第3話 知られたくない秘密


 6:00 起床


 私は妹に起こされた。


「お姉ちゃん? 起きて〜」


 妹に身体を強く揺さぶられる。


 私には妹がいて、名前は未冬みふ。妹も私と同じように、人と話すのが苦手な子だけど、家族の間では普通に喋れる。


 私は例え家族でも話すことができない。


「おはようお姉ちゃん」


 (眠そうにあくびしながら「おはよ〜」と頷く)




 

 8:00 登校


  この時間帯は早いので、教室にいるのは数人だけだった。その中に、友達になった今井さんもいる。


「あ、衣冬じゃん、おはよー」


 スマホをいじってた今井さんは、顔を上げて私に言う。その声は今日も明るい。


「今日も萌え袖してるね」


 (心の中では笑いながら頷く)


 私は冷え性だから、冬になると指先が冷たくなるから、冬はいつも萌え袖していた。そのせいか、クラスメイトからは「萌え袖ちゃん」とか、「萌え袖さん」とか呼ばれるようになってしまった。


 でも、それはそれであだ名ができたということなので嬉しかった。


「ねえ、衣冬。今日テスト返しだけど、点数勝負しない?」


 (点数勝負? と首をかしげる)


「衣冬が全教科の合計点数が私よりも高かったら、えーっと……じゃあ、好きな飲み物買ってあげるよ!」


 好きな飲み物! と私は目を輝かす。


「その勝負、僕も入れてくれない?」


 後ろで本を読んでいた工藤くんが今井さんに話しかける。


「あんたは毎回クラス1位取ってるからダメ」


 工藤くんってそんなに頭いいんだ……と私は関心する。


「じゃあ俺入っていい?」


 教室に入って来たばかりの小村くんがリュックを下ろしながら言う。


「小村はバカそうだしいいよ」


「普通にひどくね?」





 12:45 昼休み


「小村、今のところ何点?」


「えーっと、数学が43点で、言語文化が41、現国が43、公共が28……」


「お前大丈夫か?」


 小村くんって意外と頭が……。


「化学基礎が20点、歴史総合が88」


「ちょ歴史総合どうしたの!?」


「まあ今回は歴史だけ本気出したし」


 歴史得意なのかな? と私は思う。


「だから合計263点かな」


「私は489点だけどね」


「はあ!?」


 今井さんすご。と心の中で褒める。私は何点だろう。


 数学が93点。言語文化が98点。現国が92点。公共が96点。化学基礎が87点。歴史総合が96点。


「衣冬はどうだった?」


 今井さんが私と目を合わせながら聞いた。


「ま、たぶんイミには勝ってると思うわ」


「どっからそんな自信来るんだよ……。あとイミじゃなくて衣冬だし」


 私は筆箱の中から付箋を一枚出して、合計点数を書いて、今井さんに見せる。


「え!? 562点!?」


「なんか計算ミスしてんじゃね?」


 (「そんなことないよ」と首を振る)


「だってあと返されてない教科は保健と、論表と、英コミュでしょ?」


「じゃあイミがあとの3教科で0点取って俺が全部100点取れば逆点っていうこと?」


「はいはい、頑張れー」


 さすがに0点はないと思いたい……。


「お腹空いたしさっさと食べよ!」





 16:00 放課後


 今井さんは小村くんのテスト結果に、ものすごく笑っていた。


「まさかw、あんたがあとの3教科0点なんてw」


 両手を叩きながら激しく笑う。


 ちなみに私は今井さんとの勝負に勝った。


「じゃあ、小村が最下位だから私と衣冬に飲み物奢ってね!」


「しょうがないな、分かったよ……」


 私達は自販機へ向かった。



「今井は?」


「私は……このジュースね!」


「一番高いやつじゃんこいつ……」


 文句を言いながら、小村くんはお金を入れる。


「イミは?」


 (どうしようかな? と迷いながら指を指す)


「ココアでいいの? これ一番安いけど」


 (うん、大丈夫。と頷く)


 そして小村くんは飲み物を買って、私に渡した。


 あったかい。


「今日は部活もないしさっさと帰ろ!」


 今井さんが弾けるように言う。


 また、小村くんと帰れるかな……?


「イミ、今日も一緒に帰る?」


 小村くんも自分用に飲み物を買いながら言う。


 (うん!)





「イミってさ」


 小村くんとの帰り道。話す話題が見つからなくてずっと無言で歩いていたが、ついに小村くんが口を開けた。


 (なあに? と首を傾げる)


「転校してから喋ったところ見たことないけど、それってなんか理由あるの?」


 私は一瞬、心臓が跳ねた。


 喋れないのは、あの能力のせい。あの能力と言えば、小村くん。


 小村くんはもうすぐ死んじゃう。


「イミ?」


 私は長い時間反応しなかったので、小村くんに名前を呼ばれてしまう。


 (どうしよう……。教えるべきなのかな……?)


 私は小村くんと目を合わせられず、ずっと下を向いたままだった。


「ま、話したくないならいいけど。俺は聞いてみたいな、イミの声」


 え? と思い、思わず目を合わせてしまう。


 私の声を聞きたい?


「イミの声って絶対可愛いじゃん」


 ドキン! と、また心臓が跳ねる。


 (そうかな……? と顔を赤くする)





 6:00 起床


 私は妹に起こされる。


「お姉ちゃん? 起きて〜」 


 いつも通りの朝。だけど何かが違う気がする。


「おはよ、お姉ちゃん」


 (おはよう。と目を擦りながら頷く)


「大丈夫お姉ちゃん?」


 (え? なんで心配されてるの? と首を傾げる)


「なんか顔赤いよ」


 確かに、言われてみればなんか熱い気がする。


 (でも、大丈夫だよ。と妹の頭を撫でる)





 8:10 登校


「イミ? おはよー」


 校門をくぐると、たまたま小村くんに会った。今日は自転車じゃないんだ、と彼を見ながら思う。


 私達は一緒に教室に向かった。


 階段を登ってる途中、少しめまいがして小村くんがいる方へ倒れてしまう。


「イミ、大丈夫?」


 小村くんが私を支えてくれた。なんか今日はおかしい。


「熱あるんじゃない? 熱いよ」


 私は自分のおでこを触ってみる。確かに熱い。妹の言う通りだった。


「保健室行こ」


 小村くんは私と手を繋いで、保健室まで案内してくれた。手を繋いだ瞬間は、もっと熱くなった気がする。

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