第92話 白熱?
シュバルツに移動する方角を確認しつつ、ルース・フェル・ソフィーの3人は立ち寄る町に短期間滞在し、移動を繰り返していった。
それは思っていたよりも距離を要するものであり、時間もかかるものだった。
そして半年ほど経ち彼らの活動には辛い季節ともなれば、方角の影響もあってか、辺り一面に白いものが降り積もる世界が待っていたのだった。
「この先に村があるようです。もう少しです、頑張ってくださいね」
3人が移動を繰り返す中、町と呼べるものはもうないという北のはずれ迄きていた。
その為移動手段も徒歩であり、道の雰囲気もルース達が育った村周辺に近いものになっている。いわゆる“人通りがない道“だ。
チラチラと白い物が舞い落ちる中、
そしてソフィーがいなければ、2人共途中で倒れていたかもしれない。
ソフィーは戦闘魔法こそ使えなかったが、聖魔法を覚えていくにつれ、優秀な人材へと育っていった。
今のように旅の途中では、
「本当にこの
「フェル、便利だからって、気軽にお願いしないでくださいね。
ルースの忠告に、「ええ?!」とフェルは驚いた顔でソフィーを見た。
「大丈夫よ。発動する時にはちょっと魔力を使うけど、維持するだけだと殆ど魔力は減っていないから」
ソフィーは何とも頼もしい事を言って、フェルとルースに心配は無用だと説明する。
本来の
このままでは先に進めないとルースとフェルが苦慮する中、ソフィーが
「私、攻撃魔法は使えないけど、こういうのは上手くできるみたい」
2人の役に立つかしらとソフィーは遠慮がちに提案してくれたのだったが、この方法がなければ今頃はまだ、ずっと南の町にいただろうと、ルースとフェルは頼もしい仲間に感謝の笑みを浮かべていた。
『“そふぃあ“ハ,便利ダナ』
シュバルツの念話は、フェルの肩から発せられたものだ。雪が降り始めてからシュバルツは、こうしてソフィーが出す
「シュバルツ…」
ルースはフェルの肩に視線を向け、その言い方はないでしょうと眉根をよせた。
「ん?また何か言ったのか?こいつ」
ルースの視線を見たフェルは、ルースに問うような視線を返した。
「フェルの肩は、居心地が良いのですって」
フフっと笑ったソフィーが、フェルに視線を向けてそう話す。
ソフィーの通訳は棘を抜いた言葉になってフェルに伝わる為、フェルが直接聞こえるようになれば大変だなと、ルースはため息交じりに苦笑した。
「あぁ村が見えてきましたね」
視線を前方に転じたルースが、白い景色の中に村らしき情景をとらえた。
それらの家々からは、暖を取っているためか白い煙も立ち昇っており、やっと人の気配を感じられた事に少しだけ癒される。
こうして3人は北の果てとも呼べる村へと到着し、村の入口から近い一軒の家の扉を叩く。
コンッコンッ
「こんにちは。旅の者ですが、どなたかいらっしゃいますか?」
今は
「多分、私が声を掛けた方が警戒されないと思うの」
村に着く直前にそう2人へ話したソフィーは、ここでも自らが率先して動いてくれているのだ。
ノックしてから少し経って家の扉が開き、40代位の、陽に焼けた顔色の男性が顔を出した。
「何だ?ああ本当に人の声だったか。こんな日に尋ねてくる人がいると思わなかった」
その男性は降りしきる雪を見上げてから、扉の前に立つフードを被ったソフィーに目を留め、それが少女だった事に目を見開いた。
「あの…私達は旅の者で、泊まれる所を探しています。どこかに、泊めてもらえるところはありませんか?」
ソフィーの言葉を聞いた男性は、「こんな雪の中を移動してくるなんて」と頭を振ってからソフィーの問いに答えた。
「村長の家で聞いてみてくれ。村長の家はここを真っ直ぐ進んで、その先の木がある所を右に曲がった奥だ」
「分かりました、ありがとうございます」
村の道も見えない雪に埋もれた村。所々に柵があって何となく道だと分かるが、ざっくりと教えてもらった方角に進めば、ルース達の足跡だけが残され、それにもすぐに雪が舞い降りる。
