第16話 命知らずの涙

 大魔女の骸がミステリーサークルを圧し潰している。

 少しずつ虹色の水に代わって流れ消えていく。その水が触れたステージの溶岩が消えて小川になっていく。


 魔針体の討伐による大地の浄化が始まるのだ。あの虹色が流れ切ったら、ここも毒キノコの森なんかじゃなく、ポルチーニ茸や甘い栗が実る恵みの森になるんだ。


 そんな恵みの森へと変わろうとするステージ最奥で、俺は正座させられていた。


「どんだけ命知らずなんだよ、お前らは」


 筋肉ゴールデンは心底呆れた顔でそう言った。その隣にいるアキヤマも同じだ。ストリンドベリは……表情が読めない。


 お前らというのは、俺と、その隣でむくれているクロスに他ならない。


「特におめーだ、クロス。とんでもねえ無茶しやがって。マグマがアホみたいに強かったから助かったんだ。普通なら死んでる」


「……助けてくれなんて言ってない」


 ぷいと顔を背けるクロス。

 向けた先にいたアキヤマが、真剣な瞳でクロスを見つめた。


「あのね、クロス、これマジな話なの。あーた、ホント、死ぬとこだったんよ? 本気で反省してほしいって、思ってる」


「……やめて。聞きたくない」


 子どものように耳をふさぐクロス。


「あーたねぇ……」


「いい加減にしないか!!」


「ひっ!?」


 そんなクロスを一喝したのはストリンドベリだった。


 ひげが持ち上がるほどの大声だった。


「す、ストリンドベリ……?」


 クロスもここまで叫ぶストリンドベリを見たのは初めてだったのかもしれない。

 一喝に身をすくませながらも、驚きの方が大きいようだった。


「一個しかない命を雑に扱うんじゃない!!」


 ひげの塊であるストリンドベリが、クロスの肩を掴んでぶるぶると震えていた。

 俺は彼の人生に何があったかは知らない。クロスとの関係もよく知らない。


 だが、その言葉は確かにクロスに届いた。と、思う。

 震えているのはストリンドベリだけではなく、クロスもだった。


「……うぐっ……」


 肩を震わせて、泣いていた。


「うぇええええええええええええええ!!」


 ストリンドベリに抱きしめられ、子どものように泣きじゃくった。


「怖かった……! ホントは怖かったあああああああああ!!!」


 毛玉に頭をうずめて、わんわんと泣くクロス。


「ごめんなさい! ごめんなさいいいいい!! うぇええええええ!!」


 彼女の見た目は、パリコレに出るようなトップモデルさながらだが、中身がそうとは限らない。実はもっともっと幼いのかもしれない。


 わからない。何も。

 わからないが……


「なんであーたまで泣いてるのヨ?」


「え?」


 言われて気づいたが、俺もどうやら泣いていたらしい。

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