その後の物語⑥ ベルトルスの秘密

 私が目覚めた時、難しい顔をした店長が、私の顔をのぞきこんでいた。

「あっ!」

 私は、覗き込むスケベ店長にかまうことなく、体を起こすと、やはり、店長の額と私の額がぶつかった!


「いったぁ~~~~~~いっ! 店長、意外と石頭なんですね!」

 私は、額を抑え込む店長を見つめた。


「おまえ……!!」

 いきなり、店長が私を睨みつける。

「へっ?」

 なんのことか分からず、私は店長を、きょとんとしたような目で見つめる。


 店長の隣に、浮き上がったオヤジ声の赤ん坊、ジェムがいる。

 そして、そのさらに隣には、黒猫姿のウルファーが、鋭い表情で、なぜか私を見つめていた。


「ミランジェア! 紫の壺の封印をといたのは、お前だなっ!!?」

 店長が、なぜか、私を睨みつける。

「って、綺麗な天使の絵画の後ろに、何だか扉があったんで、そこを開けてみたんです。何て言うか、秘密めいた扉なら、誰だって開けたくなるじゃあないですかっ!?」

 私は、必死に言い訳をした。


 ……店長が怒っているのは、あの紫の壺を私が開けたからに違いない。

 しかし、あの壺から出て来た幽霊の男、変な事を言っていたよな。


 私が思い出していると、

「ベルティア~~~~~~~っ、また俺の子を産んでくれぇぇぇぇ~~~~~~~~っ!!」

 私の部屋の外で、低い男の声が聞こえてきたのだ。


 えっ?ベルトルスじゃあなくって、ベルティア? 誰、それは?

 私の頭の上には、疑問符が多数浮いていた。


「あの……店長。その、ベルティアって、多分店長のことだよね。子供を産んでくれって、その……店長って、男だよね?」

 私は、店長のその12歳ほどのお子ちゃまの体全体を見回した。


 どう見ても男の子の外見だ。

 だが、また、ベルティア、子供を産んでくれという声が、私の部屋の外から聞こえてくる。


「……最近、奴の封印が弱まっているのは分かっていたが、よもや、こんなことになっちまうとはな……」

 ベルトルスは、シリアスな表情で、考えに耽っていた。


「おい、ベル! この際だ、また子供を産んでやれよっ! そうすりゃあ、あの霊の訴えかけもおさまるってものだぜ」

 いきなりジェムが、とんでもないことを言い出したのだ。

 その瞬間、店長は真っ赤になった。


 えっ? ……何なに、この反応? 店長って、どう見ても男の子だよね。


 なのに、子供を産んだとかって、……。

「店長! 男なのにどうやって、子供を産んだんですか?」

 分からなかったので、私はたずねてみることにした。


「……っ!」

 しかし、あのにぎやかタイプの店長が、さらに真っ赤になり、黙り込んでしまった。


 もう、一体どうやって男が子供を産んだの? 私はますます、真っ赤になる店長を見つめる。


 私はしばし、店長を見つめていたのだった。が、恥ずかしいのか、店長は、何も語らない。


「はぁ~……。ミランジェア、俺から話すよ」

 ジェムが本当に仕方なさそうにため息まじりに言葉を綴る。


「ジェム! どうなっているのか、私全然分からないわ。ぜひ、話してちょうだい!」

 私は、ジェムの方を向いた。


 ジェムは宙に浮きあがり、その小さな赤ちゃんの両腕を組んでいた。

 仕方なさそうな表情で、ジェムが語り出す。

「ベルの奴は、昔、女に化けてた時、ゲオンを、心から愛したんだ。それで、3人の子を、その時のベルが産んだ」

「って、女にもなれるのっ!?」

 私は思わず、大きく目を見開いてしまった!

 

 そんな私を本当に仕方なさそうに見つめつつ、ジェムが言葉を続けてゆく。

「それで、ゲオンは勿論人なんで、ベルを置いて死んじまったさ」

「……って、店長やあなたは、人間じゃあないの!?」

 私は、ますます大きく目を、見開いた。

「そうだな。ベルは天使で、俺は天使から堕天使となった男だ。おっと!」

 そこでジェムが言いよどむ。


「出るもの出ちったぜ! 俺、オムツ変えてくる! あとはウルファー、お前が話してやれ」

 ジェムが言う。ジェムはオヤジ声でも赤ん坊なので、オムツに出るものが出たらしい。


 ジェムの言葉に、ウルファーは、一瞬で人間姿となる。

「ったく、面倒くせえな! ベルのヤローも、いい年してるクセに、恥ずかしがりやがって、気持ちわりぃな」

 ウルファーが低い声で呟いた。

 

 ウルファーは、片目だけれども、人間姿になると、とてつもなく格好良い♡


 いつも、なぜか私、店長の恋人みたいな言い方をよくされるけれども、私にとっては、本当はウルファーのような格好良い男が好みだ。


 ウルファーは、めちゃくちゃ格好良い。こんな男とデートしてみたいなと思っていると、

「お前、俺に惚れたか?」

 にんまりとウルファーが不敵に笑い、私を見た。


 何だか、小馬鹿にしているような感覚だ。

「惚れてません!」

 私は、頭の中を見透かされたかのようで、何だか気恥ずかしくなってしまった。


「まあ、いい。とにかく話すな。店長は天使族で、ジェムは堕天使。2人は永遠を共に生きる存在だ。

 俺も人じゃあねぇ。

 俺はもともと、狼だったが、300年生きたら、化け狼になって、人や猫にも化けれるようになったんだ。

 俺が殺しの仕事をするのは、人姿の時だけと決めている。それもこれも、本体は狼なんで、本体か猫姿でいれば、警邏の連中に見つからずに済むからだ。」

 ウルファーは、まず自分語りをする。


 へぇ~、店長は天使で、ジェムは堕天使、そしてウルファーは、歳を経た狼ってわけなんだ。


 ……みんな長生きなのねぇ~……。世界には沢山の不思議があるって、よくおばあちゃんが話してくれてたけれども、不老不死の人と、ものすごい年月生きてる人がいるって、世界はほんと、広いわぁ~……。


