第19話「意思なき復讐者」

「まも、のが……?」


 記憶を失ったレユネルでもわかる。あんなおぞましいものが自分の目の届く場所にいるなんて、それ以上に恐ろしい事は無いのではないだろうか、と。


「そうだ。けど、魔物によって生み出された鉱石は魔物そのものって訳じゃない。虫が吐き出した繊維が衣服の材料として利用されるのと同じように、生み出された後は本当にただの鉱石だ。……これを見てみろ」


 そう言ってノアドラが差し出してきたのは、薄暗い六畳程の部屋に繭状の何かが鎮座する写真だ。コクーンに表示されたそれは映像データとして登録されているものではなく、紙に印刷された写真を撮影し、データ化したものらしい。

 それ自体、写真の端が黄ばんでいたり破れていたりと、かなり古い時代のものである事を窺わせる。

 しかし、レユネルはその繭の中身に、目が惹きつけられた。

 繭といっても、カプセルのように中に何かを格納しているから、その中身が気になったのだ。


(……何か、……人? 人に見える……?)


 それは体の大きな成人男性が、赤ん坊のように丸まっている姿にも見えて――


「……ってこれ、『魔人』……!?」


 逃げるのに必死で、しかも薄暗いの中はっきりとその姿を見た訳では無い。だが繭の中で蹲っているその人影は、レユネルを追いかけていた魔人の姿に良く似ていた。

 顔付きが、と言えばそうなのだろうが、そもそも魔人に顔なんてものがあるとは、レユネルには思えない。

 だが、それでは顔でおおよそ判断できるというレユネルの直感と矛盾する。


「……来たぞ」


 だが、それもその筈。

 魔人は、人相や体格で判断できるものではなく――


「道塞いだからどうするのかと思ったけど、やっぱり道筋通りに来やがった」


 ノアドラがわざと開けておいたこの巨大空間の入り口に、ゆらりと立つ侵入者が一人。

 先程道が塞がるというアクシデントによってそれは一時標的の姿を見失っていたが、その塞がれた壁を越えて行くという発想はそれにはなく、ゾンビのようにのらりくらりと歩いた結果、このノアドラ達がいる場所に辿り着いたのだった。

 ノアドラとレユネルを見据える二つの宝石が、天井に取り付けられた水光石の光を反射してキラリと光る。

 左右非対称の大きさを持つその石は、どうやら目としてではなく偶然顔の位置に持ってこられたものらしい。

 だが先程までの、のっぺらぼうに石がまばらに取り付けられたような、子供が作る雑な福笑い顔よりは幾分マシには見えるようになった。

 それは魔人。

 体の全てが硬くしなやかな鉱石で出来ている、いわば鉱石人間。

 人間で言うところの口に相当する部分に、他のどの石よりも美しく見える拳大のルビーが輝いている。


「……恐らくはアレが制御機構だ。壁を作り変えたりするチカラも、行動プログラムも、全部あの巨大ジュエルに封入されている」


 それを聞いて、レユネルは目を見開き、ノアドラに手渡されたコクーンの写真を再び見る。

「……制御、機構……プログラムって……!」


 掠れていて殆どの文字は読めないが、最後の方、コクーンの上に取り付けられたネームプレートから『……製造……機』という三文字だけは読み取れた。


「……ああそうだ。滅素の怨念を纏って数百年越しに復讐しに来たんだろ。……人間が欲しがる宝石を無尽蔵に吐き出すように、都合良く造られた『奴隷』! それがあの魔人の正体なんだよ!!!!」


 そう叫んで、ノアドラは魔人を真正面から睨む。

 ノアドラの咆哮に反応してか、魔人の口が怪しい光を帯び、魔人から溢れる滅素の波動が洞窟内を揺らした。




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