第26話 制作者のエゴ

 『ガーデン』を完成させたいという欲求のほうが、自死願望より強かったのだと思う。


 憑りつかれたようにゲームばかり作っていた。

 それは逃避だったのかもしれない。


 でも、確信めいたものがあった。


 きっとこれが世に出たら受け入れられるって。


 それは自分がテストプレイヤーとして誰より『ガーデン』をプレイしていたことで、楽しさを、手ごたえを感じられていたからだ。


 それに、この頃、海外の大手ゲームパブリッシャーが、自社のゲームエンジンを無料公開にするという大きな出来事があった。


 これまで全部自分で組んでいたプログラムを、その市販のビッグタイトルでも使われているようなゲームエンジン側でもってくれるようになった事で、劇的に作業が楽になった。


 プロトタイプを作るのも、ゲームエンジン側の汎用素材を使えば、わざわざ自分でモデリングしたりする必要はなかったし、ユーザーが有償で素材を配布してOKという仕組みもあり、自分がやる作業はゲームデザインとプログラムがほとんどになっていたのだ。


 ゲームプレイの手触り感に時間を割けるようになったことで、確実に面白さが増していた。


 それが嬉しかった。


 何度も何度も人生を失敗し続けてきた自分と、何度も何度も死んではやり直し、戦っていくこのゲームが重なっていた。


 このゲームが受け入れられたら、自分もこの世界に居場所がある気がした。


 そうして発表した第一作『ソードガーデン』ver.1.00は、フリーゲームの配布サイト3つに登録して無料配布したものの、しばらく大きな反応は無かった。


 それでも2、3人が好意的な感想を書いてくれて、それが嬉しくてバージョンアップ作業に移った。ver.1.02でリュウズを追加したり、どんどん装備や敵を増やしていった。


 今考えると自己満足に近いものだったとは思う。

 それが偶然、当時流行り出した「ゲーム実況」で取り上げられると、急激にダウンロード数が増えた。


 ラッキーだったと思う。


 天然系の人気実況者が、『ガーデン』で事故みたいな死に方をするのがウケて、どんどん人気が高まって行った。


 学生時代にゲームを作り出してから10年経っていた。


 失敗だらけの人生で、初めての成功だった。

 そこからは色々厄介ごともあったけど、とんとん拍子だったと思う。


 おかげで、未だにほとんど一人で家にこもってゲーム制作が出来ているし、それで人並みの生活ができている。


 そんな過去の走馬燈が、一気に心を駆け巡っていた。

 一瞬のようでもあり、人生の追体験のようでもあった。


 俺がそんな人生から学んだことがあるとすれば、やはりそれは諦めないことだ。

 諦めずに作り続けてきたゲームのおかげで俺はこうして生きて居られている。


 その思いでアップデートを続けてきたのが『ガーデン』だった。

 何度でも諦めずに立ち上がり、挑戦をし続けるゲーム、『ソードガーデン』。


 だからこそ――


「君を『ガーデン』に縛り付けたのなら、俺は何も伝えられてなかったってことだ!」


「え、あ……」


 彼女が何かを口にしようとして、言葉にできずにぱくぱくと唇を上下させた。


「……『ガーデン』を愛してくれるのは嬉しい。……でも、それで得た何かを持って、旅立ってほしかった……」


「そんなこと……言われたって……」


クロスの肩から手を放し、自分でも気づかないうちに立ち上がると、よろよろと後ろに進んでいた。


「ああ……俺のエゴだ。……だけど、これは『ガーデン』のバージョンアップばかりを考えてた俺のせいかもしれない。……誰より『ガーデン』に縛られてたのが自分だから、みんなも縛り付けてしまったんだろう……」

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