第3話 東北弁の巨乳百合がお相手を見つけた回

 ここ私立百合区百合が峰百合が崎学園は、国内でも指折りの財閥が創設した学園である――「またそれかよ! 二次元でお約束なお手軽設定w」そう、その通り! まさにあなたの言う通り!――である。

 なので当然、学食は高級レストラン顔負けの施設と味で、元気いっぱい生徒達が百合に励むようなメニューを取り揃えてある。そんな学食の片隅で、上杉凜がビーフストロガノフを鈍くさいナイフさばきで食べていた。


「凛ちゃん、お口に汁がついてるよ」


 向かいでローストビーフサンドを手にした山中ハツ子が優しい笑顔で教える。


「ほえ? ああ~、ありがとハツ子ちゃん」


 凜が舌で茶色い汁を舐め取った。


「そのやらしい舌使いで会長の割れ目舐めてるのかぽ」


 ハツ子の隣で足利居庵がぷーくすくすと笑うと天ぷらうどんをすすった。

 かああっと顔を赤くした凜が、恥ずかし気に手を口へ当てる。

 そこへイベリコ豚定食のトレーを持った生徒が凛の横で立ち止まった


「ちょっど聞いてしまっだんだけど、あんだ会長さんのミナリスなのが?」


 三人の目が声の主へ向けられる。

 ちなみにミナリスとはカップルの意味である。


「あーいきなりでごめん。あだし一年三組の伊達育美(だていくみ)つーんだ。よがったら一緒に食べていい?」

「う、うん、いいよね?」


 そう言う凛にハツ子と居庵が頷いた。

 耳に被さる程度のショートヘア、腹黒さが皆無の澄んだ大きな瞳、人懐っこい笑みを作る口、だが何より三人の目を惹いたのはそれ程大きくない身長に見合わないおおきなバストだった。


「んじゃ、ご相伴させて貰うが」


 凛の横に座る育美、そのFカップはある胸がぽよよんと揺れる。


「ほわ~、おっきいおっぱいだね~、羨ましいよ~。あ、遅れてゴメン、私一年一組、上杉凜だよ」

「ほ、本当に大きいよね。私なんかBカップだから少し分けて欲しい感じ……って、い、一年二組、山中ハツ子です。よろしくね」

「凛、ハツ子、なに羨んでるぽ。でかぱいは年取ると垂れて醜くなるんだぽ。それに私ら貧乳はステータスで希少価値なんだぽ。昔からの有名な格言ぽ」

「それって結構昔の格言じゃないの? いくら居庵がAカップ未満だからってそんな事言うのはダメだよ」

「Aカップ未満言うなぽ! ブーメランおつ!」

「いいから自己紹介しなよ、居庵」

「ぐぬぬっ……一年二組、足利居庵だぽ!」

「だははは、あんだら面白いなあ。友達になってけろ」

「もちろんだよう」

「よろしくね、育美ちゃん」

「でかぱいリア充と友達とかマジ勘弁――あでっ!!」


 ハツ子が居庵の後頭部を掴み、強引にお辞儀をさせた。


「居庵もこのとおり、よろしく! だって」


 それを前に、郁美の顔から笑みが消えた。


「リア充……が、あだし今、全然リア充じゃねんだ」

「ど、どうしたの育美ちゃん? 教えてよう、相談に乗るよ?」

「じつは……」


 この学園は百合天国で、同室となった相手が百合カップル、つまりミナリスとなる場合が多いのはご存知の通り、だが馬が合わないというか百合が合わない場合も当然発生するわけで、このミナリスとなってない百合のことをヴライと呼ぶのである。


