第5話 私への告白?



 久し振りに学校に来たけど、大丈夫かな……?


 私は学校の階段を登りながら、そんなことを考えていた。


「あれ? 岡崎さん?」


 (あ……工藤くんだ、と思いながらペコリと会釈する)


 工藤くんは図書委員会の仕事なのか、たくさんの本を持っていた。


「風邪治ったの?」


 (こくん、と頷く)


「そうなんだ、よかった――ってうわ!」


 工藤くんは手を滑らし、持っていた本を廊下へばらまいてしまった。私はすぐにしゃがんでその本たちを拾った。


「ありがとう」


 工藤くんはさらっと返事を言って、すぐに行ってしまった。


「あ、イミ」


 もしかして。と私は振り向く。そこにはリュックを片方の肩だけで背負っていた小村くんがいた。イミって呼んでるのは小村くんだけだから。


「風邪、治ったの?」


 (こくんと頷く)


「よかった。じゃ教室行こ、一番心配してたの今井だしな」


 私は、小出くんの後をついて行き、教室に入った。


「あ、衣冬!」


 教室に入ると今井さんが大声を出して私に近づいてきた。


「衣冬がいなくて寂しかったよ。風邪治ったんだね」


 今井さんは私を抱きしめる。


 こんなに人に心配されたの、初めてかも。


「ただが風邪でそんな心配するか?」


 小村くんは、抱きしめ合う私達を見ながら言う。小村くんの顔はちょっと引いているような感じだった。


「そりゃそうでしょ。私の大事な友達なんだから!」


 今井さんは真剣な顔で小村くんに講義する。


 ――嬉しいな。


「あれ、岡崎さん。風邪だったんだって? 大丈夫だった?」


 私の近くの席にいる子に、優しく言われた。


 (うん。大丈夫だよ。と、優しく頷く)


「あ、衣冬。もう元気?」


 (うん。と、頷く)


 ――あれ? 私、いつの間にかクラスの人達とこんなにも仲良くなったんだろう?


「そういえば衣冬。一時間目に古文単語の小テストあるけど、対策した?」


 今井が単語帳を見ながら、私に聞く。


 ――え……? テストあったの?


「さてはその顔、忘れてたね」


 図書委員会の仕事から戻ってきた工藤くんが、眼鏡をくいっと上げながら言う。


「そういう工藤は大丈夫なの?」


「もちろん、僕もすっかり忘れていた」


「いや、お前もかよ」


 工藤くんも単語帳を開く。


「まあ、工藤は頭いいしすぐ覚えられそうだしね。あ、私はちゃんと対策してきたよ」


 今井さんがノートにびっしりと書かれた古文単語を見せながら言う。


「お前、今日のテストそこの範囲じゃねえよ」


「え!? 121番から140番じゃないの!?」


「それは前回の範囲だな。今日は141からだよ」


「はあ!?」


 今井さんも慌てて単語帳を確認する。


「じゃあ今井。『おどろく』の意味は?」


「そんなの小学生でも分かるよ。びっくりするとかそういう意味でしょ」


「バカか。古文では『目を覚ます』とか『気づく』って意味なんだよ」


「はあ!?」


「じゃあ『をかし』は?」


「お菓子!」


「『おかしい』とか『滑稽』って意味だよ。お前のことだな」


「はあ!? あ、でも見てよ『美しい』、『可愛い』っていう意味もあるんだって。私のこと分かってんじゃん!」


「お前は『滑稽』の方が似合うよ」


「それはあんたでしょ!」


「はいじゃあ、テスト始めるよ〜」


「「あ」」





 部活の時間になり私は活動場所へと向かう。


 結局、小テストで一番点数を取ったのは工藤くんで、今井さんと小出くんはあんまり取れなかったみたい。


 部室に到着して、私は中に入ろうとする。


 ――今日は確か、私達のバンドだけしか使わないって聞いたから、たくさん練習できるな。


 軽音楽部に入って、私はよかったと思ってる。想像以上に部活は白熱してて、明るくて楽しかった。今やってる曲はすごく難しいけれど、練習しても辛いとは思わない。


「――ねえ、小村」


 部室のドアを開けようとしたとき、中から声が聞こえた。


 ――この声って今井さん?


 私は部室のドアの隙間から、中の様子を覗き見する。


「あ?」


 小村くんのちょっと苛ついたような声が聞こえる。


「ええと……」


「なんだよ。用があるならさっさと言えよ」


 今井さんは少し間をおいてから話す。

 


「私たち、付き合わない?」



 ――え!?


「……は!?」


「お願い……!」


 今井さんは真剣な表情で、小村くんを見てる。


 ――これって見ちゃいけないやつだった……?


「なんで、急に?」


「……決まってるでしょ、私は、小村のことが……その……」


 今井さんが顔を赤くしながら言うのを躊躇っている。


「……断る」


「……え?」


 今井さんの告白が終わる前に、小村くんは返事をしてしまう。


「ねえ、なんで。小村、好きな人とかいるの?」


「好きな人か……」


 小村は少し考えながらこう言う。


「いる」


 ――なにこの展開……。どうなるの?


「あれ、衣冬ちゃん? どうしたの?」


 ――!


 私の後ろには、部活の先輩がいた。どうしてだろう。今日は私達のバンドしか練習はないはずなのに……。


「なんか覗いてるように見えたけどなに?」


 先輩は強引に部室の中を覗く。


「あれ、今井と、小出じゃん。なにしてんだろ?」


 先輩が覗いていることを知らず、二人話続ける。


「だれ? 小出の好きな人って?」


 小出くんは言いたくなさそうな顔をするが、口を開いて。



「イミ」



 と言った。


「え? イミって誰?」


 と先輩が呟く。


 ――そっか、先輩は小村くんが私のこと間違えて「イミ」って呼んでること、知らないんだ。ていうか、小村くんの好きな人って私!?


「ねえ衣冬ちゃん。イミって誰か知ってる?」


 (え? し、知りません……。と動揺しながら首を横に振る私)


「……え? 衣冬のこと、好きなの?」


 今井さんも予想外の発言に驚く。


「ああ、好きだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る