第6話 風呂は熱い
ぽつんと取り残された僕と赤髪の少年
「と、とりあえず自己紹介?僕は兎束 約、普通にツヅムでいいよ」
「俺は
そこから会話が途切れた
無言、会話が続かない気まずさはもう何とも言えない罪悪感がある。
「ぼ、僕出身が静岡だから勝手がわからなくて…エンマ君はどこ出身なの?」
「あ?生まれも育ちも京都だ。んなことよりお前温泉入れんのか?」
「い、一応大丈夫だけど…?」
「チッ、ならついてこい」
え?何さっきの舌打ち⁈怖いんですけど!なんなんだぁぁぁぁ
「あ、待ってよエンマ君!」
一人でビビっているとエンマ君は先に進んでいた。
僕は必死にエンマ君を追いかけ、しばらく本拠地を歩き続ける。
何やら受付のような場所に着くと、エンマ君はその受付さんに一言。
受付さんがそれに『かしこまりました』と言うと、奥の扉に案内される。
「どうぞお入りください」
流されるままに扉をくぐると、僕は外にいた。
正確には京都のどこかなのだろうが、なんせ静岡民なので全く場所がわからない。
「おい、ぼさっとしてんな!燃やすぞ」
「あ、ごめん」
ずんずんと進んでいくエンマ君の痕を追いながら、故郷と雰囲気が違う世界につい目が行ってしまう。
「おい、ついたぞ」
「ここは?」
「蓮花の湯だ、ここは結構いいぞ」
「温泉ってか宿じゃ…」
「1泊二人、支払いはこいつにつけといてくれ」
いつの間にか受付にいたエンマ君は、支払いを武者の養育機関に請求していた。
「ってえぇ!」
「よし、行くぞ」
「行くぞじゃないでしょ!いいの?」
「いいんだよ、それぐらいしても怒られねぇ」
やはり都会は恐ろしい…
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カポンッ
「あぁ~きもちぃぃぃ」
高いとか怒られないのかとか、そういうのどうでもよくなるほど気持ちいい湯だ。
慣れない土地に来て、受験や武育成機関の話など、自然と疲れることが多かったのもあるかもしれない。
「お前、異能はどうなんだ」
「えぇ、ぼくぅ?えっとー、体を強化する異能だよぉ…」
「その無駄に溶けた態度やめろ腹立つ」
はぁ、っとため息をつきながら、髪をかき上げるエンマ
「まぁ、ここが気持ちいいのは理解できる、で話が変わるがお前の異能はどこまでできる?」
「どこまで?うーん重ね掛けは7倍まで、それ以外はやっとことないし、わからないかな」
「ソレは致命的だな死ね、テメェの力量はきちんと把握しとかねぇといざって時に負ける」
今死ねって言ったよね!怖いんですがッ!
少しイラついたようなエンマは、自分の手から炎を出して俺に見せた。
「俺の異能は、体の数センチ先に炎を出して操ることができる、割と平凡な異能だ」
「支配系でも十分凄いと思うよ?」
「俺のは物質に干渉する異能だから、炎を出してる俺にも熱は伝わる。だから火力を出せば自分にも跳ね返ってくる。ある程度炎の耐性があるにはあるがな」
エンマ君の異能は物質に干渉するものだ
物質に干渉する異能とは、例えば異能者が燃えると言う現象を引き起こしたとする。
物質に干渉するタイプが生み出す炎は、火力は高いが酸素がなくなれば消えてしまうし、それほど自由に操ることができない。
それに反して物質に干渉せず、異能単体として出来上がっているものが出す炎は、火力が低い代わりに使用者に対して一切の影響を及ぼさなかったり、自由自在に操ることができる。
「俺の異能も射程はせいぜい18m、調子が良けりゃ20m、技あり溜めありならもうちょい行ける」
「僕は遠距離攻撃ないからなぁ…」
「いや、そうでもない。お前の異能は聞く限りだと永続型、しかも物質に干渉しないタイプだ。なら異能を育てればできなくはない」
「いや永続はないでしょ、現に発動しないと身体能力が上がらないもん」
「永続型って言ってもスイッチのオンオフぐらいあるわタコッ!理解度が足りねぇのも原因なんだよ!」
エンマ君が言うには、一部分の強化ではなく全体の強化を意識すればよいとのこと。
原理は北山さんに聞いた方がわかりやすいと言われてしまい、よくわからなかった。
「あぁ、そうだ。言い忘れたんだが、風呂出たら戦闘できる服に着替えろ」
「え?なんで…」
「あん?んなもん決まってんだろ、ジャッジどもを燃やしに行くんだよ。あの冷凍女より先に成果上げて泣かす!」
「それって危険じゃ…」
「安心しとけ、今日の俺は調子がいい!」
とても自分勝手だが妙に頼りがいがあるエンマ君であった。
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すっかり日が落ちた寒い夜の街
僕らは建物の屋根を伝って移動していた。
街の明かりで視界は悪くないが、耳を掠める冷気が痛い。
「ホントにここでジャッジが出るの?」
「あぁ、本部で情報はもらってる、ジャッジ自体は弱い個体だと想定されてるらしいが、現実はそんな甘くねぇってな!」
急にエンマ君が上昇したかと思えば、真横に火炎をばらまいた。
すると何もない所が燃え、『ぐぎゃぁぁ』っとジャッジの叫び声が聞こえた。
全長は30mほどもある大型だ、それが透明になっていたなんて僕は全く気付かなかった。
「ハッ、熱量がちげぇんだよ!バレバレだクソ害虫!」
燃えて怯むジャッジに追撃するように近づくエンマは、ひっかくように腕を振るう。
五指から炎の鞭のようなものが吹き出し、ジャッジの翼を焼き切った。
「ハッハ!斬撃性能を付けた
「す、すごい…」
「ぼさっとすんな!アイツ地面に落としたら被害出ちまうからなぁ!」
背中から圧縮した炎を吹き出すと、僕の手を掴んでぶん回し、下に投げる
「ソイツを打ち上げろ!いいか、全身に全力強化でやれ‼」
とても乱暴に投げられた僕は、目まぐるしく回る視界の中で何とか強化を発動し、体勢を立て直した。
「もう、乱暴するなぁ」
受け身を取りながら着地し、ジャッジの落下地点に滑り込むように地面を蹴った。
倒立するように着地してそのまま体を折り曲げ、思いきり降ってくるジャッジを蹴り上げる。
足に重い衝撃が走ると、ジャッジは高く跳ねあがった。
「キタキタァッ!
紫色の炎が一直線上に放射され、街の周辺が明るく照らされる。
放射された火柱はジャッジの腹部に直撃し、チリも残さず焼け焦がす。
「討伐完了だ、楽勝」
「すごかったよ!かっこよかった!」
「あ?若干火傷したけどな、それよりさっきの強化は何倍だ」
「とっさにやったからあんまし覚えてないけど、だいたい2.5倍ぐらいかな」
「普通の人間が二倍ちょいの身体能力で、高さ20mを高速で落下して無傷で着地、ジャッジが落下しきる前に真下に滑り込んでそのまま両足で蹴り上げる…そんなことできる分けねぇだろ!」
「た、確かに…」
「これでわかったか?お前のソレは普通の強化じゃねぇ」
今まで疑問に思わなかったけど、確かにそうかもしれないと思った僕であった。
今後はもっと自分の異能と向き合う必要がありそうだ。
「う゛ぅ…さっぶ!」
「もう一回風呂入って寝るか…」
「ごめん、そうさせてもらう」
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