第21話 未調整の悪魔

「……くっ! ゴールデン!! ストリンドベリ!! クロスを捕まえて!!」


 アキヤマが叫び、ストリンドベリも頷いた。


「わ、わけわかんねえけど……くそっ! わかったよ!」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!! 何を言って……」


 クロスの文句を無視して、ゴールデンが彼女を担ぎ上げて教会に走り出した。


「やめてってば! 何なの!」


「オレもわかんねえけど、たぶんこれが正しいのはハダでわかんだ! 火事の現場ではそういうのが大事なんだよ!」


 ゴールデンたちの動きに、他の生き残りたちも追随する。

 よし、俺はヤツの気を引かないと。


「来い!! あああああああああああああああ!!!」


 大声を出して火災鎧の注意を引き付ける。


『オオオオ……』


 ずしりずしりと地面を踏み鳴らし、巨体がこちらに迫ってくる。


 俺は剣を構えない。

 コイツの攻撃は受けたら終わりだからだ。


 とにかく攻撃をかわして時間を稼がなくてはいけない。


『オオオオオオオン』


 ぶおん、と風を割く音と共に巨大な剣が迫る。

 正確にはそれをギリギリかわしてから、風音が通過していった、という方が正しいか。


 音すら熱を持っているのか、耳に熱さを感じる。


 かわした剣が地面に触れると、そこから蜘蛛の巣状に地面から火柱が上がった。

 放射状に火柱が広がっていく。


 身をひねり、なんとかこれをかわす。

 最初から攻撃パターンが分かっていなければ、とても避けられなかっただろう。


 一息つく間もなく、燃える瞳で見下ろすようにレーザーを撃ち放ってきた。

 なんとか剣の腹でこれを受け止める。


 これだけは武器で受け止めなければいけない。かわしてしまうと、地面で反射したレーザーが拡散して襲いかかってくるからだ。


 受け止めたらすぐに回避。そうしないとガードのヒットストップ(硬直)ギリギリに燃える剣が振り下ろされてくるからだ。


 もちろん、それを回避したら、地面からの火柱も回避しなくてはいけない。

 気を抜くヒマが全くない。


 最悪のボス……!


「火災鎧……なんでお前がここにいる!」


『オオオオオオ』


 答えは返ってこず、代わりに横薙ぎで剣が迫る。


しゃがんでそれをやり過ごし、距離をとる。


「いるはずがないんだ、お前が!」


 アキヤマが言った通りVer.3.00は、まだリリースされていない。

 だが、もうすぐ配信予定で、最終チェックのまっ最中だった。


 火災鎧は、その3.00ですらない。


 調整が間に合わないので、最新バージョンでの投入を見送って、次のアップデートで追加する予定だったものだ。


 だからクロスたちも知らなかった。


 当然だ。3.00のテストを頼んでいる外部のデバッガーすら知らない。


 デザインとモデリングこそ依頼したアーティストの手元にあるだろうがボスとしてのデータは俺のテスト環境にしかない。


 なんでそれがこの世界に反映されている!

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