確かにこんな日に、好き好んで外に出る者はいないだろう。
そして、こんなに雪が積もる場所でどうやって生計を立てているのだろうと、ルースは最後尾を歩きながら、点在する家や遠くに見える大きな建物を眺めていた。
村に入る前に飛び立ったシュバルツは、この近くで待機しているらしい。シュバルツも一応魔物なので、村人が怯えない様に姿を隠してくれているのだ。
ルースはシュバルツの気配を感じながら、踏みしめる雪の音を聞いていた。
そして教えてもらった大きな木を見つけ、そこを右に進む。その先には他の家より大きめの平屋の家が、暖かそうな煙を上げながら白い景色の中に佇んでいた。
村長の家は、多分ここだろう。
今度はルースが家の扉を叩いて声を掛ければ、すぐに中から年配の男性が顔を覗かせた。
「…どちらさんかな?」
見知らぬ3人の顔をみたその人物は、少し警戒した様に声を出した。
「私達は、冒険者をしている旅の者です。この近くを通りかかり、この天候もありまして泊まる所をお借りできないかと、ご相談に参りました」
ルースの言葉を確かめるように、フェルとソフィーの姿も確認してから緊張を解くと、村長は一つ頷いた。
「そうかい。この雪で移動も大変だったろうね。取り敢えず中に入っておいで」
荒くれ者の冒険者ではないと判断されたらしく、村長は柔和な面差しを浮かべて3人を家へと招き入れてくれた。
家に入れば、そこは暖かな空気に満たされており、知らずして3人は「ほぅっ」と安堵のため息をこぼす。
「ほほっ。あったかいだろう?」
マントを脱いで浮かべた3人の表情に、村長は笑みを浮かべた。
3人の顔は、寒かった外気からの温度差に、とろけるような表情になっていたのだ。
村長は台所にあるテーブルへ皆を案内すると、そこで湯気を立てている湯をポットに注ぎ、3人の前にお茶を出してくれた。
「熱いお茶だよ、温まりなさい。儂はこの村で村長をしている“リット“という」
3人の前に腰を下ろした村長は、そう言ってルースを見た。
その視線に、話を促されたと悟ったルースは口を開く。
「私はルース、彼はフェルゼン、彼女はソフィアと申します」
「…君たちは、まだ若そうだね」
「お恥ずかしいのですが、まだ17と16です」
「ほう。それでもう旅をしているのか」
「はい。冒険者になってから、各地を巡っています」
端的に話すルースに、尊老の男性は愁いを帯びた眼差しを3人へ向け、それ以上尋ねることなく頷いた。
「それで、泊まる所と言ったかな?ご覧の通りここは小さな村で、宿屋はない。うちの裏に作業場として使っている建物があるから、そこなら泊まってもらって構わないよ。食事はここで作るから、食べに来ると良い」
村長が部屋を貸してくれ、更に食事まで出してくれるとの話に、ルース達3人はホッとした。
ルースとフェルはここの様な村出身である為、村に宿がない事は承知していたし、閉鎖的な村では宿泊さえ拒まれるのではと考えていたのだ。
「「「ありがとうございます」」」
ルースとフェルそしてソフィーが揃って声をあげれば、台所から続く扉が開き年配の女性が顔を出した。
「あなた…お客さんを台所にお通ししたのですか?」
「ん?居間は作業で使っているだろう?だからこっちに来てもらったんだよ?」
「せめて私にも、声を掛けてくれれば良かったのに…」
村長とのんびり言い合いをしている人は、どうやら村長の奥さんらしい。その奥さんが居間で何かをしていたので、邪魔にならない様に台所に通してくれたようだった。
「あの…私達はすぐにお暇しますので大丈夫です…」
ルースがそう口を挟むのが精いっぱいな程、この後ルース達を置き去りにして、村長たちは白熱した議論を繰り広げていったのだった。
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