その後の物語⑤ ミランジェアの夢
そこは、ダンジョンの中だった。
そのダンジョンの中を金苔が照らし、ダンジョンの様子を映し出している。
私は、いつの間にかダンジョンの中に立っていた。
いやだ……いつ、ダンジョンになんて入ってきたんだろう? ……私はまだ戦いはできないっていうのに……。
今までの記憶をたどろうとするのだが、記憶をたどろうとすると、なぜかお子ちゃま店長ベルトルスの顔が浮かび上がる。
私はなぜか、ダンジョンの中を歩いていった。
その先に小さな、妖精しか通れないようなドアがあったのだ。
「開けるな!」
私がその小さな可愛らしいドアを開けようとしたその瞬間、私の頭の中に店長の声が響き渡る。かなり切羽詰まった声だ。
え――――――いっ! 店長の声だから、開けちゃえ!
私の心を、いたずら心が支配し、私は、その小さな扉を開けた。
すると、その扉の奥から、紫色の煙がモクモクと出てきたのだ。
「けむ……くないっ!!?」
私は思わず目を見開いた。
その煙は、けむそうに見えるのだが、私がいくら煙を吸い込んでも、けむくならないのだ。
「……あ~あ、ついに開けちゃったかぁ~……」
その煙が上がる中、私の頭の中に、店長の声が響き渡った。
その煙が晴れていくと、そこには紫色の不気味な壺が置いてあった。
壺の大きさは、だいたい私の膝ぐらいまでなので、それほど大きな壺ではない。
その壺の蓋が浮き上がったその瞬間、その壺の中から、真っ黒い人影がゆらりと現れた。
ランプの魔人みたいに、願いを叶えてくれるのかな?
私は、期待してしまった。あれはランプで、こちらは壺だが、魔人でも現れたのかと思い、
「私の願いっ! 年上の素敵な彼ができますようにっ! それと、おなかいっぱい貴族が食べるようなお料理を食べれますようにっ! それと、便秘が治りますようにっ! それと、あと少し痩せて、今よりも綺麗になりますようにっ! それと、水虫が治りますようにっ! それと……」
「ちょっと待った!」
黒い人影がゆらりとゆらぐ。
人影を見てみると、目も口もなく、ただの黒くて大きな人影だ。
その人影が、壺の中から現れ出ている。
「お嬢さん、俺は願いを叶えてくれる魔人じゃあねぇぜ!」
影から『声』がする。
「それに……そんなに沢山の願い、お嬢さん、欲張りすぎだ! もし、俺じゃあなく、魔人が出てきても、きっと、魔人もびっくりしちまうぜ!」
「フン! 欲張りで悪かったわね! それ! ミランジェアスペシャル!!!」
そう言ったその瞬間、なぜか私は影へと尻を向け、
“ブゥゥゥゥ―――――――――っ!!!”
その魔人もどきの大きな黒い人影へ向け、屁をぶっこいたのだ。
「うわっ……うわぁぁぁっ! くっせぇ~~~~~~~~っ!!!」
それから魔人は、紫の壺の中に引っ込んでしまい、自ら壺の蓋を閉めたのだった。
そこで私は目を開いた。
「あれ?」
私は、思わず起き上がる。
そこは、いつもの私の部屋だった。
店長が私の寝込みを襲ったりすることなく、今は平和に過ごしている。
夜はウルファーが、しっぽで店長を縛って店長は壺の中に入れられているため、私はいつも店長にいたずらされることがないのだ。
「何だか変な夢を見たな。おならで魔人をやっつけちゃうって、どんな展開の夢なんだ!?」
私は、自分の見た夢だが、呆れてしまった。
この16歳のうら若き乙女の私が屁をこくって、……現実には、あんなに凄い屁は出はしない。
私が夢の内容を思い出していると、
「おい、朝飯だぜ!」
ジェムがノックして、私を呼びにきた。
「今日は、朝食当番、ジェムなのね。もうすぐ行くからね!」
そう言って私は普段着に着替えると、1階にある食堂へと降りていったのだった。
「……」
ベルトルスは、なぜか難しい表情をしていた。
ジェムが作った目の前の卵焼きと温められたふかふかのパンにも手をつけず、難しい表情をして、考え込んでいる。
「どうしたの?」
いつも、朝は私の胸を触ろうとしたり、髪を触ろうとしたりしてくるのに、今日はそれがない。それが寂しいってことじゃあないのよ。私は、今朝は、ちょっかいを出されなくて、助かっているの。
ただ、ベルトルスが、何だかいつもと様子が違っているから、ちょっとだけ心配になっただけ。
