第13話 竜食いの魔女
森を揺るがす咆哮。
羽根を持つ幸運な虫たちが一斉に飛び去る。地を這う虫や獣たちも、慌てて入り口方面に逃げていく。
「おいマジかよ……!」
ゴールデンの言葉に全面的に賛成。
あの咆哮は、ボス戦開始の合図。「竜の叫び声」だ。
「いくらなんでも早すぎる! すぐに酒場を出て追いかけたんだぞ!」
俺が作ったゲームだ。
どれが最短ルートかなんかわかっている。
だが、こんなにボスに早く着くことなんて有り得ない。
そこで「あっ」と声を出したのがアキヤマ58。帽子が浮かぶほどの驚きぶりだった。
「そーいえば、クロスって確か、このステージの最短記録持ってなかったっけ! ほら、あの沼にモンスター落としてその上を走っていくやつ!」
「あっ!」
今度は俺が声を上げる番だった。
確かに、その動画は見たことがある。
想定していないショートカットだったが、バグではないし、再現性がほとんどなかったので気に留めていなかった。
複数のモンスターがちょうどいい場所に落ちないと成立しないうえに、沈むまでの時間が短く、タイミングが非常に難しい。どうしても運が最後まで絡むテクニックなのだ。
ちょっとでもミスしたら、すぐにゲームオーバー。
ミスが本当に死に繋がるこの世界で、そんな命知らずの行動をする人間がいるなんて想像だにしていなかった。
「何でそこまでするんだ!」
わけがわからないが、休んでるわけにはいかない。
俺だけでなく、全員が一斉に走り出した。
足が折れてもいい。
とにかく間に合ってくれ――!
そうして駆け抜けた森の先、開けた平野――正確には踏み潰されて圧縮された大地――に、それは居た。
「……!」
これほどか。
初めてディレーキアを生で見た感想はその一言だった。
蛇がネズミを丸呑みにする映像を見たことがあるだろうか。
そのネズミが竜で、丸呑みにしているのがディレーキアだ。
ボス戦開始時に聞こえる「竜の叫び声」とは、開始デモで、まずボスのように現れた竜を、後から降ってきた魔女が丸呑みにした際の断末魔なのだ。
ティラノサウルスほどもある竜が丸呑みにされようとしているので、魔女の喉がカエルのように膨らんでいて、口の端から見えている竜の首が苦悶の叫び声を上げている。
黒いレースが重なった、巨大なアミガサタケのようなドレスの上に、枯れ木のような髪がばらばらとしだれ下がっている。こちらに気づいていないので横顔しか見えないが、いかにもというワシ鼻が 魔女であることを強烈に主張する。
何より特徴的なのはその体格。
体長18メートル。そう聞くと小さく見えるかもしれない。
実際、それは人間の10倍のサイズであり、テレビアニメの人気スーパーロボットと同じサイズだ。人間なんか簡単に踏みつぶせるサイズなのだ。
巨大すぎる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます