第18話 おかしい難易度

「アタシから『ガーデン』の強さをとったら……どこにもいられなくなる……」


「だから、無茶したってこと? マグマが現れて自分の場所を取られると思ったってことかな?」


 アキヤマの声は、いつになく真剣だった。

 こくりと頷くクロス。


「気持ちは、よーくわかるよ。多分、誰よりも」


 ポンとクロスの肩に手を置く。


「大丈夫だから」


「えっ」


「大丈夫だって言ってんの。わかれヨ☆」


 どう、表現したらいいだろう。

 アキヤマのその言動は、傍から見れば強引な同調圧力のようにも、見えた。


 だけど、それも違う気がする。

 もっと、ずっと優しい何か。


「よーく考えてみ。まずあーし、あーたよりも『ガーデン』廃人。だから、さっき言ったみたいに、あーたの気持ちはわかるし見放したりしない。あーしがあーしを捨てるようなもんだからね、それ☆ それからそこの筋肉」


「おう、筋肉だ!」


 雑に示されたにも関わらずゴールデンはニコニコ笑っていた。


「ほら、何も考えてないっしょ☆ 細かいことなんか気にしやしないって☆」


 すごい説得力だ。


 ゴールデンも注目が集まった途端にポージングしまくってるし。


「ストリンドベリは……まぁ言うまでもないでショ。なんかもうあーたと、じいちゃんと孫みたいな感じだし」


 彼は髭の上からでもわかるくらいニコニコしていた。


「う、うん……」


 クロスの態度も相当軟化してきていた。ように思う。


「……んで、マグマだけど――」


 ちらりと視線を向けてくるアキヤマ。


「この人よくわからんけど、ディレーキアとあんだけやれるってことは、相当な廃人でしょ。しかもこの腕で全く聞いたことがないってことは、配信はおろか協力プレイもやってないコミュ障でしょーよ」


 ひどい言われようだ。

 半分くらい当たってるけど。


「そんな人が、政治力発揮して居場所奪ったりなんかしないって☆」


「確かにそうね……」


 納得するな。


「……うん、わかってる。今度のことは、全部私が悪かった」


 クロスはくるりと俺の方へ向き直った。


「……ごめんなさい。変なことに巻き込んで……そして、ありがとう、助けてくれて」


「あ、いや……気にしないでくれ」


 そう、助けたかったのは事実だが、この世界は俺が作ったもの。

 だから、これは神とやらと俺の問題だ。


 巻き込まれたクロスを責める権利は俺に無い。


「それに、俺はパーティに加わると決めたわけじゃないしな」


「え?」


「おいおい、寂しいこと言うなよ。一緒に戦ったんだ、もう仲間でいいじゃねえか」


 俺とクロスの肩を強引に抱くゴールデン。筋肉の圧がすごい。


「それは……」


 正直、迷っていた。


「マジメな話さー、メリットばっかだと思うよん☆ このアキヤマ58がいるんだからサ。それに、祭法王魔のこと考えたら、ソロプレイって現実的じゃないっショ☆」


 確かに、それはある。


 ラスボスの祭法王魔の難易度は、自分で言うのもなんだが頭がおかしい。

 ソロプレイでのクリアは極めて困難な部類で、当初かなりネットで叩かれた。


 時間が無くてテストプレイを、ボスの行動パターンごとにしか行っておらず、それぞれはなんとかクリア可能なのを確認していたんだが、実際にそれを繋げて戦ってみると、人間の集中力の限界に挑戦するような綱渡りバランスになっていたのだ。


 そのせいで、ゲーム史上最悪のラスボスという話題のたび、ランクインしてしまう……。


 修正しようかとも思ったが、協力プレイでならまだマシになることがわかり、プレイヤーの交流が活発になったので、そのままにすることにしたんだった。


 それでも難易度的には、クリア率3%を切るような鬼畜ボスなのに変わりはない。なぜクリア率がわかるかというと、ゲーム内実績トロフィーには全プレイヤーの取得率がわかり、「ラスボスを倒した」実績トロフィーの取得率が3%以下だったからだ。


 だからこそ、そんな超高難易度に、他のプレイヤーを巻き込みたくない。


「……もう少しだけ、考えさせてくれ」


「うーん、よくわかんねえけど、わかった。俺は待つぜ。いい筋肉を育てるには待つのも大事だ。それと同じだからな。……みんなもそれでいいか?」


 ゴールデンの言葉に頷く一同。


 だましているようで申し訳ない……。


「ま、とりあえず、ディレーキア討伐の打ち上げには参加すんだろ?」


「あ、ああ」


 それくらいなら、構わないだろう。ああいう雰囲気は得意じゃないが。

 そんなことを話しつつ、町へ向かっていると――


「おっ、おいアレ!」


 ゴールデンが大声を上げた。


 指差す先は、剣の門の向こう、町の方角。

 そしてそこから立ち上る黒煙。


 一本ではない。

 次から次に黒煙が立ち上り始めた。


「う、嘘だろ……」


 なんで、なんでこんなことが……


「有り得ない……!」


 俺は、自然と絶望の声を漏らしていた。

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