第4話 百合学生徒会の面々

 ここ私立百合区百合が峰百合が崎学園の創始者は、国内指折り財閥のひとり娘である。

 彼女が百合というだけで百合区が作られ、二十歳の誕生日に百合が峰という町名が作られ、全国の百合が集う場所として百合が崎学園が作られた。彼女の名は豊臣衿子(とよとみえりこ)、現百合学生徒会会長にして上杉凛のミナリス、豊臣桐子の祖母である。

  

 ここは生徒会室。

 床の広さは普段使われている教室と同じだが天井までの高さが倍以上あった。

 なぜなら机と椅子が載った小さなフロアが、階段を真横から見た様、四段階に並んでいるからである。

 

「ふぁぁぁ……で、何の議題だっけ?」

 

 床から五メートルある一番高いフロアの椅子にふんぞり返った豊臣桐子が汗の滴る顔で一段低いフロアに座る副会長、黒田果保(くろだかほ)へ向ける。

 

「ふっ、トモ、もう一度会長へ説明だ」


 机に肘を着き、重ねた両手を口に当てた果保が頬を流れる汗を机に落としつつ、気だるい目を自分よりもう一段低いフロアに座る生徒会書記、柳生トモ(やぎゅうとも)へ移す。


「ひょげえ~……暑い~……何でまだ六月なのに……こんな暑いんだよ~……宇南、ボクに代わって説明したって~」


 ショートツインテで見た目お子様のトモが、暑さでシャツを脱いだブラ姿で机に突っ伏したまま呻き声を上げる。

 そのトモの更に一段下、つまり生徒会室の床の上に置かれた机に座る島津宇南(しまづうなん)が、噴き出す額の汗を手で弾くと、勢いよく机を叩いた。


「あんた達、何私に押し付けてんのよ! あー、わかったわよもうっ! 会長、会長、会長! 夏祭りをどんなイベントにするかの議題よ、わかった? 会長!」

「はぁぁ? 何だそれか。いいよ宇南、お前が考えて好きに決めろよ」


 ボタンを全部外した白いシャツの襟をヒラヒラ団扇代わりにした桐子がメンド臭そうに言う。

 宇南が汗をぽたぽた垂らしながら再び机を叩いた。


「私に丸投げとか、何のための生徒会ですかっ! さあ案を出してください! じゃなきゃエアコン壊れたこの生徒会室から出しませんよ!」


 そう叫ぶと扉の前にツカツカ移動して電磁パスワード式の鍵を掛けた。


「ほーら、今設定したパスワード、私しかしらないわっ! この蒸し風呂みたいな生徒会室から出たければ早く議題を解決しましょう!」


 これに階段状のフロアに居る三人が気だるい悲鳴を上げる。


「おまっ、宇南っ! 何してくれてんだおらぁ!…………ぐぅぅ~、あづぇ~」

「ふっ……愚かな、背水の陣はそこへ至るまでのプロセスを軽視した故の結果でつまりは…………暑いのう、暑いのう」

「空気が熱い~、息するのもやだ~、マンゴーソースかき氷食べたい~、宇治抹茶金時食べたい~」


 それに満足げな笑みを浮かべた宇南が滝のように流れる汗を拭うと、三人へ指を向けた。


「ほら! わかったら早く案を出して決めなさい! ほらほらほら! ほらほら……ほら……ほりゃ……ほ」


 頭をふらふらさせた宇南が三人に指先を向けたまま倒れた。


「ちぃ! ば、ばか宇南……おめえが倒れたら……ここ出られねえじゃねえか! あぢーっ」


 桐子が五メートルある会長のフロアからジャンプして床に着地した。


「ひええ、あづっ! あづっ! ダメだこりゃ」


 体を動かしたことで更に暑さが増した桐子が、汗でびしょ濡れのYシャツと汗で色が変わったスカートをまどろっこしく脱ぎ捨てた。


「うええ、これも脱ぐ脱ぐ!」


 とうとうブラやパンツも脱ぎ捨てた桐子がDカップの胸と美しいくびれの裸体を晒す。

 そして大きくスカートをめくらせながらパンツ丸だしな宇南の側に来るとしゃがみ込んだ。


「おいっ、目を覚ませ宇南! このままじゃ、うだって死んじまうだろが!」


 宇南の頬を叩くが起きない。


「おいおい、すっげえ熱あんじゃねえか」


 桐子が宇南の制服や下着を脱がせ裸にさせると副会長の黒田果保へ顔を向けた。

 

