第30話「滲み出る黄金の悪意」

 見失った見境ナシ先輩の捜索をあきらめ、ミオクはノアドラの拠点に戻ることにした。

 帰ってきたところを問い詰めよう。……そう思っていたのだけど。

 だけど帰り際、嫉妬に任せてノアドラを追いかけた時とは気分が違った。心が軽い。体が動く。今にも天に昇りそうだ。

 世界が違って見える。今までの自分では思いもしなかった言葉が次々と出てくる。いや、それ以上だ。言葉では表しきれない気持ちまで、ミオクの中から生まれてくる!

 あれも言いたいこれも伝えたい。表すのではなく伝えたい。ああ、しゃべるにせよ魅せるにせよ、どうして気持ちを伝える方法は言葉だけなのだろう!


「ただいまー!」


 家に着くなり、ミオクは気分良く挨拶をした。

 満面の笑みを浮かべている。


「………………………………………………………………………………………………………」


 それを見て(ミオクの機嫌を直すために彼女からの逃走中に購入していた)ミオクの好物のモンブランを取り落すノアドラ。

 開いた口が塞がらないというより放心状態にある彼に抱きついてミオクに異質なものを見る視線を向けているのはレユネル。


「……? 幽霊でもいました?」


「……い、いや……っ!?」


 ミオクから視線を背けようとしていたノアドラだが、逆に彼女の手を取って抱き寄せ、その胸元を食い入るように見つめた。


「……のあせんぱいっ? つ、ついにわたわわたしのみりょくにきづいてくださったのですっ?」


 ノアドラに執着しているミオクは、やっと努力が報われたのかと顔を赤らめて縮こまる――が、その彼が尋常ではないほど深刻な目つきで自分の胸元を見つめていることに気づき、さすがに異変を悟った。


「……おまえ……これ……!」


「……何ですかそれ……え? ……お、黄金……?」


 黄金。ジェルダレアンに所属している彼女は、その存在も、その意味も、明細を知っている。無論、それをノアドラがさせないために動いていたことも。

 ミオクもノアドラに言われて気づくが、時既に遅い。

 彼女の黄金は、一目でわかるほどに大きく彼女を侵食していた。


「上着を脱げ! 今すぐに!」


 悲鳴にも似たノアドラの叫びに急かされて、ミオクは上着を脱いだ。

 それだけではあるが、硬い上着がなくなったことでミオクの体に浮き出た異変が服の上からでも明らかにわかるようになってしまった。

 右頬から顎の下、恐らくは胸にかけて――と、右腕の内側が金色に煌めいている。


「……そっ、そんな、白昼堂々他人が見てる前で……でも……」


「――っつ!?」


 だが、白昼堂々セクハラを仕掛けようとしていたノアドラは背後から迫るレユネルに背中を抓られて、身を竦めた。


「ノア。私が見てるからノアはあっちの部屋に行って正座してて」


 そのノアドラを、上から零度の瞳で見下ろすレユネル。


「……わ、悪かった。それじゃあ、おれはこっち行ってるから……」


 ドアを開け、ソファに座ろうとするノアドラにレユネルが、


「正座。忘れないでね」


「はい……」


 振り返ることなく、ノアドラは床に、速やかに座した。

 数分後。


「……で、どうだったんだ?」


「お腹から顔にかけてと、腕に付いてる」


 表面からではあるがレユネルが見た結果、ノアドラとレユネルに比べてかなり広範囲に広がっていることが判明したのだった。


「やっぱ……黄金か。ミオク、何か心当たりは?」


「言われましても……ありません。ここに来てからも、特にそんなのは……」


 やはり、心当たりがない。

 それを改めて確認したノアドラはため息を吐くが、思案顔のレユネルが手を挙げた。


「さっき、出かけた時に植えられたってのは?」


 バカな――と言いかけて、時間的にそこしかあり得ない事に気づく。




————————————————————


最後までお読みくださり、ありがとうございます!


この作品が面白かったら、応援、評価、フォロー、レビューをよろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る