第24話「世界に生まれ出たことば」
「喰われる……? それって、私の髪みたいな……?」
レユネルが首を傾げると同時、纏めていない彼女の髪がはらりと彼女の胸の前へ。
その毛先は、今も変わらずに金色のまま。……いや、その範囲はこの前よりもかなり小さくなっている。
「そう。『黄金の痕(おうごんのきず)』――おれはそう呼んでるけど、お前のを見るとどうも違うみたいだな。……黄金の侵蝕? 黄金の呪い……まぁ、この際呼び方はいいとして」
はだけさせた服を元に着直しながら、ノアドラは息を吐いた。
「……『これ』はヒトに害を与える『モノ』だ。恐らくジェルダレアンに持ち帰っても、何かが分かる前に皆が殺される。……自覚はないか? 例えば、自分の頭の中なのに自分の意思じゃないヤツがいるとか」
一応彼自身が魔王と対話したり検証してみたりして分かっていることではあるが、そもそも彼らが置かれている現状が、誰も計画していなかったものなのだ。
「…………」
言われて、思案顔のレユネル。「……おかしいかな」「でも……」と小さく呟いた後、小さく顔を上げた。
「……この前、私がノアにちゅーをした時」
「……まさか、あれも黄金の仕業なのか……っ!?」
大きな声を出しかけて、ノアドラは慌てて口を噤んだ。まだ追っ手にこちらの居場所はバレてはいない。だが、あまり遠くにも行っていないのだろう。肌で感じる威圧感とノアドラの名を呼ぶ声――追跡者は、何かの核心を持っているかのようにノアドラ達の近辺から離れようとはしない。
「……ううん、違う」
先程からずっと大人しくしているレユネル。首を横にふる彼女の様子から察するに、「吸引」による効果は外見だけじゃない――そう思ってしまうが、そうではなかった。
「……私がノアドラにムラムラしている時、私の中でささやきかけてくるの。『お前のはただの願望だ。押し付けるような愛が本当に良いものなのか』って。止めようとしてくるんだよ。……だからこの前も切って離そうとしたのに、一瞬で生えてきちゃって。仕方ないから声を無視して――」
「お前どんだけ性欲強いんだ!?」
レユネルの予想外のバーサークぶり、精神の強かさに、ノアドラは悲鳴のような叫び声を上げた。
「…………あ」
そして、叫んで間も無くノアドラは顔面を青白く染め上げる。
その様子は染めるというより、脱色に近かったとその様子を見ていたレユネルは後に語るが――
「ノア先輩。鬼が逃げてる人を見つけた時、なんて言うんでしたっけ」
いつの間にか、二人のいる路地裏の入り口を塞ぐようにして人影が立っていた。
顔を青くして、足を震えさせて、「こっ、ここここここれはあああああ悪夢だそうに違いないいいいい!」と心の中でも怯えながら、その入り口に向かって振り返るノアドラ。
「……まったく、少し声をかけただけでどうしてそこまで逃げるんですか。ビラ配りに声をかけられた時もそこまで逃げなかったくせに」
その視線の先には、腰に手を当ててノアドラを睨み付ける、白髪の少女がいた。
レユネルと同い年かそれより幼く見えるその少女は、ちょうど彼女らの年代の少女達が着るであろう学生服を身に纏っている。
学生服や白髪の他に、腰に簡易装甲を装備した姿が特徴的な少女は、とても不機嫌な様子だ。
何しろこの場所でのかくれんぼを繰り広げた時間は四時間を軽く超える。これだけ走り回されて、さぞ怒っているのだろう――――いや、ノアドラは彼女が本当に怒っている理由に心当たりがあるからこそ、昨日ぶりに会う彼女の姿を見て怯えていた。
ノアドラが怯えるのは彼女の姿にではない。信じられないかもしれないが、彼女が関わってくることによって、彼女が命を落としてしまうかも知れないことについて、彼は恐怖していた。
そして、今のノアドラの現状を知れば、間違いなく彼女は介入してくる。下手をすれば
【ノアドラさん】
「……ッ!?」
反射的に、ノアドラは振り返っていた。
「……ノア?」
「……? ノア先輩?」
ノアドラの見る景色が見えていない二人が疑問符を浮かべるが、ノアドラは正直それどころではなくなっていた。
(おま……え……!?)
彼の中に宿る、強力存在。
清楚魔王――その思念体が、ノアドラに向けて言葉を発していた。
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