第39話 六角形
「そうか!」
合点が行った。
小骨が、すぽんと抜けたような快感。
そうだ、アイツがバグを残していたことがずっと気になっていたんだ。
奴自身すらゲームのルールに縛られているというのなら、それも説明がつく……!
だとすれば――
「町に入れるモンスターはストーカークラブだけだ。だからあれしか呼べなかったってことか! そして祭法王魔は、町と同軸にあるエリアにいるから町には来れただけで……実はゲームに縛られた性能しか持っていないのかもしれない!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、じゃあリュウズはどうなるのよ。無敵を解除されたじゃないの!」
「う……」
それはその通りだ。
あれはデバッグ機能でもない限りできないことだ。
「あくまで僕の推論だが……あれは、バグを利用したのだと思う」
「なっ……!」
「そんなバグ、あったっけ? あーしは見たことないけど、どの動画?」
「いいや、僕が個人的に発見しただけだよ。デバッグのような遊び方をするのが趣味でね……詳しい手順は省くが、バグを利用すればリュウズやショップ定員の無敵判定をはがすことができるのだよ。はがしたところで、HP自体が設定されていないようだから、本来なんの意味もないのだが……」
……ううむ。
そういうバグが無いとは言い切れない……というより、ストリンドベリがわざわざ嘘を言うとも思えないからあるんだろう。
「とすると、あの金縛りは「待ち針」ってことか? ほら、あの回復始めるときのいやらしい攻撃」
ゴールデンの言う「待ち針」は、王魔の特殊スキルで、影を待ち針で刺し、プレイヤーの動きを停止させてくる技だ。その間に回復を始めるので、「ゲーム史上、最高に性格の悪いボスの一人」なんてあだ名がついたりした……。
「いやらしい攻撃と感じてくれるのは狙い通りなんだが……確かに、「待ち針」は無敵貫通効果がある。動きを止めても直接攻撃してこない行動パターンだから、例外的にそういう設定にしてある……」
「ちょっと待ちなさいよ。話が見えてこないんだけど。アタシ、これでも学校あんまり行ってないから、頭の回転には自信がないんですけど!」
なぜか自信満々な様子で宣言するクロス。
「王魔が全知全能の神じゃなく、ゲームに縛られているなら、勝ち目はあるってことだ」
「つまり、アイツをぶっ倒すってことね。早く言いなさいよ。うん賛成!」
「オレ、時々、クロスが羨ましくなるぜ……」
「奇遇ね。あーしも☆」
ははは、とみんなが笑いだし、クロスが頬を膨らませる。
頬を膨らませたまま、クロスが胸を小突いてきた。
「っていうか、アンタ、一番大事な事忘れてない?」
「大事な事って何だ?」
「アタシたち『ガーデナー』の仲間になるかってことよ。アンタ、返事してなかったでしょ」
「あ」
そうか。
なし崩し的に一緒に行動していたから完全に忘れていた。
「そうだな。クロスの言うとおりだ」
「で、どうするの? 聞くまでもないとは思うけど、アンタのことだからまたイヤだとか……言わないわよね?」
そう言って来たクロスがあんまりにも不安げで思わず苦笑してしまった。
ふぅ、と深呼吸。
俺も、コミュニケーションがイヤで一人ゲームを作っていた男だ。
緊張しないわけがない。
改めて、全員に向き直る。
クロス、ゴールデン、アキヤマ、ストリンドベリ。
「俺を仲間に入れてくれ」
そして、と続ける。
「みんなで祭法王魔を倒そう!!」
頭を下げる。
……賛同の声がしない。
おそるおそる顔を上げると――
そこにはみんなの笑顔があった。
「あったり前でしょ! よろしくねシグマ!」
クロスが突き出した拳。
「うっし、よろしく!」
「にゃっは・ふー! よろしくっ☆」
「よろしく頼むよ」
ゴールデンが、アキヤマが、ストリンドベリが、触れ合うように拳を突き出す。
俺はそれに拳を重ねた。
五角形に打ち合う拳。
と――
それが六角形になった。
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