清楚魔王とあんみつ勇者 第五章
誰が為に勇者は人を救う
第34話「抱きしめるほどの遭遇」
翌朝。ノアドラ達は、無人の歓楽街をのらりくらりと歩いていた。
敵がいた。それだけでなく、ミオクが狙われていることからも、奴らはノアドラ達を標的にしているのは間違いない。
敵の目的はノアドラの中に眠る黄金が目的。現在ノアドラが敵と見定めているトゥウィーニという男は、過去に魔王を倒すことよりも魔王の使う黄金に執着していた。
勇者であるなら黄金の性質に興味を示すのは当然かもしれないが、トゥウィーニの執着は興味の域を超えている。まるで魔王の正体を最初から知っていたかのように。かの男の性質がノアドラの知っている時と変わっていないのであれば、ノアドラの読みに外れは無い。
(……いや、より凶悪になっている可能性もありうるか)
いずれにしてもトゥウィーニとの距離は思ったよりも近く、敵に狙われているのということはわかっている。なので、彼らに対して先手を打つために、まずトゥウィーニの居場所を特定しようとしていたのだ――が。
「……ノア先輩。誰もませんよ」
大きな欠伸をしながらそうノアドラに対し話しかけるミオク。
異変は既に起きていて、ノアドラ達は完全な後手に回っていた。
とはいえ、ノアドラ達も決意だけ固めて夜を明かしたのではない。魔王に頼み、一晩中ミオクに植え付けられていた黄金の反応を探っていたものの、収穫はゼロ。微かな反応さえ捉えることはできなかった。
そのため全体的に寝不足状態の彼らである。
ノアドラとレユネルが暮らす階層の異変に気付いたミオクが声を向けたのはレユネルで、レユネル本人も寝惚けているのか自分に背を向けるノアドラの頬を抓っていた。
「……ああそうだな。……そういえば、避難通告が来てたような……」
そして、ノアドラは腕の中にいるレユネル(仮)の頭を撫でていた。
「……避難……ですか」
避難――と聞いて、メンバーの中で一番朝に強い(危機管理能力が優れた)ミオクが目を見開いた。
「ああ……ん……ま、あ、そう……だな(目が覚めた)」
続いて、ノアドラも思考が現実に追いついていく。
「――って、避難通告来たから家出たは良いけど他に何一つ覚えてねえ! どっちに逃げるんだっけ! 上!? 下!?」
完全覚醒したノアドラが混乱に陥る。
レユネルを抱えて右に左に走り出し、背中にしがみつくレユネルを振り落としかけて――そこで漸く気づいた。
「……って、レユネル……?」
「……むぎゅー、もぎゅー」
ノアドラの問いかけに、腕の中にいるレユネルがくぐもった声で返事をして……。
「……のあ、わたし、こっちー」
まだ寝惚けているレユネルが、やはり後方からノアドラの顔を引っ張った。
「……じゃあ、こいつ……誰だ?」
腕の中のレユネル(?)を、恐る恐る覗き見るノアドラ。
そこには――
「……まさか寝惚けて間違えられるとは思わなかったぞ、ちくしょう……」
金髪金眼が特徴的な、ノアドラよりもかなり小さな背丈の少女が、ノアドラを睨み上げていた。
その容姿はどこか、何故か魔王を彷彿とさせて――
「……な……」
言葉を失うノアドラに、少女は胸を張って笑みを見せた。
「自分が抱きしめていたのがものすごい美少女で驚くのはわかるが、寝惚けて抱きしめるのはさすがに気持ち悪いな。普段からお前達はそういうことをやっているのか?」
言いながら、少女の顔には怒っている様子が微塵も感じられない。それで何故かより一層の恐怖を感じたノアドラは、とにかく頭を下げた。
「ごめんっ! 寝惚けてて近くに丁度いい抱き枕があったもので……それで……」
「おいこら人を安眠グッズ扱いすんなボケ」
そういうことどころか最早人扱いされていなかったことに対してブチ切れかける少女。
だが、気を取り直したのかノアドラの腕の中からすり抜けるように脱出して無事に着地すると、ノアドラ達に向き合った。
「まぁいいや。――久しぶり。昨日の今日で久しぶりと言うのも違う気がするけど」
――言って、少女の瞳の輝きはより強さを増した。
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