第17話 居場所
「ってゆーか、泣きたいのはコッチよ☆ なんなのもう、あーし、『ガーデン』のトップランカーのつもりだったんだけど、実際に戦うあーた見て自信無くしたわヨもう……」
「おう、なんつーかムダのねえ、すげー動きだったぜあんた。雑魚戦の時とは一段上の集中力つーか……筋力でどうこうなるレベルを超えてるつーか……まるでゲームのキャラそのものって感じだった」
「あ、ああ……たくさんプレイしてきたからな……」
それくらい俺の人生の中心が『ガーデン』だった。
自分で調整した敵と戦い続け、気持ちのいいバランスを探す日々だったんだ。
体さえついてくれば、このくらいは出来る……いや、出来て当然だ。
彼らと違って、具体的な猶予フレームやAIの思考パターンまで全部把握しているのだから。
「まぁ、聞きてえ話は色々あるが、一度町に戻らねェか? いい筋肉のためには休息も必要だからな」
筋肉の部分には誰も頷かなかったが、提案自体に反対するものはいなかった。
帰る前に『剣の小庭』から高レア武器を回収し、俺たちは森の入り口に向かって歩き出した。森は浄化によってモンスターの姿が消え、トレッキングコースのように美しい木々と正常な空気に満ちていた。濃厚なフィトンチッドが肺を満たしていく。
ところで、クロスはまだ俺の方を見ようともしない。
詳しい事情を何も知らない今、そっとしておいた方がいいだろう。
というより、上手く話せる自信がない。自慢じゃないが、青春の大半をゲーム制作に使って女性と話す機会がほとんどなかったんだ。
ゲームが大ヒットしたのを知るや、それまでほとんど話していないどころか軽く蔑んできていたような同級生の女性がぐいぐい来たりして、人間不信気味になったのもある。
アキヤマとも「無駄話」をするのはやはり難しかったし、ストリンドベリは無口だし、結局、気づけばゴールデンとばかり話していた。
ゴールデンは見た目通りの体育会系なので、現実で会ったら苦手なタイプかもしれないが、どうやら社会人らしく、気の使い方がとても上手い人だった。わざわざ俺に合わせて話してくれるのがわかってくすぐったかったが、実際助かった。
ゴールデンと雑談しつつ、歩いていく。
「ってか、無我夢中だったから実感わかなかったがよ、コレ、すげえことだよな」
「ん? 何がだ?」
「ディレーキア討伐だよ。5時の魔針体までしか倒されてねえ中、10時のコイツを倒しちまったんだから、たぶん町は大騒ぎになるぜ」
「そうか……そうだな」
言われてみれば、結果的に終盤の最難関ボスを倒してしまったわけだ。
ラスボスの『祭法王魔』を除けば、一番難易度が高いのはディレーキアだし、更に10時エリアの強力な武器が解放されたわけだから、そういう意味では先に希望が持てる。
「ふぇふぇ……やっぱさー、讃えられるのって、悪い気はしないよネ☆ これが配信出来てたら100万再生は固いから残念ではあるけどサ……」
アキヤマが幼女のようにスキップをする。いや、幼女がスキップをしているのを見た記憶がない。今のちびっ子たちはスキップするんだろうか?
「おう、結果オーライだが、いい流れだ。筋肉は讃えられるほどキレが増すしな」
よっ冷蔵庫、とかそういうのだろうか。
「とりあえず、町に戻ったら鶏肉とらねえと」
「それさー、気になってたんだけど、ゲームキャラでも効くのさ☆?」
「攻撃食らったら痛ぇだろ。痛いってことは、生身ってことだ。生身なら筋肉だ。効くに決まってる」
自信満々に胸を張るゴールデン。
「うーん、そうかにゃ~。もしかしたら、電気信号だけ脳に送って痛いって感じさせてるのかもよ☆」
「いいえ、私も生身だと思うわ」
それまで口を開いていなかったクロスが急に会話に入ってきた。
「ふむん? どうしてかナ?」
「だって、死んだら死ぬもの」
死んだら死ぬ。
言葉としては無茶苦茶だが、確かにその通りだ。
「そう思ってるんなら、無茶しないでヨ……」
「ごめんなさいってば!」
顔を赤くしてクロスが言う。
そんなクロスの肩をゴールデンがポンと叩いた。
「つーかよー、オレらもそんな長い付き合いじゃねえし、あんまり踏み込むのも悪ぃと思って聞いてなかったけどよー、そろそろ聞いとかねえとまずい気はしてんだよな」
「な、何をよ」
「お前、なんでそんな死に急ぐんだ? 一秒でも早くここから出たいってことか? 違うよな」
「……!」
クロスの動きが止まる。自然と、パーティの足も止まっていた。
ストリンドベリあたりが止めに入るかと思ったが、アキヤマ含め、どちらも動く気配がない。ゴールデンと同じように、今話しておくべきだと思ったのだろうか。
先ほどストリンドベリの胸で謝りながら泣いていたとはいえ、パーティ全体のわだかまりが消えたとは言い難い。確かに先送りにしていい話ではないのも頷ける。
「ヒーローになりたいってんなら、それはわかる。でも命あっての物種だろ? 正直、クロスがそこまで手柄を上げたがる理由が、俺にはわからねえんだわ」
「……じゃない」
小さく呟く声が聞こえた。
「なに?」
「……だって……居場所がなくなるじゃない……」
間。
そうとしか言えない時間が流れた。
「アタシ、『ガーデン』しか取り柄がないし……」
何を、言ってるんだ。
得体のしれない胸の痛みが、ちくちくと響いてくる。
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