第35話 感謝

 だとすれば、説明がつく。

 ストーカークラブは、もっとも近くの獲物に付きまとっていく。


 俺たちのいる6時方向の大通りに隣接する、5時か7時の小路からおびき寄せれば、誘導は可能だ。


 だが――


「いまのリュウズに無敵はない! 囮なんで危険すぎる!!」


「だーかーら、もう心配はないってば……」


 呆れるように言った彼女の真意は、図らずも直後にわかった。


「そっちじゃありませーん!!」


「くっそ、しまったァ!!」


 背後でけたたましく響いた声に振り向くと、そこにはリュウズと、例のヤンキー少年のプレイヤーがいた。


 彼女たちが蟹に追い立てられていたのだ。


「リュウズ……それに君は……」


「ケッ!」


 少年は悪態をつくと、剣を振り回して蟹を押し返した。

 その後ろを、リュウズがついていく。


 彼女は、一瞬、俺に親指を立ててグッドサインを送ってきた。

 はは、だからそんなモーション用意してないんだってば。


「いちおー言っとくけど、彼だけじゃないよ。あちこちの小路で、たくさんのプレイヤーが蟹を誘い込んでくれてる。マジメな話ね」


「……」


 ブルッと、体が震えた。


「リュウズさー、教会にいたあーしたちを説得に来たのね。あーたを助けてくださいって。それでも正直、みんな迷ってた。死ぬような目に合ってない人なんていないしさ。あーしたちはあーたを知ってるから、まだいいよ。最後の最後、一押しがほしかっただけだからさ」


 でも、と続ける。


「でも、他の人はそうじゃない。本気であーたを恨んでいるし、今でも許してないと思う。そんな人たちにリュウズは一人一人に土下座してさ……みんな来てくれたんだねえ」


 胸の中から湧き出してくる、この気持ちはなんだろう。

 締め付けられるようで、それでいて温かいこの感情。


 わかりきってる。


 感謝だ。

 素晴らしいプレイヤーたちへの、感謝だ。


 リュウズへの、感謝だ。


 俺は、暴動に巻き込まれないようになんてことを考えて、逃げていたっていうのに。


 ちゃんと向き合っていなかったのに。

 彼らは、今助けてくれているんだ。


 感謝が、胸からあふれ出してくる。


「みんな……ありがとう……!」


「なにボーッとしてんのよ、おたんこなすびっ!! さっきからほとんどアタシ一人で対応してるんですけど!!」


 一番感謝をしないといけない相手を忘れていた。


「そうそう、クロスなんかリュウズに頼まれるより前に、もう飛びだしてたんだヨ。だったらもう最初から一緒に戦えばいいのにネ☆ よっ、ツンデレ中二病☆」


「う、うっさい! 今そんなこと言うなあ!!」

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