第36話 協力

 顔を真っ赤にしながら戦うクロスを、ストリンドベリが魔法で援護する。

 爆笑しながら、ゴールデンがクロスに迫る蟹をひっくり返す。

 倒れた蟹に、アキヤマの火球が突き刺さる。


 ああ、いいなあ。


 信頼し合う『ガーデナー』の面々。

 仲間たちと『ガーデン』を攻略していく。


 壁を、一人で乗り越えなくてもいい。

 みんなで、何度も立ち上がって戦う。


 それも『ガーデン』なんだ。


 初めてわかった。

 今さらわかった。


 もう、『ガーデン』は俺だけのものじゃない。

 そんな当たり前のことを、今ごろになって心から理解した。


 ソロのオマケでつけたはずの協力プレイ。


 でも、それはこんなに素晴らしいものを生み出している。

 俺のちっぽけな脳みそを超えて、想像以上に広がっている。


 自分は、なんて小さい人間だったんだろう。


 『ガーデン』を終わらせるとか王魔を倒すとか……全部、自分だけでやろうとしていた。


 答えを見つけた気になって一人で突っ走って……

 それなのにみんなが助けてくれた。


 こんな素晴らしいプレイヤーたちがいたのに。

 俺は、それを見れていなかった。


 俺は……


 俺は――


 ……いや。

 落ち込む必要はない。


 これも同じなんだ。

 失敗したら立ち上がればいい。


 壁にぶつかっても、また挑戦すること。

 それを伝えたかったんじゃないか。


 俺だって、立ち上がってまた挑戦すればいい。

 今度は、一人だけじゃなく――


「ゴールデン! 頼みがある!」


「何ぃ? 言ってみろ!」


「俺を、火災鎧のところまでブン投げてくれ!」


「はぁ!? ……ってリアクションしといてなんだが、時間がねえんだろ? わかったブン投げてやる!」


 この割り切りの良さよ……。

 一分一秒を争う火災現場で働いている経験からだろうか。


 そんなことをごちゃごちゃ考えている俺を引っ掴むと、躊躇なくブン投げた。


「んマッソォーーーーい!!」


「うおおおおおお!?」


 それは想像以上のスピードだった。

 最前線で戦うクロスの頭の上を飛び越え、飛んでいく。


 火災鎧との間を阻んでいた蟹は量が減り、十分に飛び越えられる。背後の蟹はもう、小路から回り込んだ他のプレイヤーたちによって、誘導されつくしていた。


『オオオオオオオ!!』


 射程距離に獲物を見つけた火災鎧が吼え、まさにその眼前に俺は着地した。


 俯瞰、オン。

 上から振り下ろしが迫っている。


 着地でかがんだ姿勢を戻しざま、火災鎧の腕を切りつけ、剣をそらす。

 攻撃を防御して受け流すのではなく、攻撃発生の瞬間を狙って受け流すテクニックだ。


 全部の攻撃が対象になっているわけではないし、タイミングもシビアだが、それを試すだけの心の余裕を持てていた。


 ストリンドベリが補助魔法をかけてくれているのも俯瞰で見えていた。

 延焼無効効果のおかげで、受け流しが出来るのだ。


 背後から、今度はクロスが飛んできているのも、俯瞰で把握。

 髪が陽光を反射し、きらきらと輝いている。


 俯瞰は脳内でシミュレートされているだけに、あるいは美化されているのかもしれないが、俺の心にはそう見えているということだ。


 振り返りざま、サブウェポンの長剣・ナイアガラを投げ渡す。


「これを使え! 水属性だ!」


「気が利くじゃない!」


 弾む声で、剣をキャッチするクロス。

 しまった。


 俯瞰なんかしているから、笑顔を見損ねた。

 ああ、もういいか。


 俺は独りで戦ってるわけじゃない。

 背中を預けられる人たちがいるんだ。


 いま、その必要はない。

 俯瞰オフ――


 視界が、正常に戻る。


「……っ!」


 瞬間、思ったより近くにあったクロスの顔に、面食らう。


「何よ、人の顔見て驚くなんて失礼ね。そんなことより戦闘に集中しなさいよ!」


「悪い、見惚れてた」


「……なっ!」


 もう! と怒りながら、火災鎧の肩から腹を袈裟懸けに斬り裂くクロス。


 暴走モードの火災鎧の猛攻を縫って、火の粉を切り裂いて、文字通り舞うように戦う彼女は、やっぱり綺麗だ。陳腐な言葉すぎるが、それしか言葉がない。


「言っとくけど!」


「言っとけ言っとけ」


「中の人はぜんぜん美人じゃないからね!」


「そんなもんだろ、ゲームだし」


「そこはフォローしなさいよ!」


「あっはっはっはっ!」


 ああ、「楽しい」。

 この感覚、なんだろうな。


 そうだアレだ。

 小さな頃に、友達と集まってゲームしてた、あの感じだ。


 今みたいにスマホで無料ゲームって時代じゃない。


 人気のゲームソフトを持っている子の家に集まって、「一機交代!」なんて言いながら、入れ替わり立ち代わりゲームをしていたな……。


 はずれのゲーム持ってくるやつもいたけど、代わりのを買うお金なんてないし、我慢して遊んでたよなあ。えてしてそういうソフトのほうがツッコミで盛り上がったりして――


 あの時の感覚だ。


 中学に上がるころにはもう、一人でゲームしてばかりだったけど、もっと昔、ゲームの面白さと友達と遊ぶ面白さに、区別がなかった、あの時代――

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