第27話 決意
だったら。
振り向き、歩き出す。クロスに背を向けて。
「ち、ちょっと! どこに行く気!?」
「終わらせる」
「はぁ!?」
「みんなを縛り付ける世界を終わらせる。火災鎧を倒す。魔針体を全滅させる。祭法王魔を倒す。そうすれば、エンディングのはずだ」
「バカなこと言わないで! 祭法王魔にしたって、どんな難易度だと思ってるの!? 一人でのクリアは事実上不可能だって大手ゲームメディアも断言したほどのバケモノよ! ソロプレイでのクリア達成者が出るまで半年以上かかってるんだから!」
それは、知っている。
誰よりも、知っている。
でも――
「やる。絶対にやる」
「無茶言わないで! あの燃える鎧にすら勝てっこない! あれはどう見ても対多人数用のボスでしょう!」
それは、その通りだ。
クリア済みのプレイヤーに向けて追加予定だったボスだ。
そのため、強烈な強さを持っているのは前に述べた通り。
加えて、熟練プレイヤーは想像以上にパーティプレイを行っていることがわかったので、それに応じたボスが必要になったのだ。
俺のテストプレイ自体は、趣味もあって一人で行っていたが、本来は多人数戦に対応したボスなわけだ。
だから剣で打ち合うと延焼効果で炎上してしまう。
消火のために一度下がらなくてならないゲームデザインで、そこで仲間と交代するのだ。
また、遠距離攻撃が使える魔女がパーティにいると非常に攻略が楽になる。
これはver.200からの追加キャラで、まだまだ人口の少ない魔女で遊んでほしくて設定したものだ。触れると燃える剣に対して最も有効なのは、触れないこと――つまり遠距離魔法が攻撃の最適解だ。
剣士たちは交代で戦いつつ、魔女をドルイドの防御魔法や、力士の守りの型でガードしながら戦うのが推奨戦闘パターンとなる。
実は、前にも言った通り、本来の『ガーデン』は助っ人2人までしか想定していない。
Ver.300からゲームサーバーを強化するので、大幅に多人数プレイを拡張する。
一気に多数のプレイヤーが同時参加できるようにするつもりだったし、それをウリにプレスリリースなんかも行っている。
ただ、実はその具体的な人数はまだ大決定していない。
サーバーの負荷を探っていたところで、個人的にはたまに期間限定で配信している協力イベントと同じように、同時プレイ人数は6人くらいだと思っていたのだが、もっとたくさん出せることがわかったのだ。
一旦、6人で告知しておいて、3.01で火災鎧と同時に大人数プレイを追加するつもりではあった。
その調整はゲーム全般に関わるので大工事が必要で、だから火災鎧ごと後回しになっていたのだ。この規模なので、小規模な更新である3.01のようなアップデートの仕方ではなく、場合によっては3.1.0のように大型アップデートとして、もっと後に回した方がいいかもしれないと思っていた。
とにかく、攻撃力も攻撃パターンも、コイツは多人数専用であり、けた外れなのだ。HPが6人目安で組まれているのだけが救いだが……これでもっと大規模なのを想定した数値を入れていたら完全に詰みだった。
しかし考えてみれば、パーティ上限なしでエリアに入れていた時点で、火災鎧のことは想定すべきだったんだ。
おそらく、この世界は俺のPCの環境を前提に組まれている世界なんだ。
だからと言って、コントローラーやキーボードがない今、自由にデータをいじることもできないが……
「ほら、答えられない!」
いかん、考え事をしすぎていた。
一人でものを作りすぎて、相手のリアクションを忘れて考え込むことが多いのは、自覚している。
「……違う。……いや、合ってはいる。あの火災鎧は多人数を想定して実装作業中だったボスだ。だけど、勝てないわけじゃない」
奴にはHPが存在している。攻撃が凶悪なだけだ。
「なに? デバッグコマンドで無敵にでもなれるの?」
「それは……」
クロスは小馬鹿にしたような視線を送ってくる。
具体的な作戦がないのを見透かされている。
しかしデバッグコマンドか……最近のプレイヤーは開発用語も知っているんだな。
デバッグコマンドは、ゲーム開発用にゲームに強制的に命令を割り込ませる仕組みのことだ。
わかりやすいのはクロスが言ったように無敵だろう。
キャラのHPが減らないようにするのは簡単だ。デバッグコマンドで設定項目リストを呼び出し、その項目にチェックを入れればいいだけだ。
同じように所持金無限だとか魔力無限なんかも簡単にできる。
もちろん、PCやキーボードのないここでは使うことはできないが。
もし、アレを使えれば、本当に簡単だっただろう。
無敵設定をすれば、延焼やレーザーを完封できる――
「あ」
「ど、どうしたのよ?」
思い、ついた。
これなら、いけるはずだ。
本来なら絶対に不可能な方法だが、アイツが作りかけの存在だったからこそ、倒せる方法が、ある。
必勝とは言えないが、無策で挑むより遥かに勝算のある作戦だ。
「一つ、頼みがある」
「なんで私が……」
「ここの入り口まで、リュウズを連れてきて欲しい」
「え……?」
「そうしたら、俺が火災鎧を倒す」
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