 私は、思わず店長とウルファーを見比べた。


 さらに、ウルファーは話しはじめる。

「ベルと結婚して子をもうけたゲオンなる男の霊は、深く深くベルを愛していた。

 そして、死んだ後、生まれ変わるのをやめて、霊のまま、ある時ベルの前へ現れたんだ。

 奴にとって、ベルティア、あ、ベルトルスの女名なんだが、と夫婦で暮らしていた時が、あまりに幸せ過ぎて、またベルに女になってもらって、自分の子を産んでもらい、一緒に夫婦として過ごすこと、それが奴の夢なんだ。


 霊として現れたゲオンは、それはそれはしつっこく、ずっとベルを追いかけ回していた。そうして、何度も俺――ゲオン――を生き返らせて、そしてまた子を産んでくれと、しつっこく迫った。


 だが、ベルは既に男に戻っていたので、それを拒んだ。

 だが、ゲオンのヤローは、それでも納得せず、ずっとしつっこくしつっこく、ベルにつきまとった。


 嫌気がさしたベルは、ある時、壺にゲオンの霊を閉じこめたんだ。

 そうして、長い年月、壺に封印してあったんだ。が、ある時、封印が弱まり始めて、おまけに嬢ちゃんが壺の封印をといちまったんで、それでまたゲオンの霊が現れたんだ」


 なるほど……。そうだったのか。……店長の元夫……。結婚生活を営んでいた人。

 そう理解したのだが、その瞬間、何となく心がモヤモヤしてきた。店長のことは、普段何とも思わないのに、なぜか、イライラしてきた。

「嬢ちゃん。やっぱり、イライラするよな」


 ウルファーが、分かりやすく顔に出てしまう私の表情を読み取った。

 でも、私、何でイライラしているんだろう? 店長のことは、まだほとんど何も知らないのに、何か変だ……。


 でもね。

 とにかく……。

「じゃあ、私がゲオンを説得するから!」

 私はイライラの感情を抑えて、ゲオンの霊が出かけている壺の方へと歩き出す。


「そうだよな。やっぱり嬢ちゃんは、ベルの女だもんな」

「違うって!!」

 私は、にんまりとからかうかのように笑うウルファーを睨みつけ、壺のある所へと歩いていく。


 私は、壺の前へ来ると、白いゲオンの魂へ向け、言葉をかけた。

「ゲオンさん! 店長が愛おしいのは、聞いて分かったわ。

 でもね。今は、店長は男として過ごしているの。だから、店長の邪魔はしないでほしいの」

 ゲオンの白い魂は、ゆらゆらと揺れつつ、黙って私の目を見つめた。

「……そういうことなんだな」

 ゲオンの霊が、寂しそうに言葉を綴る。

 えっ? そういうことって、何で私を見て、そんなことを言うのかしら?


 私が内心疑問に思っていると、

「ミリファエル。せいぜい、ベルトルスを大事にしろよな」

 訳の分からない発言をしたのだ。って、ここでまた、名前を間違えられたっ! 私、ミリファエルじゃあなくって、ミランジェアなんですけどっ!


 私はまたもや、疑問符を浮かべる。本当に店長のことは、知らないからだ。


 私が疑問だらけの頭でいたら、店長が黙ってこちらへ来る。

「ゲオン。もう成仏して、生まれ変われ」

 静かに店長が言った。

 それから、

「だって、お前がそんなことしてっと、俺、ミランジェアちゃんに抱き着いて、いい匂いをふんふん嗅いだり、彼女のおっぱい触ったり、おパンティーを覗き見たり、イチャラブ♡したりってことができないんだもんっ!♡」


 なっ……! なんですって!!? そんなスケベなことでこいつ、頭いっぱいだったんかいっ!!? こいつに関しては、一億年経っても好きにならないからっ!!

 私は、怒りで鼻の穴が開いていくのを感じつつも、このエロガキの店長を睨みつけた。


「……そうか。ベルティア。お前、今がとっても幸せなんだな」

 ゲオンの霊は、本当に寂しそうに声をあげた。


 それから、なぜか、彼は私を睨みつけ、言葉を綴る。

「でも、俺絶対に諦めないからなっ!」

 ゲオンは、非常に頑固だった。


 そんなゲオンに、ベルトルスは、古語の入り混じった複雑な呪文を唱える。


 すると、今まで現れ出ていた白いゲオンの霊の半身が、紫色の壺の中へとすっと、入り込んでいったのだった。


 それから、店長は壺へ蓋をし、急いで真っ赤な自分の血で護符を書くと、その護符を張り付けた。

「よっし! これで封印おわり! それじゃあ、これからずっとミランジェアちゃんとのイチャラブ続けていくぞぉ~~~~~~っ!!!」

 店長がギラ目で、私を見た。


 それから、私のスカートをめくろうとしたため、

「なにすんのよ、このエロガキがぁ~~~~~~っ!!!」

”バチンっ!!“

 私は、このエロガキの左頬に、ものすごい勢いで、ビンタをかましてやったのだった。


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すれちがい――最強美少女は秘密を持つ―― 如月 架叶 @amaterasuindevil

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