第45話「まさかの奇襲」
「体重を羽根よりも軽くしたのか!?」
確信しても尚、口に出さずにはいられない。
「気付くのが遅いんだよばーか!」
ただ単純に浮いたり飛んだりしているのではなく、自分の体重を軽くすることで機動力を上げている。それはつまり「星」という巨大な引力に抗い、利用しているということ。
とんだ力業で、魔術式における造詣は誰よりも深いと自負するトゥウィーニですら、決して真似出来るものではない。確かに、こんな「勇者(かいぶつ)」でなければ、同じ「魔王(かいぶつ)」を仕留めることはできなかっただろう。
(……いや、それだけじゃない。軽くしてはいる。……が、それだけではないな)
怒りを言葉に乗せることで、トゥウィーニは極めて冷静になった。
そのせいか思考が深いところまで巡り、ノアドラ自身の重さの軽減に加えて増重、速度までわざと速くしたり遅くすることで動きに緩急を生み出し、トゥウィーニの計算を狂わせていたことにも気づく。
一方、笑みを浮かべるノアドラ。その心境は余裕の表情と対照的だった。
(……さすがに簡単に避け過ぎたか。いや、今のは確実に躱さないとやばかった……)
執念を通り越して狂気の域にまで手を伸ばしたトゥウィーニの技量の高さ。ノアドラは、言葉では皮肉を言いつつも、魔王と対峙した時以上に戦慄していた。
一般的に魔術式は名前が短く、唱えることが簡単なものばかり。長く複雑な名前ほど構成難易度は跳ね上がるものの、それだけ複雑な術式になるということでもある。
(けど、なんでそこまで複雑化させた? 黄金を奪うだけならまだしも、こっちに攻撃してくる術式全部ややこしいものばっかだし。無駄にアタマ使わなきゃいけない理由なんて、ないだろ)
トゥウィーニがノアドラから奪った後も黄金を操れているのも、その術式の複雑性があってこそ。そこまでの結論に辿り着いて、ノアドラは気づいた。
「……?」
ノアドラが抱えているレユネルとミオクの、重さが変わったことに。
「――――」
そのことに気づくと同時。ノアドラは、頭上からの攻撃によって叩き落された。
「……、……!」
急な攻撃、というか予備動作も何もない完全な奇襲。
地面に激突するまでの僅か数秒、彼に攻撃を当てたものの正体、ではなく、彼は自分を見下ろす『彼女達』の身体を視ていた。
意識を失っている筈の彼女達の身体からは、黄金が滴っていた。
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