第4話 転校生のお見舞い


 はあ、はあ、はあ。


 と、私は息を切らしながら学校の階段を登っていた。


「もう! なんでこんなときにアラームセットし忘れたの〜!」


 教室まであと30メートルほど。まだ間に合うと私は確信する。ラストスパートをかける。


 教室と廊下の境界線に足を入れた瞬間、チャイムが鳴った。


「よし! ギリギリセーフ!」


 私は一安心して、自分の席へ座ろうとすると、私の席には知らない人が座っていた。


「え? あれ?」


 よくよく見ると、担任も違う。私は教室を出てドアを見ると。


「ああ! クラス間違えた!」


 私の教室は一個後ろの教室だったことに今更気づく。


 その教室にいた人達はくすくす笑い、私は恥ずかしくなってすぐ自分の教室に飛び込んだ。


「お、今井。遅刻だぞ〜」


「さーせん……」


 間違えてなかったら間に合ったのに……と思いながら今度こそ自分の席に着く。


「今井さん、そこ岡崎さんの席だけど」


「え? あ、やば」


 また間違えて私は衣冬の席に座ってしまった。


「ん? ちょっと待って、なんで衣冬いないの?」


「ああ、イミは朝来たんだけど熱あったから早退した」


 小村が私の遅刻を笑いながら言う。


「ええ!? 衣冬熱だったの!?」


「おい、今井! 朝読書中だぞ!」


「あ、さーせん」


 また、先生に怒られ、小村に笑われる。





「衣冬がいないなんて……」


 昼休み。いつもは衣冬も一緒に集まり食べているが、いないと寂しく感じる。


「まあでも、岡崎さんは殆ど喋らないし、いてもいなくても変わんな――」


「うわひど工藤」


 私は工藤の意見をバッサリ切る。いてもいなくても変わらないなんて酷すぎる。


「ねえ、放課後にさ、衣冬のお見舞い行かない?」


 私は小出と工藤に提案する。と、言っても小出は「面倒くさい」と言って行かなそうだ。工藤は「図書室に用事がある」とか言って行かなそうだ。


「悪いが、僕は図書室に用事が――」


「駄目! ついてきて!」


「ええ……委員会なんだけど」


「たまにはサボれ!」


 絶対にこの二人を連れて行く。


「小出は?」


「まあ……いいけど」


 行かなそうと思っていたが、予想外の言葉が聞こえた。


「珍しいね」


「そうか?」


 小出の顔は何故か本気で心配している顔だった。


「ていうか、イミの家って知ってるの?」


「あ、そっか」


 肝心なことを忘れていた。





「え!? 小出って衣冬のメール持ってたの!?」


 衣冬の家へ向かってる途中、私は電車の中で思わず叫ぶ。


「まあ、うん」


「ちょっと私にも頂戴!」


「いいけど」


 小出はしぶしぶ、私に衣冬のメールを送る。なんで、小出が先に。


 工藤は私達と離れたところで相変わらず本を読んでいた。スマホより、本が好きならしい。




 私達は目的の駅に着いて改札を出る。


「ホントにこっちでいいの?」


「ああうん。お前みたいに方向音痴じゃないからな」


「はあ!?」


 小出は衣冬にメールして、家を教えて貰ったらしい。と言っても、衣冬ってこんな遠くから通学してるんだなあ、と関心する。


「まったく、今井さんのせいで委員長からメールで怒られたよ」


「あんた、友達よりも本が大事なの?」


「そりゃそうだよ」


 その後、工藤は本の良さを20分語り続けながら歩いた。





 玄関の方からインターホンの音が聞こえた気がする。そういえばと私は思い出す。


 小出くんが私の家の場所を聞きに来たことを。


「ねえ衣冬? お友達来たみたいだけど、上がらせちゃっていい?」


 お母さんが部屋から入ってきて訊く。私はベッドから起き上がる。


 (元気なさげに頷く)


 何気に私は返事をしてしまったが、友達を部屋に入れることは初めてだった。少し恥ずかしくなる。


「衣冬〜? あ、いた! 会いたかった〜!」


 今井さんが一番乗りで私に抱きつく。


 (風邪、移っちゃよ……)


「イミ元気か?」


「熱出してるんだから元気な訳ないだろ」


 小村くんの問いかけに工藤くんがツッコミを入れる。


「あ、そうだ! 衣冬のためにさ、飲み物買ってきたんだ! はい!」


 そう言って、今井さんは私に炭酸飲料を渡す。


 (実は炭酸苦手だけどありがとうとお礼する)


「ていうか、ホントに大丈夫? まだ熱あるの?」


 そういえば、さっき今井さんからメール追加されたんだっけ。と思い出し私はメールを送る。


『熱はまだあるけど、朝よりは楽になったよ』


 今井さんは私のメールに気づいていないのか、「衣冬の部屋ってめっちゃきれいだね」と言っていた。





 衣冬のお見舞いにじ来てから10分くらい経った。いつの間にか衣冬は寝てしまい私達は帰ろうか、と話していたときだった。


「今日は衣冬のためにありがとね」


 衣冬のお母さんが私達に向かって言った。凄く優しそうなお母さんだ。


「いえ、俺ら友達なので」


 と、小村が答える。


「ちょっと聞きたいことあるんだけど、あの子って学校では喋ってる?」


 急な衣冬ママの質問に私は「いや……全然」と答える。衣冬ママは「やっぱりか……」という顔をしていた。


「あの子は、家でも全然喋らないの。だから学校だともしかしたらと思って」


「そうなんだ……」


 衣冬って家でも喋らないんだ。


「あの子、そんな性格だから今まで友達いなかったのに、こんな優しそうな友達ができて嬉しい。ありがとね」


「いや感謝するほどじゃ……」


 衣冬ママが少し涙目になっていることに気付いた。


「あの子、昔からしょっちゅう熱出しちゃうから、またお見舞い来てくれるといいな。表に出さないけど、あの子も嬉しいって思ってるよ」


「はい、なんなら毎日来たいです!」


 私は元気よく答えた。

 

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