第44話「嘲る勇者と怒る厄災」
「おまえって、本当に逆矩? なんていうか、そんな見た目だったか?」
「……」
「おれはてっきりぼさぼさのロングヘアで、色白で、がりがりに痩せた今にも倒れそうな病人よりも病人の顔をしてる奴かと思ったんだけど。ひょっとして別人? 一応名前確認するけど、」
そこまでノアドラが口にした時。
肩を震わせて、顔を赤くして、しかしまだ落ち着いた口調でトゥウィーニは口を開いた。
「……私はトゥウィーニです。……えぇ、あなたの言う通り。『災禍の制作者』、逆矩のトゥウィーニですとも。ちなみに、イメージチェンジなどはしていません。一年前、貴方がたと共に魔王討伐作戦に参加した、勇者のはしく」
「あ、もういいから。レユネルとミオク回収できたし。おまえの自己紹介なんか興味あるわけないだろ、変態筋肉」
しかし、トゥウィーニのターンはまだだった。
いつの間にかノアドラは意識を失ったレユネルを肩に担ぎ、ミオクを脇に抱えている。
「……………………っ」
トゥウィーニは思わず自分の目を疑った。
ノアドラが戻ってきた時からずっと彼の位置は把握しているし、意識を外したつもりもなかった。……それが、気づけば彼の仲間を回収している。
「……いつの間に」
(言葉にするまでもない極短詠術式……? それとも私の認識に干渉して……いや、それはない)
ノアドラのナカに眠る黄金を回収し、トゥウィーニの魔力量は底上げされている。逆にノアドラは、今まで黄金の力で補っていた分を喪失していないとおかしいのだ。
「『いつのまに』? おまえがダサい名乗りをしてる最中にだよ。隙だらけだったわ、間抜け」
でも、ノアドラに聞いたところで返ってくるのは皮肉だけ。
「……そう、ですか」
わなわなと、臨界点を越えた怒りで笑みを浮かべて、ゆらり、と一歩を踏み出し――トゥウィーニは一言呟いた。
「深黄淵火(グラスティ・ファイルド)っっっ!!」
黄金が、トゥウィーニの一歩に合わせて噴火する。ドレスの表層が金木犀のように咲き乱れ、四方八方からノアドラを襲う。
しかし。
「遅いって」
まるでシャワー、雨よりも濃密に迫ってくる面に対する攻撃をノアドラは、二人ともしっかりと抱えたまま、逃げ場をなくすようにとあえて設定された着弾時間の差を逆手にとり、動いて避ける。
「な……ぜっ!? 私の術式は黄金によって強化されている! あなたは弱体化している筈だ!」
ノアドラの身体、行動の端しか目視で追えずにトゥウィーニは思考を投げた。
だってあり得ない。あり得るはずがないのだ。ノアドラから黄金は奪った。あとは残りかすとなったノアドラを始末するだけ。それなのに、目の前の光景はトゥウィーニの予測したものとはかけ離れている。這いつくばるドロボウはどこにもおらず、自分はただノアドラの動きに翻弄され続けていた。
「くっ、……このっ! 金環業握(アウスバラファ・コルドネド)!!」
黄金をさらに押し広げ、ノアドラと自分を囲う「輪」の形にして高速回転させる。そして黄金の出口を内側に向けて設定し、前後右左斜めと、あらゆる角度から発射。鋼鉄どころかダイヤモンドですら容易く貫通する威力を持った黄金の弾丸が文字通り全周囲から襲い来る。
「躱せるものなら躱してみなさいっ!」
作戦や牽制など微塵も考えない、暴力の嵐。仮にトゥウィーニ自身がこの攻撃を喰らったとしても、避けることはできず、上半身が消し飛ぶだろう。今まで彼が対峙してきた敵にしても全員死ぬ。それは間違いない。……それでも、
「オイさっきより簡単だぞっ!」
ノアドラは真上にジャンプして軽々逃げた。
「……」
しかしそれは、今までずっと不可思議だったノアドラの秘密をトゥウィーニに悟らせるものだった。
「……そうか、そういうことかっ!」
トゥウィーニは、ヒト二人を抱えて軽々と、重力を忘れたかのようにジャンプするノアドラを見て確信する。
「体重を羽根よりも軽くしたのか!?」
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