私立百合区百合が峰百合が崎学園!

こーらるしー

第1話 学園の日常

 私立百合区百合が峰百合が崎学園、略して百合学。

 風光明媚な岬にそびえ立つ完全寮制学園で、医療関係を目指す者が集い、切磋琢磨する学び舎である――――というのは建前で、百合が好きで好きで進学するなら百合しまくりなガッコ行きたいんだけど~、リアルじゃそんなトコないよ~、ってアレ? あったじゃん。つか園名にみっつも百合入ってるよ? 学園の紹介文も「集え、百合の乙女たち! ガチ百合大歓迎!」ってあるし、よっしゃあココ決ーめた! という者達が集う学園で、つまりは百合百合天国な場所なのである――――とはいってもこれ全年齢作品だから、シックスナ(バキューン!)とか、貝あわ(ギュワーン!)とかありませんのであしからず。


 学園の寮は二人一室と決められており、大体ここでカップル――この学園ではミナリスという――が誕生するのである。

 とはいえ馬が合わない、というか百合が合わない場合があるのも世の常で、当事者間で合意があれば部屋の入れ替えも可能なのがこの学園のおおらかな所。百合好きならここだよ、と言われる所以である。

 「上杉凛(うえすぎりん)」「豊臣桐子(とよとみとうこ)」というカードが下げられた寮の一室に入ってみよう。



「おーい、いつまで寝てんだよ」


 朝陽の差し込む窓を背に、立ち姿が美しい下着姿の女性が、布団にくるまっているルームメイトへ声を掛けた。


「ほわぁぁ~、桐子ちゃん。眩しいよう、カーテン閉めて~」

「いいから起きろってんだよ凛!、会長のあたしが遅れちゃ生徒会の連中に笑われちまうだろ!」

「ほわっ、そりゃ大変だよう、私を置いて早く行きなよう……むにゃ」

「置いてったらお前夕方まで起きないだろうに! だああ、毎回毎回メンドくせえ! やっぱこうするしかねえのかよ!」


 桐子と呼ばれた女性が息を止めるといっきに布団をひっぺがした。


「ほらほら、起きろ起きろぉぉ、アースクエイクだぞ!」

 

 ベッドを結構な力で蹴りまくる。

 

「ほわわわ、ひゃわわわ~」

 

凛と呼ばれた女の子がパジャマ姿で慌てふためきながら四つん這いになると地震の対処法よろしくショートヘアの上に両手を載せて気の抜けた悲鳴を上げた


「……っと、これ位でオッケーか。これ以上やるとヤベエからな」


 蹴るのを止めた桐子が腰に手を当て溜め息を吐く。


「ほらほら、早く起きて五分以内に着替える!」


 両手を頭に載せたまま動かない凛。


「……ったく、しょうがねえなあ。チュウしてやっから機嫌直せよ」


 桐子がショートウルフカットの頭を掻きながら顔を近づけた。

 

 ゴッ!!!! という鈍い音と共に拳が桐子の顔に拳がめり込む。


 鼻を抑えながらた尻餅をついた桐子の目がベッドの上で仁王立ちの凛を捉えた。


「とぉぉぉこぉぉ~、何やらかしてんのぉぉぉ? こらぁ~」


 握った拳を顔の高さに持ち上げた凛が無慈悲な目で桐子を見下ろす。


(やっべ、手加減したつもりだったのに“毘沙門天モード”が入っちまったぁー!)


 毘沙門天モード。

 それは凛のみが持つスペシャルスキル。

 普段は小動物的な可愛らしさと誰からも好かれる温和かつ天然ドジっ娘な凛だが、いったんテンパると生まれ故郷の英雄である上杉謙信の魂が降りて来るのか、幼いころ掛けられた暗示のせいか、たんにキレただけなのか、はたまた二重人格なのかは誰も知らないがそうなってしまうのだ。


「お前があ、だらだら寝くさって起きねえからだろが!」

 親指で鼻血を拭った桐子が両足を上げ勢いよく立ち上がるとノーモーションからの鋭いジャブを凛の鼻先におみまいした。

 鈍い音と共に凛の顔が後ろに仰け反る。

 桐子は生徒会長だけあって頭脳は勿論、身体能力も常人を遥かに超えているのだ。

 だが毘沙門天モードの凛も負けてはいない。すぐさま仰け反らせた顔を元に戻すと、鼻血を垂らした獰猛な笑みを桐子へ向け、すぐさま反撃の頭突きをくらわした。

 肉と骨がぶつかり合う音が朝陽さし込む部屋に響き続ける――――って百合作品なのにバトってどうする。


「はぁ、はぁ……」

「ふぅ、ふぅ……」


 顔は血だらけ、パジャマや下着は汗と血に染まり、ふらふら状態の二人が拳を構え向かい合う。


「……なあ、凛」

「な、何だぁ、桐子ぉぉ」

「もう手足でお前叩くの飽きてきたからよ、別な方法でお前叩きたいんだよ」

「ほぅ、どんな方法だよぉぉ?」


 人差し指を立てた桐子が自らの唇へそれを当てた。

 それに凛の顔から険しい表情が消える。


「いい方法じゃねぇか」


 吸い付くように体を合わせた二人が待ち焦がれていたように口を重ねた。


「んん……」

「ふう……」


 部屋にノックする音が響くが夢中な二人は気付かない。


「ちょっと会長、もう三十分以上遅刻してる……あ!?」


 小さく開けたドアから中を覗いた生徒会の一員である島津宇南(しまづうなん)――彼女もどこに出しても恥ずかしくない百合である――が驚いて顔を引っ込める。

 そしてゆっくり戸を閉めると、廊下の壁に背を預けた。

 

「会長相手に出来るの凛ちゃんだけだもんね、あと三分だけ待ってあげるか……それにしても、すっごいキス……」

 

 そう言ってもじもじと腰を左右に動かした宇南が僅かに熱を含んだ溜め息を吐いた。



 これが私立百合区百合が峰百合が崎学園、略して百合学の日常風景のひとつである。

 まさに百合が当たり前、当たり前じゃないのが百合以外、といった所。

 彼女たちの百合日常と百合イベントはこれから、という訳で次回もよろしく!


 つづく

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