第11話 10時エリア
魔針体が支配するエリアはピザのようにカットされた領域だ。
それが12個ならぶことで円形に世界を形作っている。
それぞれの境界線は黒い半透明の壁によって遮られており、魔針体を倒すと、文字盤として見たときに時計回りである右隣の壁のみ消滅する。
そのため、クリア前のエリアへの侵入はサイドからは出来ない。
真正面から突破することになる。
逆に言えば、真正面からならどの順番でクリアしてもいい。
よく攻略動画などでも「逆打ち」と名付けられた反時計回りの攻略が公開されている。あるいは、12時から攻略して1時に横から入るというシステムの裏をかいた「殴り込み」も人気がある。
話が逸れた。
とにかく、クロスが10時の魔針体に挑むなら、それは正面突破しか有り得ないということだ。
だから俺たちも急いで正面に向かった。
各エリアの正面は、『等しき地』から任意の時方向に行けばすぐにつく。
そこは黒い壁が扇型の先端部分をカットした形で覆っており、ちょうどショートケーキのザッハトルテを一口食べたような形状だ。そのせいで動画サイトなどでは、エリアに入ろうとするだけで「飯テロ」とか「ザッハトルテ買ってくる」といったコメントがつく。
そんなザッハトルテの前面には、それを断ち切るように巨大な剣が落ちてきており、剣によって切り裂かれた断面からエリアに侵入することになる。
「足跡は続いてんな。やっぱアイツホントに中に入ってるぞ」
ゴールデンがザッハトルテ奥の地面を指して言う。
大魔女ディレーキアの支配領域はキノコの森だ。
大量の胞子がタンポポの綿毛のように飛び交い、足元は大小さまざまなキノコが生い茂っているが、食用には適さない……というか全部毒キノコである。
ディレーキアを倒さない限り、この毒キノコだらけの森は浄化されない。逆に倒してしまえば全部食用キノコに変わる。設定上はマツタケやトリュフもたくさん置いているので、そういう意味では生身でこの世界に入っている以上、ここが浄化されるメリットはでかい。
クロスが称賛を得ようとするなら、確かにここは最適かもしれない。
「わかってると思うが、「順打ち」じゃねえから武器のランクが追いついてねえ。ここは力士のオレが前に出るぜ」
ゴールデンの言うことは一理ある。
武器はこの世界の至る所に突き刺さっている剣だ。それをプレイヤーは好きに拾って使うことができる。
ただ、武器のランクは12時に向かうほど強くなる。
そして、それぞれエリアの中でも高ランク武器は、ボスである魔針体を倒した奥に存在しているのだ。
つまり、今の俺たちは相当に格落ちの武器を手に戦う羽目になる。一応、道中に落ちている剣の中にはそれなりに性能が高いものもあるし、時間こそかかるが初期装備でも勝てるように作っているので、完全に詰むようなレベルデザインにはなっていない。だからこそ「逆打ち」が出来るわけだ。
とはいえ、10時ともなると敵の強さは苛烈。
確かに力士は「逆打ち」最適解だし、頼りになる。
力士は剣を装備できない代わりに、攻撃力が最初から高めに設定されている。
そしてクリティカルヒットが出れば相手の防御力を貫通する。クリティカルの出やすさは、相手の弱点に正確に命中した際に、確率で計算される。その計算式は、モンスターを倒した数やその強さの累積値で基本値を上昇させるものだ。つまり、歴戦の力士ほど同じ素手でも強力な攻撃を放つことができるようになっていく。
ゴールデンは、よほど戦闘経験を積んでこの基本値を底上げしているのだろう。
「マッソーーー!!」
10時エリアだというのに、敵を簡単に蹴散らしていく。
ストリンドベリの支援魔法が非常に有効的なのもある。
彼のアバターは髭に埋まっていてジョブがわからなかったが、実際にはドルイドだったのだ。
ドルイドは女性しかなれない魔女に対して、男性にしかなれないジョブとして用意してある、表裏一体の職種だ。
魔女が攻撃補助を得意とするなら、ドルイドは防御補助を得意とする。
ストリンドベリの老獪なフォローで、ゴールデンは適宜スピードアップやディフェンスアップの魔法によって強化されていく。
「にゃっは・ふ~☆ どうヨ~あーしの後方軍師面ムーブ☆ あー聞こえるわ。再生数がガンガン上がっていくカウンタの音☆ いや、配信してないんだけどネ☆!」
アキヤマが一人ノリツッコミしながら胸を張るが、確かに的確な支援だ。
支援効果が切れる直前に重ね掛けして、MP(魔法力)を節約しつつ、味方を危機にさらさない。 流石は『ガーデン』のトップランカー。
俺も負けていられない。
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