第2話 陸軍補給部隊、モーツ大尉から見た聖女さん。(2)

 馬鹿で世間知らずで思い上がった小娘だが、この娘、女神教にさらわれてきた被害者でもあるからな。

 聖女様とおだてあげられてるもんで、誘拐されてきたって事実に本人が気が付いてないことも結構あったりするらしいんだが、一応、軍にはこの小娘を保護する役割ってのもある事になってる。


 まあ、どの程度保護するかってのは……今のところ、最小限で良いっぽいけどな。


「あんたたち野蛮すぎるから、あたしがこうやって来てあげてんのに!!」

「あーそうかい。嬢ちゃんは、後ろで祈っててくれるほうが良いんだがなあ……」


 ぶっちゃけてしまえば、小娘に前線近くに来られても、邪魔なんである。


 女神教の聖女様なら、聖女様らしく、教会の中でお祈りしててくれ。俺らのために何かしてくれるんなら、それが一番ありがたいって。

 そんなもんは気休めとか言ってた聖女サマもいたことあるんだけど、俺らにしてみりゃ、誰かが俺らのためにお祈りしてくれるってだけで、心強いんだからな?


「女性差別!」

「邪魔なもんを邪魔といって、何が悪い」

「差別主義者!ひどい!!役に立たないといいたいわけ!?」

「ここで役に立ちたきゃ、自分で物資も人も用意してきな」

「なによ、人助けしようって思わないの!?」

「だから、おまえが人助けしたいんなら、おまえが準備して来いって言ってんの」


 戦場で軍隊の飯を取り上げるのが、人助けになる?

 誰かこの小娘に、現実を教えてやっておけよ。


「自分が食べたいだけでしょ!分けなさいよ!!」

「腹ペコで戦争ができるかよ」

「人殺し優先するなんて!」

「俺らが敵を殺さなきゃ、こいつら全部皆殺しな?」


 これが現実なんだがなあ。


 ここにいる連中は軍に同行している以上、俺らが負けたら一緒に殺される。捕虜にしたところで身分が低くて身代金も取れないし、捕虜を養う物資ももったいないから、全員虐殺するのが敵さんのやり方だ。

 だから、巻き込まれて怪我した連中のためにも、俺らは負けられない。それは、怪我した連中だって知っている。


「嬢ちゃん、そろそろ口つぐめ?」

「うるさいうるさいうるさーい!」

「お前がうるさいんだよ」


 横から出てきたうちのお偉いさんが、聖女サマの頭を思いっきり、平手で叩いた。


「……なにすんのよ!」

「聖女気取りのクソガキをしつけに来た。対応させてすまんな、モーツ大尉」

「殿下、忙しいはずでしょう」


 この方は先王陛下と『聖女』の一人の間に生まれた半分異世界人の王族なんで、お偉いさん中のお偉いさんである。


「こんなもん、俺らが対処しますって」

「なあに、戦闘開始前だから軍医なんて暇なもんさ。今のところ、部下で間に合ってる」


 俺みたいな叩き上げにも気やすく話してくださるのは、何度かご一緒してるからだが。それにしても気楽に出歩きすぎじゃないのかい、この殿下は。


「中佐が嘆きますぜ?」

「嘆く暇があるなら、もうちょっと仕事させてもいいな」

「鬼ですかい」

「ちょっと!なに無視してんのよ!!」


 小娘が叫んだら、殿下がもう一回、小娘の頭をひっぱたいた。

 そして何か食って掛かろうとしたオバハンのほうはといえば、殿下の護衛が捕まえている。そりゃそうだ、殿下に害をなすとみなせば捕まえられるもんな。


「戦場に邪魔をしに来た自覚もないか」


 あ、始まった。


 この殿下、線が細く穏やかそうな見た目をしているんだが、敵とみなした相手の心を折りに行くときには容赦がない。

 上流階級相手には遠回しにやる時が大半だが、俺らみたいな平民相手には、俺らの流儀にあわせて直接な物言いをすることも割とある。


「邪魔しに来たって、そんなわけないでしょ!」

「無自覚なバカか、始末が悪い」


 殿下、小娘に説教垂れる気すらなくなってますな。


「私たちの世界じゃ、けが人は保護することになってんのよ!」

「ほほう?物資も持たずに?」

「だから、それはあんたたちが出せばいいでしょ!」

「一つ聞くが、君は何という国から来た」

「日本よ!知らないでしょうけど!!すっごく平和でいい国なんだから、真似すればいいのよ!!!」


 ふんぞり返って見せた小娘の頭を、殿下が思いっきり張った。

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