第75話 色彩
ルース達はクエストの薬草とスライムを1匹捕まえ、ニコニコ顔で町に戻りはじめた。
「さっきのスライム、聞いてた色とは違うヤツだったよな?ルース」
フェルは先程捕まえたスライムが、ギルドで聞いた“緑・青・赤・黄・白“のどれでもないと不思議がっていた。
そこはルースも思ってはいたが、そもそもスライムはどれも透き通った物であり、そこに少し色がついている感じの物だ。多分白の事ではなかろうかと思いつつも、不確かな話である為、余計な事を言ってフェルを混乱させるのもどうかと、ルースはそれを口にはしなかった。
「まぁ、ギルドに着いてからのお楽しみにしましょう」
「おう、そうだな」
思いのほか、スライムを手早く仕留める事ができたため、町へ着く時間は予定通りになりそうだなと、フェルはソフィアに今日の出来事を話しつつそう伝えながら歩いていた。
「ソフィアさん」
「はい?ルースさん、何ですか?」
ソフィアはフェルと並んで歩きながら、後ろを歩くルースを振り返った。その顔には今日一日がとても楽しいものであり、色々な事を経験した喜びが浮かんでいた。
「町へ戻る前に、貴方に伝えておきたい事があります」
ルースがそう話せば、フェルも何だ?と足を止めてルースを振り返った。しかし言われたソフィアは、何か残念な事を伝えられるのかと眉尻を下げ、悲しそうな顔になる。
それに微笑んでからルースは口を開く。
「私達は友達になった…と私は思っていますが、そう思っても良いですか?」
何の話かと思えば、わざわざそんな事を言うのかとフェルは鼻を鳴らす。
「俺はもう、友達だと思ってたけど?」
追加されたフェルの言葉に、ソフィアは頬に赤みを乗せた笑顔を見せた。
「嬉しい…私は友達と呼べる人がいないので、そう言ってもらえると嬉しいです。同じ位の年の子は魔法教室位でしか知り合えないのに、あんな感じなので…」
苦笑に変わったソフィアの顔は、それでも目を輝かせてルース達を見ていた。
「それでは、その友達に一つお伝えしたい事…いえ、お伝えしておかなければならない事があります」
「それって、お二人がもうすぐこの町を離れる、という事ですか?」
ソフィアは人の話をよく聞いているなと感心しつつ、「それもありますが」とルースは続ける。
「貴方自身の事です。貴方は今まで魔法の練習では、何の属性を使ってきましたか?」
急に魔法の話になり、ソフィアは顔を曇らせた。
「えっと…。魔法教室の最初の授業で、先生から教えていたく詠唱を皆が復唱する事で、発動した属性が自分の使える属性だと認識するのですけど…。私は威力を出せなかったけど、水と火、土と風の四属性が使えました。だからそれからは、水と風をまず練習し始めたんです」
「それ以外の属性は?」
ルースが続けて尋ねれば、困ったようにソフィアは答える。
「それ以外?…先生からその4つしか、詠唱を教えてもらいませんでした。他って何があるんですか?」
ソフィアは先生からその四属性しか知らされず、その為、今まではそれらの練習をしていたのかと、聖魔法を発動させていないことの原因を突き止め、ルースは頷いた。
「他には雷と聖、闇。聖魔法の一部は、光魔法とも呼びます」
ルースの出した属性を聞いたフェルが、そこで口を開いた。
「ルース、それって聖職系と魔の者が使うやつじゃ…」
「そうです。聖職系のみ使う事ができる雷と聖魔法、後は魔の者が使うと言われている闇魔法。魔法は全部で七属性あると言われています。ただし、これは私達が理解している範囲のもの、という前提ですが」
そう話すルースは、これはフェルにも関係のある事だとフェルと視線を合わせた。
「聖を冠する
ルースは、今まで本を読み得てきた知識を2人へ話す。
魔法関連の本は、シンディが持っていた物を借りて読み込んでおり、それには魔法の基本と呼べるものが記載され、“魔法とは“という章に属性についての記述があった。そこには七つの属性が書かれ、自分は四つしか使えぬのかと
「ですのでフェルは、これから雷属性の詠唱を覚えていって下さい。そしてソフィアさんは聖魔法の練習をすると良いでしょう」
ソフィアは、途中からフェルの話になったのかと黙って聞いていたのだが、いきなり自分の名を呼ばれ、少々面食らった顔になった。
「え?どういう事ですか?聖魔法は、聖職系の
「はい、その通りです。貴方はそちら側の
「でも私、
「そうでしたね。それについては私の想像ですが…ソフィアさんは間違った道に進もうとしていたので、
「ええ。だから私は魔力があったので、魔法の練習をしていたんです…」
「そうでしょうね。ただ、貴方は魔力がある人が成れる
ルースに聞かれたソフィアは、ただ魔力があれば魔法使いにしかなれないのだと思っていた。その為、今までそうなれるように頑張ってきていたのだ。
「いいえ…」
弱々しい返事をするソフィアに、ルースは“わかっています“と頷いて話を続ける。
「魔力がある人が成れる
ルースはそう言うと2人の横に並び出て、顔が見えるよう一列に並んで歩きだした。
「それから“魔女“。魔女も人を癒す聖魔法を使う事ができます。しかしそれらは少々区別して呼ばれ、魔女の使う治癒魔法は“光魔法“と呼ばれているようです。そして“司祭“や“神官“など、聖職者と呼ばれる
ルースはそこで、フェルも理解しているのかを確かめ、フェルが話を理解しようとしている事に頷いた。
「そして、“錬金術師“と“魔導具師“と“
話を振られたフェルは、ムムムと眉根をよせて渋い顔になった。
「う~ん、全くわからない」
「ええ、そうだと思います。普通に生活していれば全く耳にする事はない
「え?」
「はぁ?!」
ソフィアとフェルの驚いた声が重なる。
「そんなのいるのかよ…」
「私もお話の中のものだと…」
2人はそう言って、口を噤んだ。
「もしかすると、これ以外にも魔力を使う
「え?なんでルースさんは、聖魔法って言い切れるのですか?」
ソフィアが言う事は尤もな事だった。
ソフィアとの付き合いもまだ数える位しかないし、魔法の練習をしているところを見た事も同じ位しかない。しかし、そんな出会ったばかりの者に確定とも呼べる言い方で話すというのは、何を根拠にしているのかという話になるだろう。
「それは、シュバルツが気付いたからですね。私に“なぜソフィアさんは聖魔法を使わないのか“と、聞いてきましたから」
ソフィアとフェルは、先程から黙ってルースの肩に乗っているシュバルツに視線を向けた。
それに対し、肯定するように“カー“とシュバルツは声を上げる。
「魔法の属性を調べる為には、普通…と言っても方法はたくさんあるのかも知れませんが、まず自分の中にある色を視るのです」
「色…」
「ええ。聖属性ならば白い色が見えるらしいのですが、しかしそれには、ソフィアさんは当てはまりません」
「えっ何で…ですか?」
ルースはソフィアの問いに、しっかりと目を見て伝える。
「貴方は、火・風・水・土…それに加え“聖“が使えるはずです。その様な人は、自分の中にある属性の色を特定する事ができないのです。赤・緑・青・黄・白…その色んな色が交じり合い、それを感じとる事になる。その為、多属性持ちの者は、自分の持つ属性の色が交じり合って虹色の様に見えるはずです。私の様に…」
そう話すルースは、今まで隠してきた事…自分も多属性の魔法が使えるのだと、ソフィアへ告げていたのであった。
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