第5話 合否判定

今日は高校の合否が発表される日だ。


あと3分…


ドキドキとした心臓の音が耳を埋め尽くし、受験票を片手に、真栄高校の掲示板を見つめる。


時計の針が12時になった頃、合否発表が始まった。掲示板に張り出された大きな紙に、数字がズラッと並んでいる。


僕は400人分の受験番号を必死にたどりながら、自分の番号を探した。


「2,082……2,399………2,601……2,757…」



…ない



「落ちた?」


間抜けな声が漏れ、信じたくない思いで何度も確認するが、そこに僕の番号は存在しなかった。


ポイントは結構取ったはずだ、亜種だって倒したし、その後大型も何体か倒している。


考えられる可能性は、受験者側は知らない裏ポイントがあるのか、単に僕は守護者の資質がないと判断されたのか…


とにかくない物はない。


膝から崩れ落ち、生きる気力をどこかに置いて来たのかと思うほど僕は落ち込んだ。


絶望しすぎると涙腺が死んでしまうのか、涙も出ない。それがまた余計に辛く、心に突き刺さる。


灰色の地面をトボトボ歩いて帰路に着くが、一歩一歩が鉛のように重かった。


すると突然背後から誰かに声をかけられた。


「よ!坊主元気か?」


紺色のコートを羽織り、チュッパチャプスを咥えたおっさんがいた。


今日は曇りだと言うのに、マスクとサングラスをつけている明らかに不審者であるが、コートの下には軍服のような服をきているので、不審者ではないと思いたい。


「えっと…誰ですか?」


「オレは北原ってんだ、ざっくり言えば守護者たちの上司みたいな人よ」


そう言いながらおっさんは、身分証の様なカードを僕に投げる


「武者特殊管理官?」


「おうよ!まぁ面倒くせぇ前置きはいいとして…、おめでとう兎束 約!今回お前は、特殊部隊…【武者】の育成機関【士魂】に推薦されましたぁ〜!」


「………は?」


「あれ?通知行ってねーの?」


「通知ですか?いや、見てないですね…スマホの電源は切ってたので…」


「あちゃー、しゃあねぇ1から説明したるわ」


おっさんの話によると、今回の実技試験で僕は十分ポイントを稼げていたらしく本来なら合格の予定だった。


しかし僕の実技試験での映像を見た対策本部のお偉いさんの一人が、『アイツ優秀だな!よし、アイツを武者に育ててみようぜ!』と現在企画中の【武者】で使えるだろうと、育成機関へ推薦したらしい。


一体そんなことを言う人は誰なのか凄く気になるが、一旦その話は置いておく。


武者とは枠組みとしては守護者と同じ扱いであるが、目的は別にあるらしい。


その目的は過激派異能者を鎮圧、ならび逮捕が目的とされる言わば攻撃部隊だ。


「いや、でも僕の異能はただの強化ですよ?」


「そこら辺は後で話す、とりあえず来るか来ないのか?」


ふざけたような態度だった北原さんが、急に真面目な顔をして言った。


「この部隊は守護者と違って本元を叩く部隊だ、地道な調査から、敵の支配系異能者との戦闘は当たり前、なんなら守護者より危険だ。相手はなんせ契家だからな、この6年間が平和だからって気は抜けねぇ。そんな世界に入り込む為の育成機関にお前は招待されたんだ、来るなら相当の覚悟をしとけ」


契家、ユイの実家で敵の親玉

武者になればまたユイと会えるかもしれない、そのための育成機関【士魂】に入れる機会があるのなら


「行きます」


迷うことなんてなにも無い


「了解っと」


「ちなみに断ったらどうなってたんです?」


「しゃあねぇから真栄高校に入れてたと思うぞ」


「意外と優しい対応なんですね…」

____________________


北原さんに連れられやってきたのは、昔ながらの瓦屋根の木造の建物、中の風景も至って普通である。


しかし入った瞬間景色が代わり、上を見上げるとあるはずのない青空が広がっていた。周りは見たこともない建物などが並んでおり、自分だけ未来の世界に迷い込んだのかと錯覚しそうになる。


「ここが現在計画中の【武者】本拠地だ」


「すごい、この空間も異能によるものなんですか?」


「いや、昔こんな感じの異能…四次元拡張っての?があったらしいんだが、それを再現したのがこの建物らしぞ。外観はただの古い家ってのに中は街1個分より広いらしいぜ?」



北原さんの解説を聞きながら、色々な建物が並ぶ場所を通り抜け、ひときわ大きな建物の中に案内された。


受け付けのようなものを済ませた僕は、しばらく待っているように言われる。


…………………………



しばらく待っていると、四人ほどの足跡が近づいてきた


「この人が最後ですか、ほんと…またせすぎです」



先頭を歩く真冬の雪のような真っ白な髪を、サイドテールに結んでいる女の子が、呆れ顔で言った。真冬なのにも関わらず、厚着をしていないようだが全く平然としている。こっちは、見ているだけで寒い。


「30分もまてねぇのか冷凍女は…」


その言葉に対して馬鹿にするように煽ったのは、真っ赤な髪が特徴的な男子だ。トゲトゲの髪は燃えるようにゆらゆらと揺れており、その下にはキツめの顔が白髪の女の子を睨んでいた。


「なによ?喧嘩なら買うわよ?」


「上等だいつでも燃やしてやんよ」


二人は互いに吹雪と炎をを出しながらにらみ合い、バチバチと火花を飛ばしていた。


「ふたりとも、落ち着くべき」


そこに仲裁へ入ったのは腰ほどまでに伸びたプラチナブランドの髪を、ふんわりと広げた髪型の女の子だ。

身長は140cmあるかないかで、とても小さい。目がクリっとしていて可愛らしいが、無表情だ。


「そうだぞ、これからチームになるのだ。喧嘩はよろしくない」


それに賛同したのは大きな男子だ。

先程仲裁に入った少女と比べると余計に大きく感じる巨体は、縦にも横にも広い頼れる背中って感じだろう。

ほんのり日焼けした肌に、黒に近い緑色の髪は不思議としっくり来た。


「で、結局この冴えない青頭のヤツが最後の一人でいいのね?」


「そうだぞー、みんな集まったな」


四人組の後方から現れた北原さんが、間の抜けた声でそういった。

この場でわざわざ顔を合わせたのだから、今後の方針として何らかの関わりがあるのだろう。


「もうわかってるかもしれないが、ここにいる5人が今後一緒に行動するメンバーだ。お前たちが入ることになるこの機関は、見習いの研修生枠であるお前たちも十分ん危険が伴う」


北原さんは僕たちの顔を見ながらだるそうに説明を続ける。


「まぁつまり、学生だからって甘やかしたりはしないぞー、勉強と並行してここでは守護者と同じように任務やって経験積んどけ。んで十分に強くなったら、正式に武者採用ってわけよ」


最後にニヤリと笑った北原さんは、それぞれに部屋の場所を渡した。


「これお前らの部屋な、あとの話は明日だ明日、俺は帰る!嫁さんと娘が待ってんだわ、じゃあな」


そうして北原さんは本当に帰ってしまった。


「この後どうすれば…」


率直な疑問が頭に浮かぶ、北原さんは気を利かせてくれたようだが、ありがた迷惑になりそうだ。


「しらねぇよ」


「私は部屋を見に行くわ」


「私も…」


「俺は鍛錬に行く」


他の面子もそそくさと帰ってしまう

残ったのは赤髪の男子と僕だけだった…




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