清楚魔王とあんみつ勇者 第四章

災禍の制作者

第28話「影に起きた異変」

 ノアドラは逃げ出した。

 ミオクはそれを追いかけた。


「……あの見境ナシ先輩め」


 だが、ノアドラよりも戦闘経験・身体能力に優れている筈のミオクは、この街であっさりとノアドラに撒かれていた。


(……全く。まったく。どうしてあの人は、記憶を失ってまでノア先輩にベッタリまとわりつくんですか。しかもベタベタしてる時間が私よりも断然に多いし……)


 逃げられた理由はわかる。ノアドラの方がこの街に長く住んでいる分、彼には土地勘があるのだ。

 その点、この街に来たばかりのミオクは地図ではわかっていても慣れていないせいで追跡に手間取ってしまったせいで、ノアドラを見失った。

 逃げるノアドラを追いかけ始めた時点でミオクには分かっていたことだが、本気で逃げられると流石に傷つくものだ。

 空を見上げる。このサリカは外の天気を壁に反映しているらしく、厚い雲がかかる、どんよりとした灰色の空を映し出していた。

 空を見上げていた――だからか、ミオクはすれ違う人々に対し気を止めることはない。


「それ」は明確にミオクを狙っていた。


 だが、「それ」にミオクに対する敵意はない。空模様に加えてその敵意が無いからか、側に来てもミオクはそれに気付かなかった。

 すれ違いざま、「それ」はミオクにあるものを撃ち込んだ。


「……? 今、何か……」


 首元を気にするミオク。

 だが、そこに異変が生じていても、彼女にとっての違和感はほぼない。雨粒が」うなじに垂れたか、くらいしかないのだ。

 そして、何故か先程よりも明瞭になった思考の中、彼女はふと思う。

 ……帰ろう。

 体が軽い。ステップでも踏んでしまいそうなくらい、気分が良い。

 ピキピキと氷に水を垂らした時のように何かに対して亀裂の入る音が響いていたが、ルンルン気分で帰宅する彼女がそれに気付いた様子はない。


 ――彼女のその色白の肌には、いつのまにか黄金が宿っていた。




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