「果保、スマホで連絡取って誰かここへ呼べ!」


 それに果保が滝のような汗と虚ろな眼差しでこう答えた。


「それがのう、自分とした事が……シュマホに充電するのを忘れておってのう……通話不能なのだ。暑いのう……」


「ちっ! ならトモ、お前のシュマホで――」

「はひ……はひひ……わ~い、凍ったバナナがた~くさんあるぞ~、口に……ボクの上の口と下の口に入れてみよ~っと……冷んやりするだろうな~、わ~い」


 生徒会書記の柳生トモが白目を剥きつつ汗の水溜りへうつ伏せになっていた。


「……ったく! 頼りにならねえ連中だ。おい、宇南! しっかりしろ!」


 襟元まであるフレア状の髪形をした宇南の後頭部に手を当てた桐子が声を張り上げる。


「か、会長……」

「目が覚めたか。しっかりしろ、おい!」

「わ、私はもうダメです」

「何言ってだコラ!」


 宇南が震える手を伸ばして桐子の頬を撫でた。


「最後に言っときますね……会長、いえ桐子……あなたを愛してました」


 ぶわっ涙を浮かべた桐子が宇南を抱きしめる。


「死ぬなよ、宇南! 死んだらダメだ!」


 目を閉じ動かない宇南に顔を近づけて口づけをする。


(生き返ってくれ!)


 重ねた唇の隙間に舌を潜り込ませ、宇南の口内を舐めまわし、汗でびしょ濡れの胸を揉みしだいた。


「宇南……宇南……あたしも愛してるぞ、だから……生き返ってくれ」


 胸を揉んでいた手を秘所へ伸ばす。とその時だった。


「うわっ! 何だ、あっちーーー!!」


 生徒会室の扉が開かれた。

 エアコンの効いた廊下の空気が生徒会室になだれ込む。

 驚く桐子の目に上杉凛と山中ハツ子の姿が映った。


「ひゃわわ! 桐子ちゃん、素っ裸で……なななな何やってるの~!?」


 自分以外の女性と裸で絡み合っている桐子に、目をぐるぐるさせた凛が両手で自分の頭をもみくしゃにする。


「い、いや違うんだ。これは……それより何でここへ!?」


 混乱でその場をくるくる回る凛に代わり、三つ編みメガネの超能力者である山中ハツ子がこう答えた。


「凛ちゃんのスマホに副会長から電話があったんです。非常事態だからすぐここへ来いって、その時に扉のパスワードも教えて貰いました」


 桐子の顔が副会長の黒田果保へ向けられた。


「何やら面白い展開になったからのう、ちょっと楽しませてもらったぞ。パスワードはどうしたという顔をしておるの。ふっ、宇南のパスワードはいつも同じだからの、やはり今回も同じだったわ……ふう、涼しいのう」


 そう言った果保が机に肘を着くと重ねた両手を口に当てたまま涼しげに目を閉じた。


「ちっきしょう」


 歯をギリギリと噛む桐子。

 そんな桐子の下で宇南が目を開いた。


「うーん……ってあれ、会長!? ななな何してるですっ! きゃっ、わ、私何で裸になってるの?」

「おっ、良かった目が覚めたか、宇南…………おっ?」


 強烈なオーラを感じた桐子が顔を上げる、そこには毘沙門天モードになった上杉凛の姿。


「とぉぉぉこ~、私以外の女と何やってんのぉぉぉ?」


 絶望的なまでに無慈悲な目が桐子を見下ろす。

 その変貌ぶりにハツ子の姿は既に消えていた。

 

「おいっ! 落ち着け凛! 話せばわかる…………」

 

 鬼神と化した凛の拳が桐子へ放たれた!!!!!


 

 ちなみに夏祭りのイベントは「肝試し」に決まりました。



 これが私立百合区百合が峰百合が崎学園、略して百合学の生徒会風景のひとつである。

 今回表現されなかったが、生徒会のメンバーは全国模試でもトップテン入りでスポーツ万能、学園の百合達から常にミナリス申込みが絶えないハイスペック百合なのだ。ちなみに最後に出てきた肝試しは伏線だぞ、覚えててね。

 次回はお待たせ! というか何がお待たせなのかわからないが、学園最高にして比類なき百合が登場! という訳で次回もよろしく。


 つづく

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