「……いや、何でもない」
しかし店長ベルトルスは、私に対し、難しい表情のまま、そう言った。
ある。何かある。絶対に……。
結局、店長は、ダンジョンの深淵にある呪われた王冠を取りに行くとかって、ジェムといっしょに2人で遠くのダンジョンにテレポート魔法で出かけていってしまった。
今日は、私が店番をすることとなった。
この店猫壺堂には、魔法の薬を求め、沢山の人々がやってくる。
店長が店を出しているこのパールヴァルの街は様々な場所から人が集まる商業都市で、沢山の人が、この猫壺堂に、癒しの薬を求めて集まって来る。
私は、今日は店長とジェムが作った癒しの薬を求めて来る人に売ることを任されていた。
その日は、ずっと人々に薬を売り続けていた。
それから、今日は『無事に』過ぎていった。
というのは、たまに高額の金を持って、暗殺の依頼も来るからなのだ。
その依頼を受けると、ウルファーが人間姿で秘密の部屋で話をすることとなる。
警邏に見つからぬようにしているウルファーはとても用心深く、秘密の部屋で、依頼を受けるのだった。
ああ、今日は、店長が出かけてたんで、胸とか触られそうにならなく、平和だったな。
私は、平和な気持ちで店じまいをしていた。
店じまいをしていたら、美しい絵画が飾ってあり、思わず見とれてしまった。
その絵には、美しい女性の天使が描かれていた。
私と同じピンク色の髪をして、金色の目を持つ美しい少女の天使だ。
誰が描いたのか分からなかったが、店に飾られていたので、その天使の美しさに私は見とれてしまった。
同じ女性なのに、彼女のあまりの美しさに見とれてしまっていた。
ウルファーは、相変わらず壺の中に入っている。
時々、ウルファーのモフモフとした毛並みを触っていく女性たちがいる中、ウルファーは、あくびをしながら、退屈そうに、そんな人たちを見ているようだった。
その美しい天使の絵は、夕暮れに照らし出され、さらにその天使が色っぽく素敵に見えた。
「……素敵な天使ね……」
私はますます首を近づけ、その途端、つまずき、絵に当たってしまった!
すると、天使の絵画が左にゆれ動く。それから何とその大きな天使の絵の後ろに、隠し扉があったのだ。
小さな隠し扉だった。が、私がくぐれるぐらいの大きさだったため、私はその絵をどけると、試しにその隠し扉を開けてみた。
すると、その中には、沢山の壺が入っていたのだ。
そして、何とその中に、私が今朝見た夢と同じ紫色の魔人のような黒い影が出てきた壺があったのだ。
私はその壺が何だか知りたくなり、好奇心がおさえられなくなった。
その壺をよくよく見てみると、夢とは違っていた。
何かを封じているのか、その紫の壺の蓋の所には、キョンシーの額に貼ってあるかのような、黄色に赤い字で何かが描かれた霊符のようなものが貼ってあったのだ。
その壺が左右にゴトゴト! と、揺れ動いた。
この紫の何かが封印された壺と、店長の難しい表情は、関係あるのだろうか?
この封印は、絶対に外しちゃあだめなものらしく見える。……しかし、ダメなものであればあるだけ、好奇心が募ってゆく、というもの。
私は、好奇心を押えることができなく、そのキョンシーの額に貼ってあるかのような札をはがした。
次の瞬間、ひとりでに壺の蓋が取れ、そして夢で見たような、紫色の煙が出てきたのだった。
夢と同じように、紫色の煙は煙くはなかったので、私は壺をよくよく、眺めていた。
そして、紫色の煙が出終わってから、今度は、黒ではなく、白っぽいものが出てきたのだ。
「……っ!!」
私は、恐ろしさに、目を大きく見開いた。
冒険者らしい真っ白い男が、壺から上半身を出しているのだ。
その男は大柄で全体が白く、それが幽霊であることが一目で分かった。
「いやぁっ、幽霊っ!!!」
私は思わず、声を上げた。
「どうした!?」
私の悲鳴を聞きつけたウルファーが猫姿のまま、私の元へとやってきた。
「ベルティア~~~~~~~……。また、俺の子を産んでくれぇぇぇ~~~~~~~~……」
幽霊が物憂げに言葉を出したその瞬間、私は恐怖のあまり、失神してしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます