第4話 入学試験
〜六年後〜
ユイが姿を消してから六年が経った。
僕は15歳になり、声変わりもしたし、身長も結構伸びたと思う。
この6年間、いまだ過激派との決着は付いておらず、大きな動きも減っていた。
変わったことと言えば、首都が二つに割れたことだろう。
東京は過激派が主に統治しており、穏健派と強化系の議員たちは京都に新たな政府を作ったのだ。
東京はもはや支配系の楽園であり、その周辺の県も支配系異能者が多く住んでいる。
支配系異能者は少ないため、日本全土が奪われたわけではなく、東京とその周辺の県が新政府の手から離れている状態だ。
ジャッジなどの化け物は相変わらず現れるが、今ではそれらの化け物と戦う特殊部隊、通称【守護者】が設立されたため、被害は六年前より格段に少なくなった。
それと同時に守護者は今、一種のアイドル的存在まで地位を確立し、民衆の希望の星となる。
そうなれば守護者に憧れる少年少女が出てくるわけだが、守護者になるための壁は相当高く、条件がとても厳しいため守護者の数自体は少ない。
あくまで自衛隊の延長線上みたいな立場だ。
何故そこまで厳しい条件があるのかと言えば、守護者の役割に関係してくる。
守護者は皆をジャッジや過激派の攻撃から守り、人々の希望でい続ける必要があるからだ。
つまり負けてはいけない
絶対に勝たなければならない。
たったそれだけのルール、しかしソレが恐ろしく難しい。
ジャッジは弱いわけではない、個体差はあれど、どの個体も暴力的な破壊力ならび強さを持っている。
もちろん人間が戦うとなれば、死ぬ可能性が高いだろう。そんな敵と戦うからこそ死んではいけない、負けることはもちろんスマートに勝利することも求められる。
ソレらの理由から、守護者のになるための壁は高い。
ではどうすれば守護者になれるのか、ソレはまず守護者の養成学校に3年間通うこと、それでやっと守護者の試験を受けられる資格を得ることが出来る試験の資格を手に入れることが出来る。
ややこしくなったが、つまり守護者の試験がある。その試験を受けることが出来るようになる資格がさらにあって、養成学校に通うことでその資格試験を受けられるようになる。
そして僕は今日、その狭い門を潜るべく
筆記に関しては問題なく通過したが、問題なのは実技試験だ。
守護者大半を排出する養成学校は、筆記試験に加えて実技試験を行い、筆記では八割を通し実技で九割わや落とす悪魔のジェットコースターと呼ばれている。
実技では守護者の才能を見分けられるため、資質がなければ即アウトなわけだ。
受験者は5.000人その内、入学できる者は400人しかいない。
『2.501〜3.000番受験者の皆様は地下二階にあります、第六体育館にお越しください』
ちょうどアナウンスが流れ、僕の番が回ってきたようだ。
僕の受験番号は2,741番のため移動である。
緊張と寒さで手が震え、まだ寒い一月の冷え切った空気が肺を冷やした。
試験の内容は市街地を装った会場で50分以内に仮想の敵を倒し、より多くのポイントを稼いだ者が合格者となる。
仮想の敵はジャッジ
ジャッジの強さは大きさに比例するので、ポイントも大きければ大きいほど高い。
例外として、強力な異能を持つ色違い、つまり亜種は体の大きさに反比例した強さを持ち、二足歩行をする個体が多い。
「亜種100ポイントだってよ、大型が20ポイントだから、大目玉だな!」
試験を受けに来た学生が、興奮しながら友人と話していた。
そんな会話を横目に、僕は静かに開始時間まで待った。ぶっちゃけると知り合いが全くいない…
『試験開始まであと1分』
会場の天井に吊るされた大きなスクリーンに、デジタルのカウントダウンが表記された。
『10,…7,…6……3,2,1,スタート』
開始のブザーが鳴り響く、それと同時に一斉にスタートした受験者たち。例にもれず僕も走り出した、その時…
ズドゥーンッ!!!!!!
大きく開いた一本道に降り立った1体のジャッジ
通常個体より小さく、体はオレンジ色ではなく藍色、二足歩行で立つ姿は、まるでファンタジーの世界から龍が飛び出てきたかのようだ。
人工の光を反射する光沢のある鱗は、銃をもってしても貫けなさそうだ。角は悪魔のように捻じれ、藍色とは対照的な黄色い角
「さっそく亜種登場か…」
皆が驚きで止まるなか、僕は両腕を硬く握り閉め、低く真っすぐに跳躍した。
異能で強化された脚力は、人の群衆を一瞬で抜け、市街地の開けた街並みが視界に移った。
ソレを見たほかの受験者が慌てて動き出す音を聞きながら、ただひたすらにジャッジを観察した。
角が淡く光っている、余裕そうな雰囲気から奥の手か何かを持っていそうだ。その場合短期決戦の瞬殺が望ましい、相手に手札を引かせる前に連撃をたたき込み、一気に上がりまで持ち込みたい。
遠距離攻撃の手段を持たない僕は、ほかの支配系の異能をもつ受験者より不利だ。理由はいたって簡単で、僕の拳が当たるより先に何らかの遠距離攻撃が二度も三度も繰り出されてしまうからだ。
行動が遅れれば不利になるのは僕だ。
案の定後ろから石の弾丸や、風、光線などが飛んでくる。
ソレを強化した耳で聞き分け、的確によけながら亜種へと近づいていく。
突然耳が機械音のような低い音を後頭部あたりから拾った。
普通じゃ聞き取れない低い音
とっさに体をかがめ、姿勢を低くする。
ドンッと衝撃が走り、一瞬視界が揺らいだ。
後方からも人が倒れる音が聞こえる。
避けてこの威力だ、まともに当たっていたら気絶して当たり前だろう。
「衝撃系の異能…!あの亜種、支配系かッ!」
今度は顔の数センチ前方に低い機械音がなり、青いサークルのようなものが出たかと思えば、強い衝撃が走った。
それを体を仰け反って腕を前に伸ばしながら膝を落とし、滑り込むようにして回避する。それなりの速度で走っていた僕の体は慣性を持ちながら前へと進む。
続いて瞬時に姿勢を立て直し、今度は足元のサークルを跳んで回避した。
連続で出せるのを見るに、相手の消耗は少なそうだ。
「脚部強化、4倍掛けッ‼」
アスファルトの地面がきしむほど踏ん張りを聞かせて、弾丸のように飛び込んだ。
亜種はその速度に追いつけないのか、設置するようにサークルをばらまいた。
ばらまかれたサークルから衝撃波が飛び出すが、角度はついておらずすべて一方向を向いている。
空中を跳ぶ僕は、ハードルを飛び越えるようにして体を区の字に折り曲げ、くるりとその場で回転した。
「足先7倍強化ッ」
今できる最大強化を足に集中させ呼吸を止めて力を籠める。亜種の顔面左頬に狙いをフォーカスし、思い切り振りきった。
ダンッ‼っと大きな衝撃と音を響かせ、亜種がぐらついた。
亜種で体が小さいと言っても2m以上はある、これだけで倒すのは無理だろう。
着地の足で亜種の脚部を全力で踏みつけ、逃げられないように固定する。
衝撃で伸びきった首元に、右のアッパーと叩き込んだ。
またもや亜種の体は姿勢を崩し、鱗がない下腹部がさらけ出される。
そこめがけて本命の左をたたき込んだ。
「はぁッ!」
鱗が存在しない部分を狙った一撃は、亜種の体にめり込むほどの速度と威力をもっており、ボールが弾けるように吹き飛んだ亜種は、壁にぶつかるとそのまま崩れていくのだった。
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