第42話「増悪滅善の祝詞」


 もう後はとどめを刺すだけ。……その最後になって、追い詰められた筈のトゥウィーニは笑みを見せた。


「『普段鍛えていない』……? それは違う。それは違うのですよ、ミオクさん」

 ぞぷり。……いやな気配が、ミオクの胸を撫でた。


「…………」


 とどめを刺そうと――気絶させようと――していたミオクの拳がわずかに緩む。

 トゥウィーニの武器による攻撃はミオクの徒手空拳で圧倒していて、敵はミオクに追い詰められていて。

 彼女の理性は、トゥウィーニに対する攻撃を止めるつもりはなかった。

 しかし、彼女の身体に起きた異変、本能が感じ取った違和感は理性の判断に「待った」をかけていた。


「私の保有する魔力は……あなたよりも少ないのですよ、ミオクさん。あなたがたのパーティリーダーであるノアドラさんのことは言わずもがな、ですが」


 その一瞬が、彼女にとっての命取りであり、敵が待ちわびていたチャンスだった。

 僅かな隙。それが、無限に広がっていく。それを自覚した時にはもう、彼女の胸元から黄金はあふれていた。


「灰逆神戯(クオーリーソーサー)」




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