第2話 陰陽師百合と超能力百合

「あれ? あれれ~? タブレットがないよう」


 部屋の中、女の子座りをする上杉凛が、授業道具を入れる布袋を覗き込みながら情けない声を上げる。


「それ午後の授業で使うヤツだろ。どうすんだよ、無くしたなんて言ったら宇佐美先生すっげえ剣幕で怒りまくるぞ」


 下着姿の豊臣桐子――部屋で凛と二人きりの時は下着姿になる。それが彼女のポリシーなのだ。決して読者の妄想サービスではないのである――はペットボトルのコーラを手にニヤニヤする。


「ひゃわわ~、それ怖いですよ~絶対イヤですよ~、あ~どこどこ~?」


 凛がベッドと壁の隙間、机の引き出し、挙句の果てに制服のポケットまで探しまくる。


「ちまちま捜す位なら足利に頼めよ」

「足利さん?」

「お前と同じ一年にいるだろ」

「ほえ?……………………あ……あ~! あ~! 二組の足利居庵さん?」

「相変わらずニブちんだな。そう、そいつに頼めよ」

「あの子面白い格好してるよね~、おでこにでっかい星形のアクセサリー付けてて」

「ははは、それ五芒星だって。あいつの実家、京都で陰陽師やってるからな」

「陰陽師! それ映画で見た事あるよう、りゃん、ぴょん、とん、ほんにゃかほんにゃか~! ってやるやつ!」

「それっぽい事言ってるけど全然間違ってるからなそれ。動きも北斗百烈拳にしか見えん」

「ともかく足利さんにお願いすればいいんだね~?」

「ああ、式神使って捜してくれるぞ」

「ありがとう、桐子ちゃん」

「ここにお礼は?」


 中腰になった桐子が自分の唇を指差す。


「えへへ~、忘れてた」


 桐子の前に来た凛が顔を持ち上げ、口づけをした。



 キスの余韻で浮かれた上杉凛が、下手くそなスキップで向かっている足利の部屋をひと足先に紹介しよう。


「足利居庵(あしかがいあん)」「山中ハツ子(やまなかはつこ)」というカードが下げられた部屋。

 その中はカーテンが閉められ、ノートパソコンのモニターから発する明りだけが室内を照らしていた。


「ブーメランおつw、っと。今度はどいつを論破してやろうかにょ」


 モニターに顔を近づけた足利居庵が鼻息荒くマウスをクリックしたその時、部屋の戸がカチャリと開いた。


「もう居庵、また真っ暗にして。明りつけるよ?」


 上杉凛と思いきや、声の主はルームメイトにしてミナリスの山中ハツ子。当の上杉凛はどん臭いのでまだ廊下を下手くそスキップで移動中である。

 照明のスイッチを入れたハツ子がテーブルの前に腰を下ろし、ジャージ姿でモニターとにらめっこしている居庵の背中を眺める。


「また掲示板に書き込んでるの?」

「そうぽ」

「漫画関係のでしょ?」

「そうぽ」

「今、幹部録トツガワのスレッド見てるでしょ?」

「にぇ! 何でわかるぽ?」

 

 ヘアバンドの先に固定した五芒星がハツ子へ向く。


「それにお腹も空いてるでしょ。ベーコンサンド買ってこようか? あ、天然水サイダーも」

 

大きく口を開け、八重歯を覗かせた居庵が驚嘆の声を上げる。


「それ食べたいし、飲みたいと思ってたぽ! 相変わらず凄いぽ、ハツ子!」

「えへ、居庵のことなら何でもわかっちゃうの」

 

 三つ編みを小さく揺らし、メガネの奥のタレ目をウィンクさせながら、ハツ子はにっこり笑った。

 そこへ戸がノックされた。

 ノックの主は廊下にいた生徒らに尋ね、やっとこさ辿り着いた凛であった。

 お互い自己紹介が終わった所で、凛が本題を切り出した。


「という訳で~、タブレット捜して欲しいんですよ~」


 今にもベソをかきそうな顔でペコペコ頭を下げる。


「居庵、さっそく式神ちゃん呼び出して捜そうよ」


 三つ編み、メガネ、タレ目という純朴な容姿に違わず、ハツ子は優しかった。

 だが居庵は「いやだぽ、無くしたお前が悪い自己責任」と、椅子にもたれ掛かったままそっぽを向く。


「居庵、この凛ちゃんはね、会長のミナリスなのよ。いいのかなー、会長にはそのノーパソとかずいぶん借りがあるんじゃないの?」

「にょ、にょえ!?」

「ええ~、何でわかるんですか~?」、


 そんな二人にいたずらっぽい笑みを浮かべたハツ子が、立てた指を口に当てる。


「実は超能力者なんです……なんてね」

 

 そう言ってウィンクをした。

 凛が手をペチペチ叩き「わおう、エスパーだ~、ここにエスパーがいるよう」と笑顔を浮かべる。

 居庵といえば「場が荒れるから止めるぽ」と冷めた顔だった。

 その後、召喚した二体の式神により、めでたくタブレットの場所が特定された。

 二人へ何度も頭を下げた凛が廊下へ出ると扉が閉められた。


「うふっ、可愛い子だったね」

「あんなぬるぽでよく会長のミナリスできるぽ」


 居庵が両手を上げてあくびをする。


「さーて、またネットするかぽ」


 ノートパソコンのある机へ歩き出した居庵の背中にそっとハツ子が抱き付いた。


「人助けする居庵、とってもカッコ良かったよ」

「にゃはっ、そう言われると嬉しいぽ」


 ハツ子の手が居庵の胸に伸びる。


「ハ、ハツ子?」

「ネットより楽しい事しよ?」


 一通り行為が終わり、ベッドに横たわる二人。


「ふぅ……ふぅ……ハツ子」

「な、なあに、居庵?」

「おまいホントに……超能力者なのかぽ?」


 むくりと体を起こしたハツ子が口元に指を当てこう言った。


「かもね」


 これが私立百合区百合が峰百合が崎学園、略して百合学の日常風景のひとつである。

 陰陽師と超能力者の百合カップルはある意味無敵! 

 この二人が今後台風の目となる! と言いきってしまおうとは言いきれない。

 まだまだ出るよ百合カップル、という訳で次回もよろしく!


 つづく 

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