「……って訳で、あだしヴライなんだあ。凛ちゃんは会長さんど、ハツ子ちゃんは居庵ちゃんっていうミナリスいるもん、いいどなあ。むしゃむしゃぐぁつぐぁつ」


 涙を浮かべながらイベリコ豚定食を爆食いする育美。

 そこへ一人の生徒がやって来た。


「ちょいと皆の衆、その話、聞かせて貰いやしたぜ」


 肩まで伸びた跳ねッ毛だらけの髪、やんちゃそうな大きなつり目、いたずらっぽい笑みを浮かべた口にはアイスキャンディが咥えられていた。


「おーっす、俺っち一年三組の最上さな(もがみさな)。ああ、さっきから聞き耳立ててたから紹介とかいいから」


 突然の乱入者に一同言葉が出ない。


「そう固まんないでよ、あんた同じ組の伊達さんだよね? まさかヴライだったとは知らなかったよ」

「最上さん、あんだと話すの初めでだね」

「まーねー、伊達さんってスポーツ推薦で入ったから部活の人とばっか話してるじゃん。接点がなかったっていうかー」

「ええ? そうがあ、そういえばそうがもしんねえなあ」

「でー、俺っちもヴライなんよ。同室の子、なーんか固っくるしいタイプでさー、ダメなんだよねー」

「そ、そうなのが?」

「そこで提案! 俺っちとミナリスなってみない? 伊達さんの話盗み聞きしてたら結構メンド臭くなさそうだしさ、よく見るとボインちゃんだしさ」

「そんな言い方、やめでけろ」


 エロオヤジみたいな顔で妖しく指を動かすさなに、顔を赤くした育美が両手で巨乳を隠す。


「じゃ、まずは相性確認しよー?」


 両手で胸を覆った育美の横に移動したさなが、ごく自然に流れるような動きで顔を近づけると、キスをした。


「はわわ~」

「も、もうっ! こんな場所でその確認しちゃいけないのに……」

「ごくり……ぽ」


 驚いていて上気を帯びた育美がゆっくり目を閉じる。

 密着させた口を互いにくちゅくちゅさせた後、二人は唇を放した。

 

「ふう…………相性いいじゃん。よっし、ミナリスなろうぜ、育美!」

「……ん、んだな。なんか急だげども。ミナリスなっか、最上さん」

「さなって呼んでよ」

「あ、んだな……さな」


 他人のミナリス誕生を初めて目の当たりにする凛たちが祝福の声をかける。


「やった~、おめでとう二人とも~」

「何か感動しちゃった。素敵だわ」

「漫画みたいなご都合展開ありえんぽ、やっぱリア充じゃん、死ねぽ」

「んじゃさ。早速俺っちの部屋いこ」

「でええ? いぎなりでねえが?」

「体の相性も確かめたいんだよー。ちなみに俺っちタチだから」

「え? あだしもタチだど」

「まじかよ、郁美って顔つきからしてネコだろ!」


 タイトルに百合がみっつも含まれたこの作品を読んでる皆さまには当然過ぎて気分を害する事と思いますが、あえて説明しましょう。百合の本番行為中、攻めの役回りをするのがタチ、受けの役回りをするのがネコというのだ。 

 

「なに勝手に決めでんだ、あだしちっせー頃からタチだったんだど!」

「俺っちだって初体験時からタチなんだよー! これぜってー譲らねーからなー!」

「あだしもだ!」

「あー、わかったよもう! じゃあこの話は無しだ、あっかんべー!」

「こっぢこそお断りだど! この、ほでなし!」

 

 プイと互いに顔を背け、荒々しく靴音を鳴らしてこの場を去る郁美とさな。


「ありゃりゃ~、せっかくミナリスになったのに~」

 

 本当に残念そうな顔で二人の背中を見送る凛。

 

「でも凛ちゃん、二人共タチ専門じゃしょうがないよ」

 

 困り顔で笑みを浮かべるハツ子を余所に、いじわるな笑顔で居庵が小さく笑う。

 

「にひぇひぇひぇ、ざまあ。これが現実ぽ。上手くいくのは二次元だけぽ」

「もう、意地悪なんだから、居庵は……」

 

 毒っ気が満たされた居庵が凛へ顔を向ける。

 

「ところで凛は当然ネコだよな。あのドSな会長の受けはさぞかし大変だろぽ」

 

 それに凛がきょとんとなる。

 

「私、タチだよ。桐子ちゃんとミナリスなった時から」

 

 居庵とハツ子の表情が固まった。そして二人同時に声を上げる。


「「えええええ~!!!!」」



 これが私立百合区百合が峰百合が崎学園、略して百合学の日常風景のひとつである。

 出会いと別れは表裏一体、伊達郁美と最上さな、二人の百合相手はいつ見つかるのだろうか。 

 この二人が今後台風の目となる! と言いきってしまおうとは言いきれない。

 次回は遂に! というか何が遂にかわからないが四天王生徒会の登場! という訳で次回もよろしくね。


 つづく

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