第46話「信頼と安堵。見落としていた異常」
ドガっ、バギメぎごドンっっっ!!
盛大な破壊音と共にノアドラは墜落する。ただ、不意に受けた攻撃を避けることはできなかったものの、防御魔術を展開することで落下ダメージはほぼゼロに抑えることができていた。
「――――……っ。……ああもう、黄金に精神消毒効果があるなら、洗脳くらいはできて当然だよな……忘れてた」
瓦礫を押し退けて立ち上がり、頭上に目を向け、ゆっくりと降下する二人の姿を確認した後、ノアドラはトゥウィーニを睨む。
「……うっわ。他人操って何が楽しいんだか。その力で人形たくさん作ってハーレム王国だわはは、……ってか?」
一年もの間黄金を身体に宿していたノアドラでさえも、思いついてはいなかった黄金の使い方。それをたった今触れたばかりのトゥウィーニが発揮させ、使いこなしているという事実。
間違いない。黄金は、この男が生み出したものだ。
かつて魔王はノアドラに語った。「黄金は、自分がこうなった時から側にあった」と。
……自分が利用するため、無垢なる少女一人の人生を踏みにじり、魔王という役職を着せて、大勢の人を巻き込んで――思い通りに操った。
そろそろこいつは、報いを受けるべきだ。
ノアドラの瞳が一段と敵意を増す時、憎むべき敵であるトゥウィーニは肩をすくめた。
「それほど下種な考えは持ち合わせていませんでした。さすがは魔王を討伐した勇者。英雄色を好むなんて、いつの時代ですか。……それに、この術式はそんな遊びに費やせるほど簡単ではない」
どうやらトゥウィーニは語りたがり、というよりも自慢したがりらしい。そのことが何よりも厄介だと、ノアドラは歯噛みした。
(得意げになっていても、黄金の操作が少しも乱れてない。ミオク達の動きが少しもカクつかない。……本当に人間かよ)
「簡単じゃ、ないだと? 他人の精神に平気で手をかけたくせに、何が簡単じゃないだよクズが」
「こころ的な問題ではないのですよ。事実として彼女達を操作している時からある程度の行動を操ることは可能であっても、彼女達の記憶にアクセスするどころか生理現象すら抑制できませんし。人体の可動域を超えた動きも黄金による補強が必要になるのでエヌジー。……現状、あなたに対して戦わせるだけでいっぱいいっぱいなのですよ。黄金を使わせることも出来ませんし。あなたが斃れてくだされば、彼女達を操る必要もなくなります」
言葉とは裏腹に余裕の表情で、つらつらと勝手に喋ってため息を吐く。最早、仕草の一つ一つが不快だった。
「何のためにそこまで喋る」
「私の身の潔白を証明するためであれば」
「死ね。――NA!」
吼えるように繰り出されたノアドラの攻撃は、トゥウィーニの操る黄金に容易く弾かれる。それでも魔術式による攻撃を続行しながら、ノアドラは三人から逃げるように走り出し、トゥウィーニとミオク、レユネルが追いかける。
「多少の計算違いはありましたが、ご存じの通り、魔術式とはそもそも完全な理論構築が難しいもの。想定よりもより強固に結びついているというイレギュラーは良しとしましょう! 私には得、なのだから!」
確かに、ここまでトゥウィーニがお喋りをしていても彼を取り巻く状況は何も好転する見込みがない。ミオクとレユネルは敵に捕らわれている上に敵対していて、魔王もトゥウィーニの中にいる。状況は悪化の一途を辿っている。
ノアドラでさえ、黄金を使うときは動きが単調になる。しかも彼は黄金の持ち主である魔王の協力を得た上でその程度だったのだ。
(多少の計算違い? いや、疲労とかで術式の出力結果が想定を下回ることはよくある。状況が揃っていれば、その逆も。……運の良い奴め!)
自分に絶対できないことをいともたやすく行うくせに、その精神は穢れた私欲にまみれている。ジェルダレアンの勇者として、そのことだけが残念だとノアドラは思考を切り替えようとして、再び気付いた。
(……あれ? じゃあなんでミオクが操られている?)
その違和感に引きずられて、レユネルが繰り出す拳による攻撃をまともに受けてしまう。
壁に叩きつけられ、それでもすぐに動いて追撃から逃れながら、ノアドラは思考を走らせた。
ミオク・フェスティバル。ノアドラの後輩であり、パーティ仲間だった少女。
得意としているのは、パーティ随一である思考速度を生かした効率的な戦術の立案。つまり敵と直接対峙はせずに後方支援を行う戦い方。……ただ、彼女は頭の回転の速さだけでノアドラのパーティにいるのではなく、彼女自身が魔物と対峙しても単独で倒せる程度の能力も備えていて、戦闘能力の高さも、彼女を語る上で魅力の一つと言える。……どころではない。
(あいつが、初めて見た術式に押し負ける、だと?)
目の前に起こっている事実と、彼の中の常識が相克を起こす。
彼が相対したトゥウィーニは確かに恐ろしい。今までに誰も作り上げたことのない術式で黄金を奪い、それを使役する能力も兼ね備えていて、魔王を利用している彼の存在は清楚魔王本人よりも恐ろしい。
だが「魔術式を唱えている時点」で、ノアドラの彼に対する恐怖感はかなり薄れていた。
(……そんなの、あり得るわけがない)
ノアドラは不意にミオクの方に視線を向けた。
黄金に侵され、感情を失っている筈の少女は、ノアドラと視線が合うと――
「……、……」
にこり、と笑って見せた。
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