第5話 百合だけなのを知らずに転校してきた女子
ここ私立百合区百合が峰百合が崎学園は生徒総数三百五十人。つまり三百五十もの百合がいるのだ。
これだけいれば、ライト、コア、さまざまな百合がいるのは当然である。
今回はその中でも最強の百合と呼ばれる者を紹介しよう。
その名は朝倉悸陽(あさくらきひ)。
ちょうど食堂でエビフライ定食のトレーを手に歩いているぞ、近づいてみようか。
身長百六十、Cカップのスレンダーボディ、顔つきは冷静クールな無口系、流麗な眼差し、髪形はマッシュ系レイヤーボブ。彼女が通り過ぎる度、食事の手を止める百合多数。
「ねえ、今のだれ? 気品があるっていうか、すっごい美人だねー」
「知らないの? 二年二組の朝倉さんよ」
「へええ、ミナリス《恋人》どんな人なの?」
「朝倉さんはヴライ《独り》よ」
「え! じゃ、じゃあ私ミナリス応募しようかな」
「こらっ! あたしとのミナリスどうすんのよ! それにあんたじゃ無理よ。あの朝倉さんとミナリスになった子は三日経たないでミナリス解消してるんだから」
「ええ? 何で?」
「それがね……ちょっと耳寄せて…………噂だとね、かなりディープな百合プレイをしてくるらしいのよ」
「ディ、ディープって……アナル責めとかディルド?」
「そんなもんじゃないらしいよ。(ピーヒャラピーヒャラ)をアナルに(バキュン! ズキュウウン!)するとか、ぶっとい(ワンワン!)ディルドで(コケコッコー!)しまくるとか」
「む、無理! 私絶対無理……」
「でしょ? で、ついたあだ名が“学園最強の百合”」
そんな名も知らぬ百合同士のささやきなど露ほども知らず、朝倉悸陽はひとりテーブルに座り、エビフライ定食を上品な所作で口に運んでいた。
「……!」
頬張る口の動きが止まり、流麗なふたつの瞳が一点に集中される。
その先にはピンク色のキャリーバッグを引く生徒の姿。
彼女の名は葦名聖子(あしなせいこ)。
フランス人とのハーフ、ゴールドのツインテール、碧眼、アイドル真っ青な可愛いらしい小顔。
身長百五十五、Cカップ、程よいくびれが美しいスタイル。
大企業に勤める父親の転勤でこの学園に転入してきた箱入り娘だ。
彼女はノンケ、つまり百合ではなく男性が好きなごく普通の女性である。
では何故ここへ転入を決めたのか?
答えは簡単、超大手医療関係への就職率百パーセントのデータに飛びついたからである。
もうちょっと調べればここが百合しかいない学園と気づいたのだが……これが葦名聖子の運命を決定づけるとは、彼女自身気付くはずも無かった。
「あーあ、腹減った。なんだよこのガッコ、部屋まで案内無しとかマジサービスわりぃー。どうすっかな、テキトーに食ってくか。あーメンドくせー、前のガッコならパシリに買わせてたのによー。ちっ、早くパシリ作んねーとな。取りあえず同室のヤツ即行パシリにしてやっか。ひへへ」
そんな彼女の肩に手が置かれた。
ビクっと体を震わせた聖子が振り向く。
「あなた、転入生? よかったらお手伝いしましょうか?」
クールな口調で話しかける朝倉悸陽が居た。
「え……うん、さっき転入してきたばかりなんだ~。助かりまぁす! てへっ」
思いっきり猫かぶりする葦名聖子。
聖子のキャリーバッグを曳きながら食道を出た悸陽がおもむろに木の下にあるベンチへ腰を下ろした。
「まだ昼休み時間あるわ。ここで自己紹介しましょ」
流麗な目を細めながら小さな笑みを浮かべる悸陽。
それに聖子が内心ほくそ笑む。
(コイツ、人の良いおっとり美人系か。ふふん、手始めにコイツを聖子りんの手駒に加えてやっか)
「そうだねぇ~自己紹介しよっか、あたしぃ、葦名聖子っていうの。聖子りん、って呼んでね」
「わたしは朝倉悸陽、よろしくね」
そういって聖子の手を握る悸陽。
「朝倉さんっていうんだ~、よろしくねぇん! ここで初めてのお友達できちゃった~、うっれしいなぁ♪ じゃあ、早速ライン交換しようよぉ♪」
誰もが心を許す笑みを浮かべる聖子が心の中で舌なめずりをした。
(そっからスマホ情報みんな盗んでやんよ。そんで手駒一号完成! ひへへ)
だが手を握ったまま聖子を見詰める悸陽は何のリアクションもない。
「……あのぉ……ライン交換……」
彼女自身の時が止まったかのように、瞬きもせず聖子を見詰める悸陽。
「ちょ……手放してくれな」
「運命だわ」
「へ?……あでででで!」
握る手に力が込められた聖子が小さな悲鳴を上げる。
「あ、ごめんなさい」
冷静な顔のまま手を放した悸陽に奇人でも見る様な目を向ける聖子。
つづく
次回予告:がちヤバと気づかない聖子に百合学最強の百合である悸陽の手が伸びる。
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