第13話 少年の決意
ルースがこの村に来て5年。
魔物は年に2度ほど森に出るようになり、その度にマイルスが対応し、それを心配そうにシンディが見送るという事を繰り返していた。
結局この2人は、ルースを介することで頻繁に一緒にいる時間も増え、今ではマイルスがシンディの家で、一緒に夕食を摂る事も多くなっていた。
「今日も旨かった。ごちそうさま」
マイルスがそう言って食事を終えた。
「お粗末様でした」
とシンディが笑みを向けるのは、最早毎日の事である。
「ごちそうさまでした。私は裏で練習をしてきます」
剣の練習を始めてから、ルースは魔法の練習を夕食の後に行っていた。そして最近は一人で練習することも増え、その間シンディとマイルスはそのまま話をして過ごしている。
「ルース、気を付けてね」
魔法は使いこなせるようになってきたルースだが、やはり心配で一声かけるシンディである。そして未だにマイルスにも、ルースの四属性の事を伝えていない事もあり、その辺りの言葉は濁している。
「はい」
それを笑って返事をしたルースは、扉をぱたりと閉めて裏庭に出て行った。
「あいつも大人になったな…」
苦笑しながらそうマイルスが呟けば、シンディがお茶を入れ2人分をテーブルに置く。
「ルースは以前から大人の様だったわ」
「そうなんだが、そうじゃない…というかな」
ルースに気を遣われている事を感じているマイルスは、頭をかいて苦笑する。
「そうね…ルースは私でも分る位の速さで大人になっていくのが、少し寂しいんだけど…」
シンディが長いまつ毛を伏せ寂しそうに言えば、マイルスがカップに手を添えているシンディの手に、自分の手を添えた。
その手にシンディが、伏せていた眼差しを上げてマイルスを見れば、マイルスは真摯な目をシンディへ向けていた。
「なぁ…寂しいなら、俺が一緒にいてやるよ」
マイルスの言葉に目を瞬かせ、シンディはマイルスを見つめる。
シンディは勘違いしない様に、赤くなりそうな自分にストップをかける。こういう言葉をさらっと言ってくるマイルスは、きっと女性にもてるのだろう。ここで勘違いをして“もしかして“と思ってしまえば、自分はただの
だからこれはきっと、寂しいと言った自分に親切で言ってくれているだけなのだと、シンディは自分を叱咤した。
「ふふ。そう言ってくれると気が休まるわ。お気遣いありがとう、マイルス」
シンディはそう言葉を紡ぎ、精いっぱいの笑顔を向けた。それに対してマイルスは、自分の言葉が足りなかった事を理解する。
「…そういう意味じゃない…。俺はまだこの村では新参者で、シンディと会ってからもまだ日は浅いかも知れない。だが俺は…シンディの全てを知りたいと思っている。好きな食べ物、嫌いな食べ物。何を喜び、何を悲しむのか…。そういう意味で、これからずっと一緒にいて、シンディの事をもっと教えて欲しいと思っている」
マイルスは、シンディの手に添えた自分の手に力を入れ、まるで逃がさないといった風にその手を包み込む。
「俺と結婚しないか?」
そう言葉を絞り出すように、マイルスは言葉を紡ぎシンディを見れば、その瞬間シンディの顔が赤く染まる。
しかしシンディは、マイルスにまだ話していなかった事があると思い出す。
「でも…。私の年を伝えていなかったでしょう?私はもう32歳になるのよ。悪く言えば行き遅れというの。それでも良いの?」
「あぁ俺が34だから、丁度いいな」
そうマイルスが返せば、シンディは笑って言う。
「ふふ。嬉しいけど、まずはルースに聞かないと。ルースがダメと言えば考え直してね?」
少しいたずらっぽくシンディが言えば、マイルスがニヤリと口角を上げる。
「あいつは、良いと言うに決まってるさ」
まるで既に結果を知っている様な口ぶりに、シンディが首を傾げた。
「そうなの?」
「ああ。ルースはこうしていつも、俺達だけにしてくれているんだ。多分、俺の気持ちに気付いていなかったのは、シンディだけだと思うぞ?」
そう
実は今の2人の会話は、裏に出て魔法の練習をしているルースにも聞こえていた。
普通であれば聞く事のできない距離であるが、ルースは風魔法の練習をしている時に、空気を使った音の伝達方法を偶然見つけ、それを使って少し離れた場所の会話が聞こえるまでに、練度を上げていたのだった。
その為、いつもマイルスとシンディを二人にしている間、不埒なことがないか一応気を配っていたのだったが、今日は一気に、マイルスがシンディとの距離を縮めたようだなと、ルースは少し寂しく思いながらも祝福していた。
