤツだが……こんな勝手に着せ替えられんの? 体も勝手に動いてて怖いんだが。
脳裏で一人ごちていると、何もないところからステッキが現れ、俺はそれを自動的に掴んだ。
先っぽがハートのクリスタルがついている、どこにでもありそうなステッキだ。
そしてそのまま、変身バンク処理でキメポーズ。やっと終わったか。やっぱり変身シーンは見るのに限るな。
『オウカ、独り言はいいから! ほら、セリフセリフ!』
「え? ……あっ! み、みんなの
キメポーズのまま、口上と名乗りを同時にあげる。
すると、その場にいた探索者たちは唖然としながらも拍手をし、コメント欄はめちゃくちゃ盛り上がっていた。
【うおおおおおおおおおお!!!!】
【すげえええええええええ!!!!】
【可愛い!!】
【何今の!? どうなってんの!?】
【なんかすごい勢いで変身した!?】
【魔法少女?!】
【マジかよ結婚してくれ】
【すげぇ。今ってこんな魔法あるんだ】
【いや無いだろ……無いよな?】
【スキルじゃね?違うの?】
【可愛いんだから何でもいいだろ!!】
【暇だから見に来たけど、あれ?今って日曜日の朝だっけ?】
【平日木曜日の昼1時過ぎだよww】
俺の変身シーンにより、コメントは爆増し、視聴者数はついに1万人を超えた。
おいおい、まだ探索してないのにこの盛り上がりかよ。
驚いている俺に対し、イナバはカメラ外で此方にサムズアップを向けてニヤリと嗤う。
くっ、何か全部コイツの手のひらの上って感じがして腹立つ……!
『フフ。君が探索者として、そして配信者となる為の導線は僕が確保してるんだから、これくらいは当然の結果だぴょん。さて、魔法少女に
テンション高く、脳内で声を高々に挙げるイナバに、俺も次第に感化されてゆく。
「それじゃあ今から、ダンジョン配信していきま〜す! みんな〜応援してね〜♡」
正直、モンスター退治とか怖いけど……今の俺なら、何が来ても大丈夫な筈だ!
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