第34話 凶悪なる仕様

「みんな頼む!! 道を開けてくれ!! いますぐ火災鎧を倒さないと!!」


「えっ? どういうこと?」


 蟹の足を切り飛ばしながら、クロスが言う。


「火災鎧は、出現回数が三の倍数のとき、魔針体を復活させる!!」


「はぁ!?」


「復活するのは最後に倒された魔針体……つまりディレーキアだ! しかもそれを引き連れて現れる!」


「ぶふぉっ!? 冗談じゃない……わヨ~☆ あんなん来たら、もうおしまいっショ!! ってか何考えてそんなん実装したの!?」


 まだ実装前だったんだよ!

 あくまでテスト中であって、こんなことになるなんて思ってなかった。


 しかも、もっと悪いことがある――


「アイツが連れて来た魔針体は消えない! 町にディレーキアが居座ってしまう!」


「なんだよそのクソ仕様はよ!! あんなもんが町に来てみろ! 弾幕まき散らして教会から一歩も出れなくなるぞ」


 ゴールデンの言うとおりだが、クソ仕様って言われると、こたえるな、うん。


 いや、プレイヤーからの要望で、ボス2体同時のバトルとかあってもいいのではって意見があってさ……試験的に入れていた仕様なんだ。


 だからまだ、呼び出した魔針体を消す処理が入っていない。


 火災鎧が町中に現れるバグのせいで、そもそもバトルステージとして作っていないせいで狭い町の中に、魔針体が2体現れる羽目に……


 違う。


 2体じゃない……!


「今すぐ倒さないとやばい! ディレーキアみたいな巨大ボスに居座られたら、また火災鎧が撤退と出現を繰り返す! そうなれば、町に魔針体が次々出現する!」


 次の3の倍数では、順番から言って首狩りサンシャインが出てきてしまう。


 もうそうなったら詰みだ。


 火災鎧は24時間で別エリアに移動するが、魔針体たちはその場に残り続ける。 

 ディレーキアでぎちぎちのフィールドに、即死攻撃のボスがうろつき出すのだ。


 絶対に、絶対に、今、火災鎧を倒す必要がある……!


「おいおい、冗談じゃねえぞ! くそっ、蟹の群れがあんなにいるんだぞ!! オレの筋肉でも抑えきれる量じゃ……」


 ゴールデンが指し示したように、うじゃうじゃと蟹が――


「……あれ?」


 そのゴールデンがぽかんと口を開けた。

 全く同じ顔を、俺もしていた。


「……蟹、減ってねえか?」


「ああ、減ってるな……」


 蟹の群れは、エリアの入り口に届きかねないほどずらりと並んでいたはずだ。

 いかにクロスが頑張っていたとはいえ、明らかに減りすぎている。


 特に、火災鎧の後ろにほとんど蟹が残っていない。


「まさか……!」


 小路から後ろに回り込まれた!?

 慌てて振り返るが、背後に蟹の姿はない。


「じゃあ、どこに……?」


 ストーカークラブは絶対にどこまでもついてくる。途中で帰ったりすることなんて有り得ない。


「ゴールデン! あーしを真上にブン投げて☆」


「お、いつものやつか……! 任せろ!」


 アキヤマの小さな体を抱えると、砲丸投げのように真上に投げ飛ばす筋肉の砦。

 人間の体が、たかだかと打ち上がる。


 力士の投げスキルの応用か。プレイヤーを投げるのは想定していなかったのでダメージ判定はないが、好評だったのでそのままにしておいたやつだ。


 実際に生で、目にしてみるとかなりのスピードだ。


 その速度に帽子にすっぽり埋まらないように手で押さえながら、アキヤマは宙空で辺りを見渡した。


 なるほど、面白い偵察方法だ。

 物理的に俯瞰状態を作り出しているわけか。


 俺の俯瞰は、あくまで脳内シミュレートだから、見えない範囲のものは音などに加え、制作・プレイ経験から想像している不正確なものだ。


 今回みたいに遮蔽物の多い場所ではその精度は下がる。

 だが、これなら確実だ。


 チームでプレイをしない俺が気づけなかった攻略法――


「よっと」


「にゃっは・ふー!」


 手慣れた様子でアキヤマをキャッチするゴールデン。

 俺はたまらず、そのアキヤマに詰め寄った。


「どうだった? 蟹は回り込んでいたか?」


 すると、アキヤマははにかむように笑った。


「うん、もう蟹の心配はナッシン。あーしたちはあの鎧をなんとかしましょ☆」


「そ、それはどういう……」


「リュウズっていい子よネ~、ホント。誰かモデルでもいるの? ねえねえ、どうせ初恋の人でしょ、言っちゃいなヨ☆ 公開はしな……いとも言い切れないケド☆」


「な、なんの話だ……」


 リュウズにモデルなんていない。


 あれはむしろその場の思い付きで――

 いや、それより……!


「まさかリュウズが囮になっているのか!?」

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