この後、家に戻ったルースに、マイルスからシンディをくれと言われたルースは、腕を組み、わざと渋い顔を作ってたっぷりとマイルスをからかってから、心からの笑みを向けて祝福したのだった。
「本当に、良い性格をしてるよ…」
と、マイルスがぽつりと言う。
そしてこの時ルースは心の中で、一つの決意をしていたのだった。
-----
それから数日して、15歳になるルースのステータス確認の日、いつもの様にピーターに名前を呼ばれてから、ルースは礼拝室へと向かう。
さっきのピーターの顔はとても嬉しそうで、きっと
15歳までに
ルースが、ステータス掲示板の前にいる司祭の下へ行けば、司祭から柔らかな眼差しが返ってくる。
その視線の位置は、初めてここに来た時には見上げる程であったが、5年経った今では少し上に視線がある位となっていた。
「ルース君も大きくなりましたね。初めの頃は細くて、大きくなるか心配していたのですよ」
今なら笑って言えますが、と司祭が色々とアドバイスをしてくれていた事を思い出したルースは、苦笑いを返した。
「そうでしたね。司祭様にはご心配をおかけしてしまいました。今も、ですが」
とルースは言葉を返す。
それに笑みで答えた司祭に促され、ルースは虹色の珠に手を添えた。
―ブワンッ―
虹色の輝きが増して、ステータス掲示板に文字が浮かんだ。
~~~~~~~
『ステータス』
名前:ルース
年齢:15歳 (前回:14歳)
性別:男
種族:人族
レベル:1
体力値:120 (前回:98)
知力値:80 (前回:67)
魔力値:88 (前回:75)
経験値:65 (前回:55)
耐久値:40 (前回:35)
筋力値:48 (前回:33)
速度値:48 (前回:36)
スキル:倍速 (前回:同)
称号:―
~~~~~~~
■※15歳参考平均値
~~~~~~~
体力値:100
知力値:60
魔力値:55(※保有者の平均値)
経験値:40
耐久値:32
筋力値:30
速度値:38
(16歳以上は
~~~~~~~
今回の数値は、全体が15歳の平均を大きく上回っており、これは倍速スキルの恩恵であるといえる。
ルースのステータスを見た司祭が、笑顔で振り返る。
「おめでとうございます。
と、そうルースへ付け加えてくれた。
「ありがとうございます。やはり剣の練習をしていたから…でしょうか。だったら勉強も頑張っていたので賢者という職になっても良かったと思うのですが…」
そう言ったルースに司祭は笑う。
「賢者という
「そうでしたか…。まだまだ知らない事がたくさんある事は解りました」
そう言ってルースは頭を下げた。
本当にこの少年は成長が早い。
知り合った頃は言葉もたどたどしく幼子の様で、大丈夫なのだろうかと心配したものだが、今では村の子供たちの中で一番大人になってしまったのだなと、司祭は感慨深く、大きく頷き返したのだった。
ステータスの確認が終わったルースが部屋に戻れば、ピーターが笑顔で近付いてきた。
「ルースも出たんだろう?」
嬉しそうにピーターが話しかける。
「はい。私は『剣士』でした」
ルースがそう告げれば、部屋の中が一斉に静まり返った。
どうしたのだろうとキョトンとすれば、ピーターが苦い顔で「そうか」と呟いた。
「いけませんでしたか?」
ルースは解らずそう返せば、皆の視線がルースに集まった。
「いけない訳じゃないんだ…。ただ、剣士はこの村に職がないだろう?」
ピーターの言葉を聞いたルースが苦笑した。そういう事か、と。
「ええ。私は元々
「ええ?!出ちまうのか?シンディさんはどうするんだよ…」
ピーターが泣きそうな顔で返せば、それにもルースは笑う。
「シンディの事は問題ありませんよ。騎士様がいますので」
ルースがそう言えば、ピーターを含めた殆どがキョトンとしている中で、数人の女の子達だけがその意味に気付き、頬を染めた。
「ん?この村に騎士はいないぞ?」
言葉のままにとらえたピーターがそう言えば、ピーターの後ろで「もー男はこれだからねぇ」等と女の子達の声が聞こえた。
ルースはそれに付け足す形で、ピーターに耳打ちする。
「シンディは近々結婚すると思いますので、守ってくれる人がいる、という意味ですよ」
と。
それを言われてはじめて理解したピーターが、笑みをこぼす。
「そういう意味かよ…そんなコウショウな言い方されても、俺はわかんねーよ…」
情けない声を出したピーターにルースが噴き出せば、先ほどの静かな雰囲気から一転、和やかな空気となりルースはホッとする。
こうして15歳になったルースは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます